障害者専門のデリヘル店主に聞いた、障害者の性サービスの現在と課題。

人間の三大欲求のひとつである、性欲。それは障害の有無に関わらず、人それぞれ程度に差はあるものの、時に悶々と、時にムラムラと涌き上がってくるものです。
 

障害者の精…、いや性欲を解放するための障害者専門デリヘル「はんどめいど倶楽部」を営む山本翔さん。障害者のセクシャリティ全般を解決したいという想いから、デリヘル経営に乗り出している山本さんに、障害者の性にまつわる現場の話を聞いてきました。
 

はんどめいど倶楽部の店主、山本翔さん
はんどめいど倶楽部の店主、山本翔さん

 

もし自分が障害者になったらと考えると、足りないものに気がついた

 

元々、介護福祉の現場で働いていた山本さん。障害者や高齢者といった方々の日常を支えていく中で、もし自分が障害者になったら、今の自分が楽しんでいる世界を同じように楽しめるのかという疑問にぶつかりました。
 

「職業柄、中途障害者と接する機会が多く、「もし自分が障害者になったら」ということを考えるようになりました。私はサブカルやアングラが好きなんですけど、今楽しんでいる世界が楽しめなくなるかもしれない。そんな不安を覚えた直後に、コミケとかに行くと、障害者が全然いないことに気づいたんです。これは何とかしないと自分が困ることになる。そんな気づきが原点で、今の仕事を始めました。」

 

健常者と同じように障害者も同じことを楽しめる。健常者に対するサービスを障害者も同じ品質で楽しめる。アングラワールドのノーマライゼーションを進めていきたいという意識が山本さんを突き動かしました。
 

「アングラな世界の中でも、特に性にまつわるものが不足しているなと感じました。自分が障害者になっても風俗行きたいなあって思いましたし。そこで、障害者の不便さを考えるとデリヘルがモデルとして適しているなと思って、デリヘルを始めたんです。」

 

山本さん記事写真②
 

「ただ、僕たちは福祉ではなく、弱者救済ではない。だから一般的なデリヘルの価格帯で、障害者専門のデリヘルを運営しています。障害者はすべて弱者だと思われがちですが、お金を持っているひとは持っている。だから楽しめる。健常者でもお金がないひとは何も楽しめない。その構図に忠実に商売をやっています。ボランティアでやってよって言われることもありますが、カチンときますね。そうじゃないって。」

 

障害者「専門」だからこその安心感

 

自分から風俗店に足を運び、スッキリして帰る障害者はいます。ただ、障害が理由でサービスを提供してもらえないことやお店に入れないということもあります。最近では障害者「対応」の風俗店も増えつつありますが、山本さんは「専門」という文言を謳っています。
 

「「対応」だと対応してくれないこともあるんですよ。それは仕方がないことだと思います。女の子全員が障害者に慣れているわけでもなければ、どうしたらいいか分からないこともある。サービス以前に介助が必要なことだってありますからね。だから僕たちは「専門」にしました。ユーザーさんからは安心感があるって言われます。」

 

「はんどめいど倶楽部」では、病院でいうカルテのようなアセスメントシートがあり、どんな障害なのか、どこに瑕疵があるか、どんな介助が必要かということをユーザーからヒアリングし、整理しています。予約の際に聞くこともあれば、実際にサービス中に気づいたことをメモすることもあるそうで、これらが重度障害者にも重宝されている理由の一つとして挙げられそうです。
 

「重度障害のユーザーさんが普段できない動きができるようになったという話を女の子から聞きました。楽しいから頑張っちゃうらしいんですよね。あれ?俺動けるじゃん?って。リハビリ効果も抜群。恐るべし、セクシャリティパワーですよ。」

 

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「お店には童貞の方からの問い合わせや相談もあるんです。障害者の場合、障害が理由で恋愛とかを諦めてしまっていることもあるので、デートの経験がなかったり、女の子と2人っきりという経験がなかったりする。そこで今後の恋愛に活かしてもらえるような、デートのセッティングを手配して、デートの終わりに「本人のいいところ」をフィードバックする機会を作っています。障害者のセクシャリティのバリアフリーを進めていく一環として、デリヘルをやっている、デートの手配をしているというほうがしっくりきます。そこも含めての「専門」かもしれません。」

 

これからの障害者専門デリヘル

 

デリヘルはあくまでも自分から問い合わせができる環境下になくてはサービスを受けることはできません。施設で暮らすなど自分で連絡できない障害者に対して、いかに商圏を広げていくかが今後の課題だと山本さんは話します。
 

「施設入所者の需要をどのように拾っていくかが今後の課題です。みんな性欲があるならば、施設で暮らす障害者も同じ状態だと言えます。今のままだと、理解がある内通者がいて、連絡をもらって施設に足を運ぶ。そこからさっと忍び込んで事を済ませて出て行く。まるで忍者のようなスタイルでしかサービス提供できない。内通者という言葉選びがいいか分からないんですが、誰かを介さなくてもサービスを受けられる仕組みが作れればいいですよね。介するならば介するで、堂々と僕たちが足を運ぶことができれば嬉しいです。」

 

最近、アメリカで同性婚が認められたり、東京都渋谷区ではパートナーシップ証明書が発行できるようになったりと、LGBT界隈の問題が注目されています。障害者のLGBT当事者に対しても山本さんは動いていきたいと話します。
 

「デリヘルは女の子を派遣する形態ということもあり、実際にレズビアンの女性から問い合わせがありました。そのときには僕も考えが及んでなくて、対応できなかった。LGBTの問題があるということは、障害者にもその当事者はいるよねと気づいていなかったことを反省しました。レズビアンの方に対応できるように準備を始めましたし、女性障害者への出張ホストも対応できるようにはしています。まだまだ本格稼働しているとは言えませんが、少しでも多くのひとのノーマライゼーションが実現できるように動いています。ただ、需要はあっても供給が難しいなというのが本音です。」

 

山本さん記事写真④
 

ケアとの違い、福祉との違い

 

山本さんのお話を聞くと、障害者専門デリヘルの仕事は、障害者自身の幸福追求のための仕事だなという印象が強く残りました。マイナスをゼロの状態まで持っていくのではなく、ゼロをプラスに持っていくための仕事です。だからこそ、福祉と括られたり、ボランティアという言葉が出たりすると、ぐっと込み上げてくる気持ちがあるんだなと思いました。おそらくこれは、ケアの世界や福祉の世界を否定しているわけではなく、棲み分けを行っているという自負から来ているものです。
 

健常者が楽しんでいることを障害者が楽しめないのはおかしいよね?
健常者の世界を落とし込むなら価格もサービスも同じでしょ?
 

ノーマライゼーションやインクルージョンのような言葉が先行していますが、その観点から見ると、山本さんの言葉や活動は誠実だなと感じます。福祉のモデルと商売のモデルは分断されているのではなく、つながっている。障害者だけでなく、弱者にカテゴライズされてしまう人たちが豊かな人生を送るための先行モデルなのかもしれません。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。