インターンするくらいなら、マックで4年間バイトしろ!

初めて大学生のインターンの対応をしたのは、私が社会起業大学の事務局をしていたときでした。当時は猫の手も借りたいくらい忙しい状況。しかも、大学生は学校に来ている数あるインターンシップ先の中から自分の意志で選んでくれたというではありませんか。
 

インターンとして採用しようと書類選考の時点で決めていたので、顔合わせという感覚で面接を担当しました。どんな学生が来るんだろうと楽しみに待っていたら、やってきたのはちょっと元気のなさそうなひょろっとした学生。大学3年生にしてはやや頼りなさそうです。まぁ「W大学だし、優秀なんだろうな」と思って話してみても、なかなかつかみどころがない。「なんでインターンシップしようと思ったの?」と聞いたところ「やっぱ、就活の前に一度やってみたくて」というちょっとがっかりな答え。なぜ社会起業大学を選んだのかは聞きましたが、どんな答えだったのか忘れてしまうほどでした。
 

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続いて同じ大学から、今度は女子大生の応募がありました。ハキハキ、キャピキャピという感じではなく、マジメで育ちの良さそうな大学生という印象です。彼女も「一度、インターンシップをしてみたかったので、長期休みのこのタイミングで応募してみました。周りもやっているので、やったほうがいいのかなという不安からというのも正直なところですけど」との答え。やっぱり、ちょっとがっかりしてしまいました。なんか、もっとこう「ベンチャー企業で自分を成長させたいんです!」とか「ソーシャルビジネスに携わりたかったんです!」とか、お世辞でいいから言ってほしかったなあと。
 

来る者拒まず、というか当時は「誰でもいいから人を採ってくれ!!」と定例MTGの議題に挙がっていたほど人手不足だったので、彼らを受け入れることにしました。期間は2週間。正直、やってもらった仕事はそれほど高度なスキルが求められるものでもなければ、決して楽しいものでもなかったと思います。しかし、会社にとっては重要な仕事です。また、少しでも彼らのためになればと、日報を書いてもらい、私がフィードバックするという取り組みもしていました。
 

インターン終了後に提出されたレポートを見る限り、こちらが意図した学びを得てくれているようではありました。ただ、2人が期待していた「就活に有利になる」経験は提供できていませんし、2週間という短い期間で2人が目に見えて変わったとも思えません。自分の育成力がなかったことを棚に上げ、正直な意見を言うと、インターンではなく正社員採用であれば、2人とも面接開始10分で帰しています。一緒に働きたいと思わせてくれる雰囲気がなかったのです。「頭はいいけど、コミュニケーションは不得手」という典型のような二人でした。
 

今でもインターン希望者が応募してくることは少なくありません。しかし、私は目的が不明確なインターンシップ希望者はすべて断っています。お互いのためにならないからです。インターン希望の理由として、明確に「就活のため」と言い切る学生は多くはありませんが、ほとんどの場合、「周りがやってるからやる」「就活に必要そうだからやる」という動機です。学生の立場からすると「インターン経験=社会人の仕事に近い経験」であり、それが自己PRのネタに活用しやすく、企業側に仕事ができるように見せられるメリットがあると感じているようでした。
 

実際に私がインターンシップを希望する学生と仕事をして感じることは「就業経験の前に対人でのコミュニケーションを磨いた方がいいよ」ということ。企業が学生に求める能力として「コミュニケーション能力」があることは有名です。コミュニケーション能力って何?どうやって判断してるの?というと、多くの場合は面接官のフィーリングです。「この人と話していると楽しい」「この人と仕事がしてみたい」と思われれば、コミュニケーション能力があると判断されているのが実情です。
 

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では、インターンシップで上記のような能力は磨かれるのでしょうか?私は難しいのではないかと思います。「社会人の仕事ってこんな風にやるんだ」とか「働くってこういうことなんだ」と知ることは重要ですが、多くの学生が一斉に集められるインターンシップでは、所詮、学生間のコミュニケーションの域を出ません。学生同士で相談しながら与えられた課題を解決していくタイプのインターンシップもあるようですが、その状況で学生以外とのコミュニケーションがどれだけ生まれるのでしょうか?そもそも実際の会社で、専門性のない同い年の人間が複数集められプロジェクトが進行するのでしょうか?私は実務でそのようなプロジェクトに参加したことはありません。
 

