多様性のある社会になれば、自分の生きづらさが減ると勘違いしているあなたへ。

拝啓
 

時下、ますます生きづらいことと存じます。
 

生きづらさに関するWebマガジンを運営していると、日々多くの方から「自分はどれだけ生きづらいか」や「社会が自分の生きづらさをどれだけ理解していないか」といった内容の連絡をいただきます。
 

私の基本的な考え方は、以前にも「普通すぎて生きづらい」「わかりあえないことを、わかる。ダイバーシティという言葉の意味と罠」というコラムを書かせていただいた通り、どれだけ生きづらさを訴えられても「わかるわけないだろ」というのが基本スタンスです。
 

そんな私ですが、あなたやあなたの仲間たちが強く訴える、多様性のある社会、ダイバーシティ社会を実現することには賛成です。これからの時代、多様性は非常に重要なテーマであると感じています。しかし、あなたやあなたの仲間の方々が考えている多様性やダイバーシティと、私の考える多様性やダイバーシティの認識に相違があると感じ、筆をとりました。
 

まずは私の考える多様性やダイバーシティについてお伝えさせていただきます。私が考える「多様性のある社会」とは、互いの違いを認めたうえで生活している社会です。健常者と障害者は違う。身体障害者と精神障害者は違う。アメリカ人と日本人は違う。仏教徒とイスラム教徒は違う。違うという前提に立ったうえで生活をする社会です。
 

20151202③
 

さらに、多様性と生きづらさについても私の考えをお伝えしておきます。
 

私は、多様性のある社会を実現するには、社会全体の生きづらさの総量が今よりも減る必要があると考えています。ここで大切なのは「社会全体での生きづらさの総量」が減るという点です。決して、一人ひとりの生きづらさが今よりも減るわけではありません。少しわかりにくいかと思いますので、例をあげて説明致します。
 

ここに10人の人がいます。仮にAさん~Jさんまでアルファベット順で名前をつけましょう。10人の現在の生きづらさの数値が以下の値だとします(生きづらさ値は0~100まで、大きい方が生きづらいとする)。
 

Aさん:25
Bさん:20
Cさん:10
Dさん~Jさん:8

 

この場合の社会の総量としての生きづらさは、25+20+10+(7×8)=111となります。多様性が実現した社会においては、それぞれの生きづらさの値は以下のように変化します。
 

Aさん~Jさん 10

 

この場合の社会の総量としての生きづらさは10×10=100です。「111→100」と生きづらさの総量は減っています。
 

では、個人別ではどうでしょうか?
 

Aさん:25 → 10
Bさん:20 → 10
Cさん:10 → 10
Dさん~Jさん:8 → 10

 

Aさん、Bさんは多様性のある社会になり生きづらさが減りました。Cさんは変わらず10のままです。ではDさん~Jさんの7人はどうでしょうか?8から10へ生きづらさが上がっています。多様性のある社会になったことで今までよりも生きづらくなってしまいました。しかも10人中7人も生きづらさが増しています。

 

私は、多様性のある社会が実現すれば、今よりも生きづらさが増える人も少なくないと思っています。恐らく、一般的には健常者と呼ばれる私は、今回の例でいえばDさん~Jさんのいずれかになる可能性が高いと感じています。今は配慮してない事柄についても配慮する必要がでてくるかもしれません。自分勝手で独りよがりなワガママ意見が通らなくなるかもしれません。そうなれば、私自身の生きづらさは増してしまうのです。
 

自分の生きづらさが増すから多様性のある社会に反対かと言われれば、決してそうではありません。確かに生きづらさは増すと思いますが、社会としては必要なことだと思いますし、今ここで多様性のある社会への歩みを止めてしまったら、将来はもっと生きづらさの増した社会になってしまうと思っているからです。

 

20160222

 

多様性のある社会では、一人ひとりが社会の多様性を高め、お互いの多様さを引き出せる状態になっている必要があるのです。決して「マイノリティな自分の主張を通すこと」が多様性のある社会ではありません。「ハンデがある自分は配慮されて当然だ」と思っている人が多い社会でもありません。
 

今の社会で「多様性がないから生きづらい」と思っている人に社会が歩みよるだけでなく、生きづらい人も社会に歩みよりながら、社会全体としての多様性を高めていくことが必要です。
 

私の意見ばかり書いてしまいましたね。失礼しました。
 

機会があれば、あなたやあなたの仲間のみなさまとも直接お会いして、多様性のある社会の実現についてお聞かせいただければ幸いです。そのときは是非「自分の主張を通すこと」や「自分の大変さばかりを述べること」がないようにお互い注意しましょう。そこを注意しないと多様性のある社会なんて実現できませんので。
 

末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。
 

敬具
 

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この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。