生きづらさは人間関係の満足度と関係が深い?収入が原因?【生きづらさ調査結果レポート】

生きづらさの背景を探るために先日実施した「生きづらさ調査」。WEB上のアンケートに回答いただく形式で行いましたが、1週間にも満たない期間で500名近い回答が集まりました。ご協力いただき、誠にありがとうございました。
 

今回は、そのアンケート結果と考察をご紹介いたします。
 

アンケート調査の冒頭(スクリーンショット)
アンケート調査の冒頭(スクリーンショット)

 

生きづらいか、生きやすいか。その指標は「2.86」

 

アンケートでは、自分自身が感じる「生きづらさ」や「生きやすさ」を6段階(とても生きづらい→生きづらい→やや生きづらい→やや生きやすい→生きやすい→とても生きやすい)で自己評価し、回答いただきました。その平均数値が「2.86」。現在の日本の生きづらさ指数は「2.86」と言えるのかもしれません。分布としては「やや生きづらい」というゾーンに多くの回答が集まっています。
 

また、収入・人間関係・自己決定(進路やキャリアなどを主体的に選択できたか)という3つの要素の満足度も同時に回答いただきました。これは、生きづらさの背景にその3つが大きな影響を与えているのではないかという仮説からです。それぞれ、収入満足度が「2.82」、人間関係満足度が「3.61」、自己決定満足度が「4.00」という結果が出ました。数値だけを見れば、収入への満足度が一番低いと言えます。
 

生きづらいか、生きやすいか。6段階で回答いただきました。
生きづらいか、生きやすいか。6段階で回答いただきました。

 

上図では、性別・社会保障制度の利用の有無・居住形態・職業で区切った生きづらさの評価も数値として見ることができます。男女で見れば女性のほうが生きづらい、社会保障制度を利用しているほうが生きづらい、働いていない無業者が生きづらく、会社役員・個人事業主は生きやすいなど、様々な結果が伝わってきます。
 

生きづらさと人間関係の関係性

 

収入の満足度が一番低い。生きづらさを改善するには収入の改善が必要だ。実際問題として、収入の改善は着手すべき課題だと思いますし、数値だけを見ればそう言えるかもしれません。しかし、相関関係を見れば、簡単に言い切れないことも事実です。
 

生きづらさと人間関係の相関が一番強い。
生きづらさと人間関係の相関が一番強い。

 

生きづらさと収入の相関は「0.43」、生きづらさと人間関係の相関は「0.60」。相関は一方の数字を改善するとどれだけ影響を与えるかという数値(ざっくりと説明すれば)なので、人間関係を改善したほうが生きづらさの改善につながるかもしれないという仮説を立てることができます。
 

生きづらさ調査結果③
 

生きづらさ調査結果④
 

※グラフの赤い帯は「とても満足」です。「とても不満満足」は誤りです。
 

上の2つの図を見ていただけると分かるかもしれませんが、「やや生きやすい」〜「とても生きやすい」という回答の中で、収入への満足度は不満と回答している方も満足と回答している方もいますが、人間関係への満足度は、そのほとんどがやや満足以上と回答しています。これは相関指数に影響を与える一例です。自身の人間関係に満足している方ほど生きづらくないのであれば、生きづらさには人間関係が大きく左右しているのかもしれません。
 

生きづらさ調査結果⑤
 

生きづらさ調査の背景にあるもの

 

この調査を行った背景には生きづらさが属性的な要素から生まれているものなのか、属人的な要素から生まれているものなのかというテーマがあります。もし、同じ種類・程度の障害を負った二人のうち、ひとりはとても生きやすい、ひとりはとても生きづらいと回答したならば、その障害が生きづらさの原因になるのでしょうか。それとも、その二人の生き方や考え方が原因になるのでしょうか。あるいは周辺環境によるものなのでしょうか。
 

生きづらさの原因は単純なものではなく、複合的に絡み合っているものだと考えられます。だとすれば、障害が原因だというような短絡的な判断もリスクがあると言えます。障害やLGBT、貧困や出自といった属性的な面から考えるだけでなく、その人自身の考え方や価値観、意識や行動であったり、就いている職業や自身の人間関係などの属人的な面も踏まえて考えていかなくては解決の糸口は見えません。
 

この調査は生きづらさの原因を探ることだけでなく、「生きづらさをなくす」ための取り組みの方向性や優先順位を定めることも背景にありました。マイノリティ系の運動を垣間見れば、差別や偏見をなくすといったことも取り組みのひとつかもしれませんが、収入の改善や人間関係の改善が生きづらさをなくすことにつながるのであれば、もしかすると「いい職場を数多く作ること」が生きづらさをなくすことに直結するのかもしれません。
 

今後も定期的に調査を行っていきたいと思います。今回は約500件の回答が集まりましたが、これが1000件、3000件、10000件となっていけば、生きづらさをなくすアプローチの精度が高まります。ぜひ、今後ともご協力いただければ幸いです。
 

調査にご協力いただいた皆さま、本当にありがとうございました。
 

【生きづらさ調査概要】
・期間: 7月4日~7月10日
・形式: Web上でのアンケート
・回答件数: 479件
・設問内容(属性): 性別、年齢、居住形態、居住地、職業、社会保障制度利用の有無
・設問内容(本問): 生きづらさ満足度、収入満足度、年収、人間関係満足度、自己決定満足度、生きづらさ歴
・設問内容(自由記述): 生きづらさの種類、生きづらさの原因
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。