障害者と社会の接点に多様な選択肢を。【ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014レポート】

2014年8月1日~9月7日まで開催されていた「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」に行ってきました。「障害者とプロのアーティストが手を組み作品を創作する」展示会です。パラトリエンナーレの詳細は、ホームページや佐々木の記事をご参照いただくとして、障害当事者ですがアートに関してはまったくの素人である私が、展示会の率直な感想を書きたいと思います。
 

パラトリエンナーレ展示作品①
パラトリエンナーレ展示作品①

 

【参考】
「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」ホームページ
「「支援者」ではない「伴奏者」と創り上げる作品の数々。パラトリエンナーレの提案。」
 

あくまでも、素人目線からの感想ですが、全体的に斬新なものが並んでいるというより、ごくごく日常的、言葉を選ばずに突っ込んで言えば、どこか前時代的なものが展示されているという印象でした(映像や音声などの展示については割愛いたします)。しかし、だからこそ、パラトリエンナーレの魅力と可能性を感じたのも事実です。
 

以下3つの観点で、魅力と可能性について書いていきます。
 

1.生活の中での細かい視点が作品に宿っている
 

写真をご覧頂いてもわかるように、作品は生活用品や生活の一部を切り取ったもの。少し前までは、生活感がある作品は「ダサい!」の一言で片づけられ、見た目はハイセンスかもしれないけれど画一的なデザインのものがもてはやされていたように感じます。素人目線で恐縮ではありますが。これは今回の作品自体を否定しているわけではありません。
 

しかし、近年の傾向として、生活感豊かな創作物も提案されるようになってきていると感じており、パラトリエンナーレではそうした世界観が伝わってきました。もちろん「健常者」アーティストでも生活に根差した作品は多いですが、生活に何かしら不便がある障害者こそ、作品にも魂が宿ってくるのではないかと思います。
 

パラトリエンナーレ展示作品②
パラトリエンナーレ展示作品②

 

2.斬新さよりも手作りの暖かさが伝わる
 

手作り感が強く表れる作品はパラトリエンナーレの大きな魅力です。アーティスト一人一人の“熱”が感じられる作品は、非常に魅力的でした。
 

障害者アーティストと言えば、世界的に有名な画家であり知的障害を持っていた故・山下清氏が思い浮かびます。彼の作品も、様々な意見があると思いますが、斬新さというよりは画家自身が見た世界を見事な色彩の貼り絵で表現しています。手作り感というものは、新しいモノや斬新なモノばかりを追い求めていた昨今、今後はもっと評価される時が来るのではないでしょうか。その先導役として、障害者アーティストの存在が脚光を浴びるのかもしれません。
 

3.アートの世界が社会との接点をつくる
 

上記では「分かってないな」と言われてしまいそうな素人の芸術論を書いてしまいましたが、正直なところ、今から挙げるこの項目が一番言いたいことです。
 

パラトリエンナーレは「才能ある障害者による展示会」と銘打っています。ただ、私個人の意見としては、才能ある人間の登場は、健常者の世界でさえも何年かに一人の割合に感じます。絶対数から割り出せば、才能ある障害者の登場にはもっと多くの時間がかかるかもしれません。これは今回作品を展示されていた方々に才能がないという意味ではありません。才能ある人間とたくさん出会うためには、作品発表等の活動を地道に続けていくことが大事ではないかということです。
 

総合ディレクター・栗栖良依さんがパラトリエンナーレの今後の展開を明らかにしていますが、継続的に発表の場をつくっていくことは大変に意義深いことです。少しずつでも障害者の芸術世界が広がっていけば、やがてスーパースターも登場するかもしれません。「自分もやりたい」「アートはできないけど、何か手伝いたい」といった声が増えていけば、障害者の『社会との接点』もどんどん増えていくでしょうし、社会が変革していく大きなきっかけになるかもしれません。
 

パラトリエンナーレ展示作品③
パラトリエンナーレ展示作品③

 

法定雇用率の引き上げをうけ、活発になり始めた障害者雇用。パラリンピックの開催等で賑わう障害者スポーツ。これらは【社会との接点】だと考えています。仕事、スポーツ、芸術、趣味、その他様々なジャンルがあるでしょう。しかし、障害者世界の課題の一つとして【社会との接点】が少ないことが挙げられます。パラトリエンナーレ等によるアートの世界が、障害者の【社会との接点】に加わっていけば大変素晴らしいこと。それこそ、障害者世界に多様な選択肢が増えることにつながると考えます。
 

私は、記事ではいつも同じことを伝えていますが、その世界に関わっていない人間(健常者・障害者問わず)に対して「明日から障害者アートに興味を持とう!」という話は難しいと考えます。しかし、まずはその存在を知って、興味をもってみる。少しずつ自分たちの生活に取り入れてみようとする。そんなポジティブな感覚が必要なのではないでしょうか。
 

展示会そのものは終了となりましたが、9月25日〜28日までの間、ペドロ・マシャドによるダンスワークショップが開催されます。ご興味がある方はぜひ。
http://www.paratriennale.net/post-161/
 

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。