ベッドの上で病気の話ができるのか?

先日、カミングアウトウィークに関連したコラムをというお話を編集長よりいただきまして、去年、職場でのカミングアウトの話は書いたしどうしようと思ったのですが、HIV陽性者にとってカミングアウトするかしないか、職場以上に判断を求められるのが恋人やセックスパートナーへのものなので、それについて書こうと思います。
 

結婚や同性パートナーとして末永く一緒にいる方向であるならば、自分の健康状態に関する情報ですから、どこかで伝える(カミングアウトする)ということもありそうですが、そこまでの関係ではまだないけれど、性的な関係にはなる、という状況ではいろいろと考えます。
 

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数年前に、ドイツで衝撃的なニュースがありました。人気ガールズユニット「ノー・エンジェルス」のメンバーの一人が、HIV感染を伝えずに性的な関係をもった相手にHIVを感染させたとして傷害罪で逮捕されたのです。
 

判決を報じたロイターの記事によると、執行猶予付きの禁固2年の判決。
http://jp.reuters.com/article/2010/08/27/idJPJAPAN-16981520100827
 

この逮捕のニュースが流れた時には、HIV陽性者がセックスの相手に陽性の事実を伝えないなんてありえないという意見をネットなどで多数見かけたのですが、この記事のポイントは「避妊具をつけずに」というところにあると考えています。
 

「避妊具をつけずに」という表現ですが、当時このニュースを報じる別のメディアでは「避妊をせずに」となっていて、僕は当初「避妊するかしないかがなぜ焦点になるんだろう」と思ってしまったのですが、すぐにこれは「コンドームを使わない」ということなんだと思いました。「予防行動をとらずに」とか意訳できなかったのかな、と思ったものです。
 

実際、HIV陽性であることを伝えるかどうかに関わらず、コンドームを使うことができれば相手に感染させずに済みます。何も言わずにコンドームを使ってくれる相手ならば、必ずしもカミングアウトをしなくても感染させることはまずないですし、ベッドサイドでのいい雰囲気をわざわざ病気と性感染症のリスクの話題でぶった切ることもありません。
 

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しかしながらここで問題になるのは、セックスの相手が「基本的に性感染症の予防をすることなくコンドームなんか使わないが、相手がHIV陽性者だとさすがに考える人」だった場合です。
 

人によっていろいろと考えることはあると思いますが、僕だったら、この人とのセックスはむしろ僕のほうにリスクがあるように思えてしまいます。
 

僕は抗HIV治療をしているので、体液中のウイルス量は薬により抑制されていて、感染させにくい状態になっている一方、相手がほかの人から何らかの性感染症をすでにうつされていた場合、免疫機能が一般の方より低い僕が、この相手から性感染症をもらう可能性はそれなりにあると思われるからです。そのリスクを計算することすら面倒になるくらいですね。
 

先述したドイツの歌手の事例では、病気のことを知られるのが怖くて言い出せなかったようですが、その一方で関係を壊すこともできない程度に深い仲にはなっていた(少なくとも女性歌手はそう認識していた)らしいので、お互いがどんな関係にあるのか、その関係をどうしたいのかという思惑が絡まると、何もせずにバッサリと別れることもできないんだなと思った記憶があります。僕がそれだけ性的な関係にドライということかもしれないのですが。
 

ちなみに、僕の場合、何もしなかったときにホテル代がバカバカしいので、ホテルにチェックインする前に伝えたことはあります。その時の相手の返答は「まあそういうこともいまどきあるよね」でした。
 

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現在、HIVの領域では、「予防のための治療」という考え方が広がりつつあります。つまりHIV感染が分かった人はできるだけ早期に投薬してウイルスを抑制し、もちろんセーファーセックスはするのですが、コンドームが破けるなど万が一失敗したときでも感染リスクが極めて少なくなるようにしようという考え方です。
 

実際投薬の開始時期はどんどん早期になってきているので、今一番リスクが高いのは、実は「HIVに感染しているが、自分自身が気がついていないために当然治療もしていなくて体内でHIVが増え続けている人」です。なので「相手がHIVだとわかっていたら予防しました」なんて話はそのうち通用しなくなると思います。
 

もっとも、相手のために陽性者は陽性の事実を伝えることが当たり前であるかのような言い分の人に限って、感染が分かった人には「自分がリスキーなことをして感染したんだから…」とか言ったりするんですけど、そういう人については、HIVを特別な人たちの病気にしたいのだなと思うことにしています。
 

一方で、治療でウイルスの増殖を抑制しても、リスクが完全にゼロになるわけではありません。僕ら陽性者の側もその点は忘れないようにしつつ、自分にとっても相手にとっても楽しいナイトライフを過ごせるようにしていきたいなと思っております。
 

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この記事を書いた人

桜沢良仁