ステッキユーザーが海外旅行をするという不安

人生三度目の海外旅行。約7年半ぶりの海外です。
私がはじめて海外へ行ったのは、大学2年生の夏休みでした。
 

その年の春に自律神経失調症やら鬱やら自殺未遂やらとあって、そんな自分に疲れ切っていたときに、オーストラリア出身の英語の先生が「オーストラリアはすごく気楽な国だよ。明日のことなんて誰も考えない。今日が楽しければオッケーなんだ」的なことを言っているのを聞いて、「私にはこの精神が必要だ!」と思い立ちました。我ながら単純すぎですが、そのあとすぐに諸々の手配をし、夏休みを利用して3週間ほど語学留学&ホームステイに行きました。
 

photo : shirley saunders
photo : shirley saunders

 

自分の視野をすごく広げてくれた旅行にまた行きたいと思った私は「大学在学中にもう一度海外ホームステイに行こう!」と決め、時給750円の某書店のアルバイトで旅費をコツコツとためました。そして大学4年生のとき、ついに2度目の海外語学留学に行けることとなったのです。
 

時給750円でコツコツと貯めてきたわけですから、それはそれは胸も高鳴ります。
「今度はカナダに行こう。語学留学は2週間だけにして、そのあとひとりで旅をしたい。」
「飛行機もホームステイ先も語学留学も全部準備OK!いよいよだ!」
しかしこの出発の約2週間前に、カナダ行きは白紙となりました。交通事故に遭ったためでした。
 

交通事故のため100日ほど入院し、退院後はすぐ大学を卒業し、引越しして就職。いつも心のどこかに「また海外に行きたいなぁ」という気持ちはあったものの、2年弱で会社員を辞めたあとも起業だ結婚式だとやっているうちに、あっという間に月日が経ちました。けれど今思うと、なかなか踏み切れなかった一番の理由は、時間でもお金でもなくて、やっぱり杖だったのかもなと思います。
 

ステッキユーザーが海外旅行をするという不安

 

ステッキユーザーどころか、車いすでも義足でも海外を旅している人はいくらでもいるわけですから、何言ってんだと思われてしまうかもしれませんが、本音はやっぱり不安でした。不安点としては主に3つです。
 

①あまりたくさん歩けない
やはり真っ先にこれが思い浮かびます。特にパックツアーの場合、観光名所をガシガシ回るものも多いので、休み休みで歩きたい私には不安以外の何物でもありません。
 

②重い荷物を持ち運びできない
腰の骨を骨折して現在もコルセット使用中の私は、基本的に重たいものを持ち運びすることができません。何日分もの荷物をリュックやキャリーケースで運ぶなんて、全然無理です。
 

③何かあっても逃げられない
特に治安の良くない国や地域を旅先に選んだ場合ですが、何かあった時に走って逃げるなんていうのはもちろん無理。というかそもそも、「ザ・観光客」「しかも日本人」「しかも杖を持ってる」なんてなったら、ワルイ人からすると格好の餌食なのではなかろうかと、不安にもなるわけです。
 

これで英語など外国語が得意であればまだ「なんとかなる」と思えるかもしれませんが、日本語以外全然まともに話せない私にとってはやはり、「歩けない」「話せない」「持てない」「逃げられない」。できないところばかり不安になるわけです。
 

今回の旅で回避できたこと

 

そうは言いつつ、なぜ今回7年半ぶりに海外に行くことにしたのかというと、上記の3つの懸念点を見事に回避することに成功したからです。
 

①あまりたくさん歩けない → オリジナルでプランを組む
まず、今回はパックツアーではなくオリジナルで行きます。飛行機の移動はありますが、列車や歩きなどの移動は少なめにしてありますし、一国一都市滞在(ほぼ)なので、一度宿に入ったら、あとはもう自分のペースで街を散策する程度にプランを組みました。
 

②重い荷物を持ち運びできない → 荷物持ち(夫)と行く
これに関しては、今回は夫が一緒に行く=荷物持ちがいるので、回避できました(笑)。ただでさえ重い荷物はNGな私ですが、片手に杖、片手にキャリーバッグともなるともう、身動きできなくなってしまうので、これは大変助かります。
 

③何かあっても逃げられない → ボディーガード(夫)と行く
これはまだ行ってみなければわからないところではありますが、当初私が思い描いていたのはひとり旅だったので、それに比べればやはり夫が一緒にいる=ボディーガード(っぽく見える人)がいるというのは心強いものです。夫の巨体をメリットと感じたのはこれが初めてです。
 

photo : Miguel Jiménez
photo : Miguel Jiménez

 

そうは言ってもまだ募る不安

 

大きなところでいうと上記の3点が回避できたのは大変喜ばしいことなのですが、そうは言ってもまだ細かい不安は残っています。
 

・石畳の道
ヨーロッパの街は、石畳の道が多いと聞きます。これがかなり足にくるんだそうで、それゆえヨーロッパではステッキユーザーが多いのだとかいう話を聞いたり聞かなかったり…?そんな道を私はどのくらい歩けるものなのか、やはり不安は尽きません。
 

・ベッド
今回、旅の2/3ほどは親戚の家にお世話になるので心配ないのですが、約10日間のホテル生活は、やはりベッドが心配です。腰痛持ちの方には気持ちを察していただけるかと思いますが、ベッドが合わないとすぐに腰が痛くなります。腰痛がひどくなると歩くことがものすごくつらくなるので、そうするとせっかくパリにいるのにホテルの窓から眺めるだけ、なんて悲劇も起きかねないわけです。
(しかもヨーロッパはとにかく物価が高い。ちゃんと休めそうなベッドでバスルームつきのホテルなんて思ったら、お金がおもしろいくらい飛んでいくことになってしまいます。)
 

・杖の機内持ち込み
1本はもちろん使っていくのですが、やっぱりステッキアーティストですし。1か月間、ステッキ1本で過ごすなんてわけにはいかないのです。2本3本持っていきたい…と考えると、機内に持ち込めるのか?荷物として預けたらぼんぼん投げられて折れちゃった…なんてことにはならないか?こんなときはやっぱり折りたたみ杖買おうかなぁなんて思っちゃいますね。
 

Knock on the door
 

結果報告をご期待ください

 

とはいえ、ここまでの話はほとんど私の妄想みたいなものです。経験のない漠然とした不安なわけですから。
 

でも、きっと、ステッキユーザーさんや、脚や腰に不安を抱える方は、同じように海外旅行への漠然とした不安を持っている方もいらっしゃるのではないかと思うのです。今回はそのあたりをしっかり体験し、報告をしたいと思いますので、帰国後のレポートを是非ご期待ください。また、ヨーロッパのステッキ事情も色々見てきたいと思っております。
 

もし「こんなの不安だから、実際どうなのか見てきて!」なんてご要望がありましたら、編集長までご連絡ください。きっと私に連絡してくれる・・・はずです。
 

では。
Au revoir!

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この記事を書いた人

楓友子

21歳のときに交通事故に遭い、脊腰椎骨折、大腸破裂などの重傷を負い、杖が必要な生活となる。市販の高齢者向けの地味な杖を使うのが嫌で、2011年9月、24歳で独自ブランド「Knock on the DOOR」を立ち上げ、自身で装飾をした杖のインターネット販売を始めた。自分が嫌いで死にたいと思っていたが、事故を通じ「生きてるって奇跡なんだ」と知り、いのちへの考え方が180度転換。日本で唯一のステッキアーティストとして活動するかたわら、「生きるをもっと楽しもう」というメッセージを伝える活動も行っている。