障害者の働く意識が変わらなければ、障害者雇用に未来はない。【障害者のキャリア論 佐々木×矢辺対談 後編】

皆さん、ごきげんよう。矢辺です。
 

7月に実施したUstreamLive「障害者のキャリア論」。これは、身体障害者であり、サラリーマンとして働いた後に起業した、Plus-handicap編集長の佐々木さんと、障害者雇用に長年携わってきた矢辺で、「障害者のキャリア」に関する問題を整理し、解決策を考えるために議論したものを中継したものです。
 

 

この「障害者のキャリア論」で何が語られたのか。2回に分けてお届けする後編です。
前編はこちらから。

 

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ー障害者雇用で大事な、働く障害者が行うべき、職場への「改善要求」→「改善提案」→「改善交渉」というステップ。
 

矢辺: 「できないことがある」というのは、障害者の言い分として、当然あるものだと思うんですが、それについてはどう考えますか?
 

佐々木: すり合わせの世界ですよね。企業から「求められていること」はわかっている。でも、どうしても障害が理由で「できないこと」はある。ここは「お互い歩み寄りませんか」という交渉です。ぼくが聞く限りでは、障害者雇用の世界ではこの「交渉」ができていない。できていないと何が起こるかというと、障害者を雇用することは「手間だ」になるんです。「要求」ばかりするだけだから。今の自分たちの環境を作り出しているのは、障害者なんです。
 

例えば、新入社員の研修講師をぼくはやっていますけど、「なんとなく」とか、提案なき意見とかは徹底的に詰めるんですよ。「意見するなら自分の考えまでもってこい」とか「こうしてほしいんですけど…で終わるんじゃなくて、改善案まで出せよ」と言う訳です。ビジネスの現場で、ただの不平不満や愚痴だけ言うなということを新入社員の4月に刷り込む訳です。大卒22歳、社会人一年目の世界では当たり前。でも障害者はそこまで求められない。
 

矢辺: 自分は障害があるからと、求めるだけではなく、相手と交渉する技術・スキルを身につけて、その上で、成果を出すということが大事な訳ですね。
 

佐々木: 「成果を出す」という目的に対して、最初は「要求」する。その次は、自分の意思をもって、こうしてほしいんだと「提案」する。その次が、相手の意見を組み込んだ上で擦り合せる「交渉」が大事なんでしょう。
 

上司部下の関係も似てると思うんですけど、交渉までできる部下は使えるんですよ。お互いの意見を組み込んで、より良いものにしようとできるんですよ。だけど、上司に対して、愚痴・不平不満だけだと上司の評価ってあがらないじゃないですか。この感覚が大事な気がします。
 

矢辺: ここまでできるようになると、仕事できる人だから仕事を任せようという風になり、健常者と同じようなキャリアを積むことができるということですね。
 

今回は目があいてた!
矢辺、今回は目があいてます!

 

佐々木: そうは言っても誰も最初からはできないんですよ。どうせ(笑)。障害者だからできない、健常者だからできるとかじゃないと思うんですよ。誰しも最初は要求するところからスタートなんです。そのうち、「こうやったらもうちょっとうまくいく」という点に気付いた時に、提案できるようになるんです。提案しながら「こうやったらもっとうまくいく」とアイデアがその場で出せるようになったら、交渉できるようになっていく。
 

成功体験を積まなきゃいけないし、成功体験の前には失敗体験を積んでいかないといけない。失敗経験が溜まっていくと成功するプロセスが見えてきて、成功する。するとまた、新たな失敗をしてという。結局、失敗を恐れないことが大事なんだと思います。
 

 
ー障害者はリスクヘッジに慣れすぎている。失敗を恐れない心構えが大事。
 

矢辺: 「要求」から「交渉」ができるようになるためには、失敗を恐れないことが大切な訳ですね。
 

佐々木: 障害があるとか健常者だからとか関係なくて、失敗って嫌じゃないですか。
 

矢辺: ぼくも嫌です。
 

佐々木: 障害者って失敗しないように生きてきているんですよ。
 

矢辺: それはおもしろい視点ですね。どういうことですか?
 

