体育会系は生きづらい?ウザイ上司は体育会系?ひとくくりで語ることの怖さと愚かさ

日大アメフト問題でスポーツの負の側面にスポットが当たったと思ったら、サッカーワールドカップ日本代表の躍進で、スポーツの持つ良い力にもスポットが当たっています。なんだかんだスポーツは人を熱狂させ感動させる力をもったコンテンツだと思います。
 


 

世にはびこる”体育会系”のイメージ

 

サッカーのリフティングは最高2回しかできない運動音痴の私ですが、中学校から大学まで陸上部に入っていました。だからいわゆる「体育会系」の人間です。
 

皆さんは、体育会系と聞くと、どんなイメージを抱くでしょうか。
 

良いイメージだと、根性がある、体力がある、協調性がある、就活に有利、OBとのつながりが強いなどがよく挙がると思います。一方、悪いイメージでは、上下関係が厳しい、先輩上司には絶対服従、理不尽さに耐える、頭悪い、言いなりなどでしょうか。
 

体育会系出身の身として感じるのは、良いイメージも悪いイメージもどちらも正しいということです。ただ、いろいろなイメージがあるからこそ「体育会系は生きづらい」と思うのです。
 

体育会系を勝手に4分類してみた

 

体育会系を語るにあたり、まずは体育会系にもいろいろなタイプがあることを知っていただきたいと思います。私の独断と偏見により体育会系を以下の通り4つに分類しました。
 

体育会系の4分類 
1.セミプロ状態の”バリバリ体育会”
2.基本は学業優先の”まじめ体育会”
3.ほぼサークル活動と変わらない”一応体育会”
4.実は高校が運動部だっただけの”エセ体育会系”
 


 

それぞれの特徴を説明していきますと…
 

1.セミプロ状態の”バリバリ体育会”
 
 
いわゆる強豪の運動部です。部員の全員またはほとんどが高校からスポーツ推薦で進学し、寮に住んで、専属の監督やコーチがいて毎日のように練習がある部活です。大学の授業よりも試合や合宿が優先ということも少なくありません。本人も家族も学校関係者も「部活をやるためにこの大学に来た」という認識です。多少勉強が苦手でも「体育会〇〇部です」と書けば単位をもらえることもあるとかないとか。アルバイトも原則は禁止か、禁止していなくても現実的にそんな時間がないということが多いです。
 

イメージとしては早稲田大学野球部とか青山学院大学陸上競技部など。件の日大アメフト部なども”バリバリ体育会”の典型です。基本的に上下関係は厳しめですが、最近では帝京大学ラグビー部のように強豪と呼ばれる学校でもこれまでの上下関係から変化してきているケースも見られます。
 

2.基本は学業優先の”まじめ体育会”
 

全国大会に出るような強豪ではないものの、歴史があってOB・OG組織などもしっかりしているのが”まじめ体育会”です。国立大学やスポーツ推薦を取っていない私立大学の運動部などが一例です。学校全体としてのバックアップはそれほどないので、基本は授業が優先。本人も「この学校に行きたい」と進学先を決めた後に「部活をやりたい」と入部しているので、家族も「部活のために学校に行かせている」という認識はありません。そのため、多くの学生はアルバイトをしています。
 

イメージとしては東京大学野球部や、公務員ランナーの川内優輝選手の母校である学習院大学陸上競技部などです。
 

大学や部活によってはOB・OG組織が中心となって資金的な援助をしているケースもあります。私自身もこのタイプの部活でした。基本は学業優先ということもあり、私の場合は理不尽な上下関係はほとんどありませんでした(私がそういうことやる上級生とは距離を置いていたのもあるかもしれませんが)。
 

中には、かつての京大アメフト部のような全国屈指の強豪もあります。卒業生の組織がしっかりしていて試合や合宿には年配のOB・OGも顔を出すので上下関係は厳しめのところも多い印象です。
 


 

3.ほぼサークル活動と変わらない”一応体育会”
 

体育会ではあるものの、練習は週に2,3回以下、OB・OGも卒業したての人がちょっと顔を出すくらいで、そこまでしっかりと組織化されていないような体育会がこのタイプです。マイナースポーツの部活や学生数の少ない大学の部活、キャンパスが離れた場所にある学部単位の部活などが当てはまります。”まじめ体育会”との境界はけっこうあいまいです。
 

基本的には”まじめ体育会”と同じように学業優先ですが、大きな違いは競技志向なのかレクリエーション志向なのかです。”まじめ体育会”は競技志向が強く、”一応体育会”はレクリエーション志向が強いのが特徴です。合宿も練習のために行っているのか、飲み会のために行っているのかわかりません。漫画などにでてくる毎年一回戦負けで練習もろくにしない弱小野球部が大学でも続いているイメージです。
 

4.実は高校が運動部だっただけの”エセ体育会系”
 

「俺、体育会系だから。」と言いながら、よくよく聞くと高校は野球部だったけど大学では野球サークルに入っていたという人がこのタイプです。体育会というのは大学公認の組織です。自称できるものではありません。どれだけ上下関係が厳しくて練習がきつくてもサークルは体育会ではありません。ですが”体育会系”という表現は”系”なので間違っていませんね。意識高い学生なのか”意識高い系”なのかの違いみたいなものでしょうか。
 

