12月1日「世界エイズデー」に考える、日本のHIV事情

1年ぶりの原稿になってしまいました。といいますか、毎年この時期に現れるので、プラハンの季節労働者として扱われそうな予感がしています。今年は日本エイズ学会の開催地が鹿児島で、一瞬そちらに行って戻ってきて、エイズデーの準備というような感じになっています。
 

もうすぐクリスマスという時期になると、原稿を書かなきゃという気持ちに。
もうすぐクリスマスという時期になると、原稿を書かなきゃという気持ちに。

 

12月1日は「世界エイズデー」となっていて、日本のHIV/エイズを取り巻く状況をこの機会に目を向けていただけるといいなと毎年思っているのですが、日本の現状でちょっと気になっていることがあります。実は、保健所でのHIV検査の件数がかなり減っているのです。
 

去年の10月に書いた「ベッドの上で病気の話ができるのか」でも触れているのですが、今では、HIV陽性者の中で薬によってウイルスをコントロールしている人については、感染リスクがほとんどない状態になっています。しかし、毎年日本では1500名ほどの方が新たに感染しているとわかっていて、その横ばい状態が何年も続いています。
 

つまり、HIVに気づいて治療が始まると感染させることができなくなりますが、感染していることに気づいていないときに他の方に感染させてしまう。そして、感染させた相手が今度は気づかないうちに…というパターンがある程度存在しているのではないかと考えられます。したがって、検査件数が少なくなるという状況は、この連鎖を止められないことにつながる、とても気がかりなニュースなのです。
 

平成27年の保健所での検査件数は96,740件で、平成18年以来の10万件割れ。そして今年の1月から9月については、昨年の同時期と比べて、さらに落ち込んでいるのです。日常生活にさほど支障がない状態で陽性が判明した身としては、早く発見することの大事さを良く分かっているので、世界エイズデーをきっかけにして検査してみようかなと思ってくださる方が一人でも増えたらいいなと思っています。
 

ひとりでも多くのひとに検査を受けてもらえれば。
ひとりでも多くのひとに検査を受けてもらえれば。

 

その一方で、エイズデーが12月1日であるというタイミングはどうなんだろうと思うこともあります。
 

エイズデーをきっかけに、12月1日前後の検査で陽性だとわかったとしたら、HIV診療が可能な病院でウイルスや免疫機能の状態を検査し、その検査結果を受けてどんな薬を処方するかといった治療方針を決めるのですが、これがクリスマスムード真っ只中の年の瀬にやってきます。そんなクリスマスプレゼント…となるわけです。
 

いざ治療となっても、障害者手帳を取得し、更生医療を受けることで薬の費用負担を軽減させる方がほとんどなので、その手続きには時間がかかります。治療を始めることなくお正月を迎えたりすることも想定でき、メンタル的にはあまり良い時期ではないな、とも思っているのです。毎年必ずこうしたタイミングにはまって辛い思いをする人がいるので、もうちょっと街中が浮かれてない時期に検査を促進したほうがいいんじゃないかなと。
 

ちなみに東京都は6月がエイズ検査月間(エイズデー周辺は予防月間)なのですが、エイズデーに比べて認知度はかなり低いように思います。万が一陽性の時に不安な気持ちで越年するのはちょっとという方は、12月半ばに受けるよりは年が明けて落ち着いた時期のほうがいいのではと思います。
 

タイミングの良し悪しはありますが、とにもかくにもセックスしている方であれば、検査を通じてHIVの知識がアップデートされたり、ほかの性感染症の検査も合わせて受けられる場合があるので、ぜひ一度はHIV検査を受けることをオススメします。
 

12月1日は「世界エイズデー」と覚えておいてください。
12月1日は「世界エイズデー」と覚えておいてください。

 

また、もうひとつ、最初に触れた部分にもつながりますが、HIV陽性であっても薬でウイルスの増殖を抑えきっている場合は、他の人にHIVはほぼ感染しないという事実も、広く知られてほしいなと思うところです。
 

これを僕ら当事者が言うと「お前らヤリたいからそんなこと言うんだろう」と思われてしまうかなという懸念はありますし、実際そのように言われてしまうこともあるのですが、もしも検出限界以下に抑えている僕らの体液からHIVに感染する人がいたならば、その人は免疫機能が破壊的に低下している(HIV感染していないのに)方ですので、HIV感染のリスクとか考えるような状態ではないはずです。そもそもセックスどころではないでしょう。
 

もちろん他の性感染症は防げないので、コンドームを使うなどセーファーセックスには注意していますが、万が一コンドームが外れるなどの失敗があっても、HIVを感染させてしまうリスクがないということは、僕にとって薬を飲み続けるモチベーションのひとつです。僕自身がそうした失敗の何回かのうちのひとつで感染しているからです。
 

感染拡大の予防(Prevention)のために治療をする「Treat as Prevention(TasP)」という考え方があることをこの機会にぜひ知ってもらえたらと感じています。
 

エイズ学会では、ある講演でTasPのTはTreat(治療)だけではなくてTalkやThinkのTであっても良いのではと語られていました。エイズデーシーズンのイベントはこちら(http://www.ca-aids.jp/event/)にまとめられていて、これから開催されるものもあります。ぜひこの季節にHIVについて考えたり話をしてみていただければと思います。
 

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この記事を書いた人

桜沢良仁