佐々木: 例えば、ぼくでいうと、両足が不自由なので、運動会で恥ずかしい思いをしたくないんですよ。男として。リレーで最下位とかかっこわるいじゃないですか。だから、走らないという選択をするんですよ。
 

リスクヘッジをして生きているってことですよ、障害者って。そして、リスクヘッジする習慣が身についてくると、失敗をスゴくビビるんですよ。リスクヘッジをしているということは、失敗を拒否し続けている訳で。障害者は失敗するのが嫌で嫌でここまで、うまーく失敗しないように生活してきているので、答えがない仕事の世界、社会人生活にビビるんだと思います。だけど、恐れててもしょうがないですよね。
 

矢辺: 誰だって、失敗を恐れる訳じゃないですか。怖い訳ですよ。失敗を恐れないためにはどうしたらいいでしょうか?佐々木さんの吹っ切れポイントってありましたか?
 

佐々木: サラリーマン時代は、失敗が多すぎたので、恐れるも何も…という状態になったていました。恐れるも何も、ほとんどやること成すこと、間違った方向にしかいかない。成果が出ない。それを積み重ねていくと、パンチドランカーみたいな状態になって、失敗を恐れるも何も、もう何がなんだかわからない状態に。
 

矢辺: 失敗を積み重ねてきたら、いつの間にか360度戻ってきて、0度になったみたいな感じですか。
 

佐々木: そう、そんな感じです。失敗にビビり続けて、どうせ失敗するならいいじゃんみたいな。
 

矢辺: 開き直りですね。
 

佐々木: そうですね。ただ、ぼくの場合、パラリンピック目指してずっと水泳をやっていました。最初はみんな泳げない。だから、泳げるようになるまで時間が掛かる。次は、タイムが速くならない、結果がでない。失敗を積み重ねていって、ようやく結果がついてくる。失敗を積み重ねることで、成功に導けるんだなという体験ができたんだと思います。失敗をし続けていたら、結果として、失敗を失敗と捉えない。
 

矢辺: それも開き直りですか?
 

佐々木: 水泳の場合は、格好よく言うと、仮説・検証ですね。100mを20本、30本と泳ぐ。50mのタイムが速くなるかと言うと速くならない。200mを何本も泳ぐと、体力もスピードも付いて、50mが速くなる。100mを何本も泳ぐ練習は失敗で、200mを泳ぐ練習は成功。こんなに単純な話ではないですが、例え話で考えるとこうなります。仮説・検証すると、このような結果が導かれたというだけです。
 

矢辺: 仮説・検証して、もう無理だったら、開き直るしかないということですか?
 

佐々木: 自分が決めた選択肢、仮説がうまくいったのか・いかなかったのか、ただそれだけなんです。
 

矢辺: 怖がるのではなく、自分が選んだ選択をやるしかない。その結果を踏まえて、どう改善するかしかないということですよね。これまでお話ししてきた、「要求」のレベルに留まっている人だと、仮説・検証が頭にない感じがしますよね?
 

佐々木: そうですね。
 

 
ー雇用現場で障害者を受入れることに対しても、失敗を恐れない心構えが大事。
 

矢辺: これまで、色々なお話をいただいたんですが、「とは言っても」というのがあると思っています。障害者が「要求する」というところで止まってしまうのも、社会として障害者への接し方というものが暗黙の了解のうちにあると思っていて、知らず知らずのうちに形成されて、育ってきてしまうということがあると考えています。社会として障害者に対してどう接するか?という点が、全員の共通認識が持てると、障害者・健常者関係なく、仕事ができる関係というのが築けると思うんです。
 

佐々木: 障害者を受入れることに対する失敗を恐れないことではないでしょうか。障害者というより、現代人の癖なのかも知れないですけど、答え合わせしすぎじゃないですか。
 

あ、熱いぜ、佐々木!
あ、熱いぜ、佐々木!

