障害者が旅行に行くために課された3つのハンディキャップ:宿泊施設編【+handicap TRAVEL】

障害者にとって、旅行に行くというのはなかなかのハードルです。
【交通機関】/【宿泊施設】/【観光名所】
この3ヶ所のバリアフリー化がどれだけ進んでいるかに左右されるからです。
これは高齢者にとっても同様のことが言えると思います。

 

前回書いた【交通機関】の記事に引き続き、
今回は【宿泊施設】に関して少しご紹介したいと思います。

 

大前提として、最近の宿泊施設(ホテルや旅館)は
バリアフリーやユニバーサルデザインが進んできていることはお伝えします。
どの宿泊施設にも車いすがあったり、スロープがあったり、手すりがあったり
だいぶ快適になりました。

 

そんな中、宿泊施設における最大の難所は「お風呂」です。
露天風呂、大浴場、ユニットバス、それぞれに難所があります。

 

恋人と旅行に来て露天風呂に行く。
カランコロン歩きながら微笑み合う二人。「またあとでね」なんて。
ああ、うらやましい。
車いすに乗る、義足を履く、目が見えない、そんな方々にとって
露天風呂まで行く導線に難所がある場合があります。

 

露天風呂 道のり

 

露天風呂に入るまで、時折、タフな道のりがあります。
障害者にとってこれがなかなかつらい。
温泉旅行を断念したくなる瞬間でもあります。

 

手すりをつければいいじゃないか、平坦な道にすればいいじゃないか。
障害者目線で出てくる意見ではこのあたりがあると思います。
もちろん、高齢者の方々にとっても想定できる意見です。
しかし、趣き・風情として露天風呂の価値が存在している以上、
景観を損ねることは個人的には望みません。
周囲の人の心配りでサポートすることがポイントだと思います。
私個人としては、このような道のりが大好きなので
義足を履いていようが我先に駆け出します。

 

大浴場の場合は、お風呂に行き着くまでに「滑る」という罠が控えています。
お風呂までの距離がやや長い場合が多いので、気をつけなくてはなりません。
しかし、それ以上に気になる地点が脱衣場です。

 

脱衣場

これはあくまでも個人的な感覚ではあるのですが
この脱衣場に車いすを置いておく・義足を置いておく・白杖を置いておくことに
一瞬のためらいが生じます。それぞれ「なくては生活できないもの」なので。
日本は治安もよく、脱衣場からの置き引きはないと思いますが
パンツがなくなる、メイク道具がなくなるといったことと次元が違います。
一瞬の恥か、長期間の生活困窮かの差は大きいです。

 

また、このスペースに無造作に置かれる義足も、
景観としていかがなものかと個人的に、当事者ながら感じてしまいます。

 

義足シルエット

 

脱衣場に義足がどーんとある。
物暗い場所なら生足と比較してもなんら遜色ありません。
また、義足を脱いだ後の生足も、免疫のない方が見ると驚きます。
その辺りのエチケットも当事者として意識せざるを得ません。
大浴場は多くの人の出入りがある分、気苦労が勝ります。

 

ホテルのユニットバス(室内にあるお風呂)もなかなか手強い相手です。

 

ホテル風呂①

 

難所はその狭さ。
健常者以上に動きに制約があり、足下が不安定な障害者には苦戦必至です。
意外と浴槽が深い、シャワーまで手が届かない、といったこともあるので
浴室に入るところからのシミュレーションを細かく立てざるを得ません。
多くの場合、ビジネスホテルに宿泊した際に感じるストレスです。
旅行先のホテルの浴室は広いことが多いので、動きやすさは高まりますが
難所として感じるポイントは同じです。

 

宿泊施設がオープン当初、障害者の来客を予期していなかったということは
想像に難くありません。バリアフリーやユニバーサルデザインといった言葉は
21世紀に入りようやく日本に浸透してきた言葉ですので
これは仕方がないことではないでしょうか。

 

では、今から何をすべきなのか。
それは障害者に対する接遇も施設側のマニュアルに入れておくことだと思います。
施設のハード面を改善することは大きな額の予算を作る必要がありますし、
正直言って割合的に少ない障害者のためにハード面を改築する必要性は感じず、
経営的な判断から見てNOが出ることは合理的な話でしょう。

 

最近ではサービス介助士という資格もあります。
障害者や高齢者といった方々が安心して宿泊できるように
どのようなサポートをすればいいのか。
このマニュアル・ノウハウがベースとして、それぞれの宿泊施設の特性に合わせた
接遇を組み合わせれば、私たちのような障害者にとっても
旅行しやすい施設になり得るのではないかと考えます。

 

健常者の多くの人が無意識に何も考えずにできる行動にも
障害者の頭の中で緻密な計算を組み立てていることが多いです。
意外と旅行から帰ってくると障害者が体調を崩しやすいのは
普段の生活以上に頭を働かせているからです。
少しでもこの記事に共感して頂ける宿泊施設が増えれば、
障害者にとっての旅行はより身近なものとなり、
より楽しめるものとなるのではないでしょうか。

記事をシェア

この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。