中にはインターンシップとして飛び込み営業をさせるという超実践的な企業もあります。そのやり方に対しては賛否両論ありますが、学生が「営業力を磨くためにインターンで飛び込み営業をやるんだ」という目的意識があるのであれば、とても貴重な経験になります。また、IT系の企業ではインターンの学生エンジニアが活躍している企業もありますが、まだまだ主流ではありません。
 

結局、多くの「ふつうの学生」にとって、インターンシップはそれほど重要ではありません。重要ではないというよりは、学べるものが学生たちの期待ほど大きくないといったほうが適切でしょうか。私はインターンするくらいならば、むしろ飲食店で接客業のアルバイトをすべきだと考えています。飲食店での接客アルバイトは敬遠されがちですが、ここでこそ学べるものが非常に大きいのです。
 

飲食店のアルバイトに対して「マニュアル人間」と揶揄する人もいますが、そう揶揄する人たちは恐らく飲食店のアルバイトすらまともにできません。実際に飲食店でアルバイトをすればわかりますが、マニュアルに載っていないことが毎日起こります。対応の時間を捻出するために、必要最低限の業務をマニュアル化して効率的に行えるようにしているのです。状況によってはマニュアルに反する行動をとらざるをえない時もあり、臨機応変な対応が求められます。
 

飲食店では毎日多くの人とのコミュニケーションが生まれます。同僚となるアルバイト全員が学生ということはほとんどありません。フリーターもいれば、高校・大学の中退者もいます。チェーン店では社員もいますから、社会人との接点もあります。また、アルバイトであってもお客さんから見れば「店員」。「学生だから」は通用しません。愛想が悪ければ注意され、ミスをすれば怒られる。お客さんのためになることをすれば感謝される。一般の会社とまったく同じです。その環境に大学1年生から4年間身をおいていたらどうでしょうか?対人コミュニケーションや、臨機応変な行動力が大きく成長するのではないでしょうか?
 

採用コンサルティング会社のトライアンフの代表である樋口弘和氏は、著書の中で「飲食店でのアルバイト経験は重要なポイント」と述べています。採用のプロから見ても飲食店での経験は非常に重要と考えているのです。
 

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私自身も大学時代はドトールでアルバイトをしていました。部活をやっていたこともあり、バイトは夕方の限られた時間と土日だけでもOKな飲食店くらいしかなかったのです。練習状況によっては朝が暇という時もあり、朝のシフトもあるところとなると、ドトールかマックくらいしかありませんでした。

消去法で選んだアルバイトでしたが、結果的に良い経験をさせてもらえました。人とのコミュニケーションが大の苦手だった私にとって、これほど最適な修行の場はない。多くのバイト仲間がいて、店長や社員がいる。常連客には「俺の注文は決まってるんだ」とばかりに、何も注文せずにお金だけ置くような人もいます。こんな環境はなかなか味わえません。最低賃金が最近は上がってきているので、飲食店でも場所と時間によって時給1000円を超えるところもあります。お金をもらいながら成長できるなんて最高の環境です。
 

部活仲間を除くと、学生時代はほぼ友達ゼロだった私ですが、社会人になり「井上さんって爽やかだよね」と言われる機会が多いです(自分で言うのも難ですが)。確実に、接客業のアルバイト経験が理由です。体育会の部活という経験は論理的思考力の強化、PDCAサイクルの経験という面では非常に役立ちましたが、周囲のコミュニケーションにおいては、飲食店でのアルバイト経験が一番です。
 

「今度の春休みはインターンでもしようかな」と思っている大学生のみなさん。騙されたと思って飲食店で接客バイトをしてみてください。自分が思っている以上の変化があります。店舗数や仕事状況から考えると、マクドナルドが一番おすすめです。だから断言します。
 

訳もわからずインターンシップするくらいなら、マックで4年間バイトしろ!
 

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この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。