いつか僕は『元HIV陽性者』になれるのか?

先日Plus-handicapの一般社団法人設立のパーティーに行ってきたのですが、佐々木代表理事の挨拶の中でスライドを見て「・・・・プラハンのロゴって、親指の付け根から鮮血が噴出しているようにも見えなくもないな」とか思った桜沢です。詳しくはサイトの左上を見てみてください。
 

パーティーの様子。ライター陣集まってます。
パーティーの様子。ライター陣集まってます。

 

僕は、HIV陽性者であって、エイズ患者ではありませんが、なにぶん、血液の中にウイルスがいるので、出血とかにはどうしても過敏になるところがあります。とはいっても、僕の場合、HIVは血液検査の検出限界値以下にまで減っているので、僕の血液についてはウイルスの量として他の人に感染させるリスクは低い状態になっています。
 

これはもちろん、抗HIV薬の服薬によるものです。毎日の服薬と2~3ヶ月に1回の通院。これが僕のHIV感染症の治療の全てです。通院の頻度は人によって異なりますが、ウイルスのコントロール状況が良いうえに合併症とかも大きなものはないので、いまのところ月1回医療機関に行くという状況にはなっていません。
 

そこまで抗HIV薬の効果があるなら体内から駆逐できそうな感じもしますが、この治療法で体内からHIVが消えるまでには、およそ73年かかると言われています。
 

前回の記事をお読みの方は、「なんでエイズが見つかって30年くらいなのに73年とかいう数字が出てくるんだ」と思うかもしれませんが、これはHIVが潜伏している細胞の数が半減するのにかかる期間から推定した数字です。半減期ってやつですね。まあさすがにそれは寿命と変わらん、ってことで、服薬治療は一生ものということになります。
 

HIVを完治させるための方法としては、造血幹細胞移植が有力と言われてきました。
 

HIVは細胞の中に潜伏して増えるため、なかなか駆逐できないのですが、潜伏するために必要な細胞のパーツが欠損している方がごく稀におられるので、その方をドナーとして造血幹細胞を移植すると、HIVが細胞の中に潜伏しにくくなるため、増えることができなくなるという理論だと僕は認識しています(非常にアバウトな解説になることをご容赦ください)。HIVと白血病を両方お持ちの方の治療のために造血幹細胞移植をしたところ、手術に当たり中断した服薬をそのまま中断し続けてもHIVが出現しなかったことから注目を集めた治療法です。
 

ですが、2例目、3例目は一定期間後にHIVが出現したと報じられた上に、そもそもこの移植手術は死亡率も決して低いわけではなく、薬で生涯にわたって抑え込める病気の治療にそこまでのギャンブルが必要かどうかは疑問です。
 

この造血幹細胞移植で得られた情報から、HIV陽性者自身の細胞を採取して遺伝子編集をして身体に戻す、という遺伝子治療も研究されています。他人がドナーとなっての移植に比べれば、まだ安全性はあると見られています。ただ、「確実に完治する」を目指すのであれば、まだまだ研究はこれからといえるレベルかと思います。
 

r.nial.bradshaw
r.nial.bradshaw

 

当事者らしく、こうした治療技術の話題にも常にアンテナを張っている、といえば聞こえは良いかもしれませんが、僕の場合、ぶっちゃければ、好奇心からこういうニュースを拾っています。もし、研究のためにサンプルとなってくれと言われたら、僕はホイホイ手をあげたいタイプですが、これは完治することを欲しているというより、最先端の医療に触れたいという欲求があるからです。ほかの患者さんのために自己犠牲の精神を、というよりも、たいへん申し訳ないのですが、まずは自分の好奇心だったりします。
 

一方、最新の治療技術に関心を持っているけれど、専門用語の壁などにぶつかってしまって、なかなか理解できないという当事者の方もいるはずです。研究に近い位置に当事者自身がいることで、直接理解できるまで説明を受けるチャンスもあり、また一般向けにどのように説明したらよいかを非専門的な視点から考えることも担える。被験者になる当事者の価値はそこにあるんじゃないかなぁと思っています。
 

陽性者自身が「HIVと共に生きることの専門家」として、HIVをめぐる様々な活動に加わることの重要性は、1994年にパリで開催されたエイズサミットで宣言されています。HIVに限らず、様々な疾病や障害、マイノリティーとしての属性を持っている人は、ひとりひとりが「その属性と共に暮らしていくことの専門家」なのだと思います。その専門家として自分なりのリアリティをお伝えする機会をいただいたことで、改めて自分のスタンスを再確認するこの頃です。
 

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この記事を書いた人

桜沢良仁