 

ある企業で障害者を雇用した時、その社員が障害者というカテゴリーに入れられることを拒むのであれば、健常者と同じマネジメントしないとダメなんですよ。ぼくはこのタイプです。逆に、障害者としてできることをできる範囲でやっていきたいという人は、健常者と同じマネジメントしちゃダメなんです。どっちがいいとか悪いとかじゃない。答えは1つじゃない。
 

矢辺: 佐々木さんは営業の仕事もできるし、研修講師の仕事もできる。でも、佐々木さんと同じ障害でもゆっくり働きたいという人もいる。障害部位が同じでも、考え方によってまちまちだということですね。
 

佐々木: 答えは1つじゃないので、トライするしかない。その結果、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともある。企業は、株主に対する責任などもあるので、本質的には失敗しちゃいけない。でも、一発でうまくいく訳ないじゃないですか。ビジネスに答えなんてないのに、社会も障害者も画一的な答えを求めたり、答えを作ったりしてはダメだと思う。その人その人に合ったやり方を考えないといけない。例えば、ぼくみたいな健常者マインドを持った障害者は迷惑だって言う会社もあります。意識高い系障害者はいらん、みたいな(笑)。
 

矢辺: 確かにそういう会社はあります(笑)。
 

佐々木: そういう会社は、意識高い系障害者は雇用しないという採用方針にすればいい。視覚障害者の採用に強いとか、車いす社員に強いとか、文化を作ってしまえばいい。ダイバーシティ(多様性)って大事ですけど、限定するところは限定しちゃっていいと思う。
 

矢辺: 失敗を恐れない。答えは1つじゃないからとりあえずやろうと。そして、1人1人違うんだから、当てはめないことが大事な訳ですね。
 

佐々木: 失敗を恐れないということは、反対側には失敗を受入れるということがあります。明らかに防げた失敗はダメですが、起こってしまった失敗を受入れ、検証するということは大事だと思います。
 

矢辺: 我々世代から、障害のある人と接する時には、この人はこうだろうとか、○○障害だからこうだろうとか考えず、自分の持っているステレオタイプみたいなものを当てはめずに、相手がどういう人なのかしっかりと把握しようとすること。もし社会全体がこれができるようになれば、障害者も健常者と同じようなキャリアが築いていけるとということですね。
 

佐々木: この社会は他人にもっと優しくてもいいと思います。世の中には約700万人という結構な数の障害者が存在するわけです。もうちょっと社会全体で「障害者っているよね」という風に思えるようになれば、社会って変わってくるように思えます。プラスハンディキャップという媒体は、こんな人が生きているんだから、もうちょっとみんな受入れてあげてよっていう媒体なのかもしれないですね。
 

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働く障害者も、受入れる企業側も、失敗を恐れないこと。よくよく考えれば当たり前の話でも、障害者を相手にすると、途端に失敗を恐れてしまう日本の社会。実はこの意識が障害者を必要以上に特別視してしまうことにつながっているのかもしれません。
 

「障害者のキャリア論」。今回は佐々木と矢辺という2人の意見ですが、意見は様々あるものです。このような場はどんどん作りたいと思いますし、大人数でも意見交換できるような場をセッティングしていこうと考えています。
 

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この記事を書いた人

矢辺卓哉

双子の妹に知的障害があったことが「生きづらいいね!」の始まり。彼女たちを恥ずかしいと思った自分の心を恥ずかしいと思い、大学3年時、障害のある人に関わる仕事を生涯の仕事にすると決める。障害者採用支援の会社で6年間働き、株式会社よりよく生きるプロジェクトを設立。現在は、障害のある人やニート・フリーター、職歴の多い人、企業で働きたくない人などに特化した支援を行っている。また、障害者雇用を行う企業へ退職防止、障害者が活躍できる組織づくりのコンサルティングを行う。「人生を味わいつくせる人を増やす」ことが一生のテーマ。