スポーツに便乗した流行りのマネジメント論には気を付けろ

「ビジネスでは野球と政治と宗教の話はご法度」という言葉があるそうですが、会社の組織運営やマネジメントに関して、野球やサッカーなどのスポーツを引き合いに出して説明する人は少なくありません。
 

最近では歴史的大番狂わせを実現したラグビー日本代表についての記事をよく目にしますし、二年連続最下位から優勝したヤクルトスワローズなどのマネジメント方法への言及も目にします(私がファンだからかもしれませんが)。今年の年始に箱根駅伝を優勝した青山学院大学も監督のチーム運営方法が注目され、ビジネス界隈の方々の中には「これこそ理想の組織運営」と絶賛している人たちもいました。
 

私自身も「湘北高校はブラック企業である」など、スポーツを題材にして企業との対比で語ったことがありますが、スポーツでビジネスの場面の組織論を語るという姿勢には無理があり、あまり意味がないなと感じます。結局は自称コンサルタントのみなさんが自身の主張を補完するために、無理矢理スポーツになぞらえて解説しているケースが非常に多いと感じるのです。
 

野球チームの運営方法をサッカーチームが参考にするのは価値があるかもしれませんが、企業とスポーツチームではやはり根本的に違う部分がたくさんあります。
 

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ラグビー日本代表で考えてみれば、日本代表に憧れ、目標としてきた選手がチームに集まっています。今の日本に全社員が第一志望で入ってきた会社なんてどれだけあるでしょうか?誰もが知る大手企業でも、本当は外資系のコンサルに行きたかったとか、魅力的な中小企業に行きたかったけど親の反対で大企業に入社したというタイプの人間はほぼ必ず存在します。
 

さらに、今の日本企業では従業員を簡単に解雇できませんが、日本代表の選手は大会毎に召集メンバーが変わります。今回はテスト的な意味合いで召集したけど、次回は召集しないということが簡単にできるのです。プロに限らず、学生スポーツでも監督やコーチの持つ権限は非常に大きいので、実質的にチームから追い出すことも可能です。
 

移籍の容易さも企業とスポーツチームでは大きく異なります。企業の場合は容易に移籍できます。「会社が辞めさせてくれない」という人がいますが、仮に就業規則で「退職の申告は2か月前まで」と定められていても、2週間で退職は可能です。裁判をしてもほぼ100%、労働者側が勝てます。企業間を移籍するためのルールは労働者に有利なようにできています。
 

一方、スポーツチームの場合は選手本人の意思だけで移籍できるケースは多くありません。プロ野球にはFA制度があるものの、利用できる選手はごく一部。学生スポーツなどは、移籍がほぼ不可能ですし、仮に移籍できたとしても、一定期間の公式試合出場停止などの規定がある場合がほとんどです。
 

これだけ前提条件に違いがあるにも関わらず、スポーツの好例だけを出して組織論を語る人が相当数存在します。上司に「ラグビー日本代表を見てみろ!格上のチームにも臆することなく勝てるんだ!」と叱咤激励されたら悲劇ですし、「青学の原監督はな…」とくどくど話し始められたりしたら、「それってアナタが変わらないとダメじゃないですか」と言いたくても言える雰囲気ではないでしょう。
 

流行に乗っかった組織論、マネジメント手法を経営者や上司、コンサルの先生なんかが簡単に振りかざすことで、部下や後輩などが働きづらくなるのであれば、それは誤った選択です。
 

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スポーツに例えるというのは、複雑なものごとや、一般人にはなじみにくいものごとをわかりやすく解説する手段として優れた効果を発揮します。ただし、わかりやすく簡略化してしまったがために、複雑に絡み合った問題の背景がわかりにくくなってしまう側面もあるのです。一つの好事例を取り上げて、なんでもかんでも身近なものに当てはめようとする手法はマイノリティな人々の支援活動でも頻繁に使われます。感動的なストーリーからかくあるべきと評することも似ているかもしれません。
 

障害者雇用についてはラグビーでも活用されるOne For Allの精神が大切だという記事がPlus-handicapにも掲載されていました。障害者雇用に馴染みのない人への理解を促進する意味では有意義ですが、それだけで物事が解決するわけがないという観点も持っておく必要があると思います。本当に問題を解決しようと考えているなら、安易にスポーツなどに当てはめて考えるべきではないはず。ヒント程度に留めておかないと火傷してしまいます。
 

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