私の大学にもサークルだけど部活よりも強いとか、社会人も含めた全国大会で優勝の常連になっているチームもありました。練習もめちゃくちゃ厳しいことで有名でしたが、体育会ではありませんでした。
 

“エセ体育会”の皆さんも”体育会系”とはいえると思います。ただ、一般的に認識のある体育会系出身というと、大学の体育会運動部出身者をイメージするのではないでしょうか。そういう意味では、社会のイメージと本人の自称”体育会系”との間に乖離があります。
 

勝手に体育会系を4分類してみましたが、実際にははっきりとわけられるものではなく、境界はあいまいです。また、同じ学校内に様々なタイプがあるのはもちろんのこと、同じ部活内でもタイプが混在しているようなことさえあります。
 


 

体育会系の噂「就活に有利」なのはどのタイプか

 

就活のときに知り合った他の大学の人などによく言われたのが「体育会系って就活有利だからいいよね」でした。当時は「何言ってんだコイツ?コネなんてねぇし」と思っていましたが、確かに有利になる部分はあったと思います。
 

体育会系が就活に有利になるのは「学生時代に力を入れたこと」がわかりやすいからです。しかもスポーツなのでプロセス(練習)と結果(試合)の関係性を語りやすく、「こんなプロセスを踏んだらこんな結果が出た。だからこの経験を活かしてこれからは…」という話しがしやすいのです。
 

さらに”バリバリ体育会”と”まじめ体育会”は普段から年上のOB・OGとも接しているので、敬語の使い方や社会人慣れしているという部分では有利になることもあるでしょうし、OB・OG訪問などを大学のキャリアセンター経由でなくても部活内だけで完結できる強さもあります。
 

ただ、体育会だからコネが使えるというのは、現在ではかなり限られていると思います。コネの存在は否定しませんが、コネが効く会社や業界は限られていますし、その恩恵を受けられる人は部活内でも数名です。
 

ウザイ体育会系上司はどのタイプか

 

やたらと飲ませる上司や、やたらと根性論の上司。最近は減っているかもしれませんが、まだまだ存在します。中には「うちの部署は体育会系だから」とか言っちゃうイタイ人もいます。
 

上司が体育会系4タイプのどれなのかは、正直、人それぞれ違うと思うので一概には言えません。”バリバリ体育会”や”まじめ体育会”でもそういう人はいますし、”一応体育会”や”エセ体育会系”の人にもいます。
 

怖いのは体育会系の人の中には”体育会系であることが自分のアイデンティティ”みたいな人がいることです。そういう人が体育会系であることを自称して「俺、体育会系だから」などとめちゃくちゃなマネジメントをしてしまうと、周囲の人にとって「体育会系=ろくでもない」という印象が広がります。
 

私も新卒の時の先輩が”一応体育会”の人でした。私が大学まで陸上部だったというと、飲み会のたびに「体育会系だからお酒強いでしょ。俺なんて合宿で毎晩吐くまで飲まされて次の日練習にならなかったからさぁ」と言ってくる最高にウザイ先輩でした。「うちの部活は合宿のときはほとんど飲まないんです」と言うと「またまた、体育会系なんだから飲み会は激しいでしょ」と言ってくる始末・・・バルス!
 

当たり前だけど体育会系だって色んな人がいる

 

体育会系をざっくり分けるだけでも4つに分類できるのですから、競技特性や個人の性格なども含めれば、一言で体育会系と言っても様々な人がいるのは当たり前です。別に体育会出身なことをアピールしたいわけでもないのに、体育会系と言われて勝手にイメージをつくられることで苦労している人もいます。
 

私みたいに根性ないし、上下関係なんてクソ喰らえだし、協調性のかけらもない体育会出身だっているのです。
 

体育会系へのイメージと社会の生きづらさの構図

 

一部の人が「体育会系だから」と自分で言ってしまうことや、周囲がレッテルを張ることで生きづらくなるという構図は、最近の障害者やLGBTなどの界隈でも似た状況にある気がしています。
 

とある同性愛者の方がTwitterで「最近のLGBTのメディア戦略にはうんざりする。自分は協力しない。」とつぶやいていました。
 

自称「LGBTを代表してメディアに出ている」人たちによって、社会におけるLGBTのイメージは醸成されていきます。でも、メディアに出ている人たちがすべてではありません。もしかしたら、メディアに出ている人こそ、LGBTの中では珍しいタイプの人かもしれません。LGBTという言葉がそもそも4つのセクシャルマイノリティの頭文字なので、その中に様々なタイプがあってもなんら不思議ではありません。
 

体育会系も同じように、集団競技もあれば個人競技もあります。先にあげたような4つのタイプの分類のほかにも、学校ごとの違いもあるかもしれません。また、同じ競技でもポジションによるタイプの違いなどもあるかもしれません。
 

そういうところはほとんど配慮されずに「体育会系」とくくられてしまうのって、当人たちにとってはとっても生きづらいと思うのです。
 

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この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。