ウツなひとと上手く仕事するための6つの反省点。

Plus-handicapを運営するメンバーやライター、サイトを構築するメンバーにはウツ関係の方が何人かいます。ウツ真っ只中の方もいれば、元ウツの方もいますし、ウツやメンタルヘルスをテーマにした活動をしている方もいます。ここ最近の自分の仕事を振り返ると、ウツホルダーと働いている経験は割と多いほうかもしれません。
 

インターンの宮原さんも元ウツ。
インターンの宮原さんも元ウツ。

 

仕事や役割を振るマネジメント側の立場や共に仕事に取り組む同僚の立場から見れば、「ウツ」はなかなか手強いもの。どのように仕事を振ればいいんだろう、きちんと仕事をやり遂げてくれるのか、こちらからの指示や連絡の言葉で心に傷を残さないかといった様々な懸念を生み出します。
 

また、納期や進捗の確認はこまめに入れたほうがいいですし、クオリティに対するフィードバックには必要以上に気を遣うなど、様々な配慮が必要であるため、めんどくさいなと思う自分を否定することはできませんし、煩わしさが存在することは事実です。
 

では、ウツホルダーと働きたくないかと問われれば「働きたくない」と回答することはほぼありません。「積極採用します!」という意見ではないですが、目の前の仕事に対してこちらが求めるスキルや情報、センスや価値観をもっているならば、ウツであることはたいして関係ありません。むしろ「自分のできる範囲で一緒に仕事しましょう」「ウツを言い訳にはしないでください」というスタンスです。
 

へんけん
 

このスタンスに至ったのは、これまで共に働いてきた自分の経験、取材先で得た情報などを抱えているからです。今まで大失敗もしましたし、うまくいったこともありました。その反省をまとめてみたものが以下の6つ。ウツを抱えるひとと働くことの難しさを少なからず軽減するためには、精神的な負担を未然に防ぐ工夫が必要だったと気づかされました。
 

①仕事の全体像、工程をまず共有する。曖昧なまま仕事を進めない。
 

何をすべきか分からない、手探りのまま進めていくということは精神的な負荷を生み出します。自分の行った作業が間違っていた、不正確だったという認識が生まれれば、一気に意欲が減退し、仕事が手につかない状態へと陥ることもあります。曖昧なまま仕事を進めることが一番のリスクであり、防がなくてはいけないことです。
 

仕事の全体像や工程を明確にし、細かい作業単位に落とし込み、納期を明確にする。仕事のスタート地点と現在地、ゴール地点を共有しながら仕事を進める。これはいかなる仕事においても鉄則だと思いますが、絶対に外してはいけないポイントです。ウツのひとは一時の精神的な不調によって、仕事の手が止まることもあるため、仕事の進捗を把握するうえでも外せないことです。
 

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②時間に余裕を持つ。
 

ウツであろうとなかろうと、急かされるといい仕事はできません。「急かす」という行動はプレッシャーを与えます。個人的には「急かす」という行動をとったことでうまくいった試しがありません。また、仕事を終えても、精神的なシコリが残ります。
 

作業時間や納期に余裕を持たせて仕事を振るほうが賢明です。これは、精神的な不調から仕事の手が止まることで起こるリスクを予見し、次善策を考えるためにも大切です。
 

③連絡は細かく、書面で残す。
 

指示や連絡は口頭で伝えたから、ちゃんと報連相しているよというひとを見かけますが、これはNGです。言った/言わないで言い争うことは精神的な負荷をかけますし、曖昧なまま仕事を進めさせないという鉄則に反します。そもそも書面で残しておけば起こらない問題ですし、第三者が見ても書面だと判断がつくため、指示・伝達・連絡などに書面を使うことは有益です。むしろ、口頭のほうが余計な情報を伝えてしまうこともあるため、リスキーかもしれません。
 

④必要以上に感情的にならない。感情ではなく論理で相手を動かす。
 

ウツなひとに対して、感情的な態度をとることはリスクです。感情には感情で反応が起こるため、感情の起伏、感情的に詰められたことに対する反発などによって、精神的な負荷を与えてしまいます。それがウツの悪化などにつながれば、仕事に支障を来し、かえって逆効果です。
 

仕事が進んでいなくてイラッとしたり、不安になったりしていても、感情をぐっと堪えて、整理して伝えることが大切です。例えば、仕事の全体像から現状とのギャップを伝える、何をすべきか工程で伝えるといったことが考えられます。
 

20150706コラム
 

⑤批評しない。批評するならば改善提案を出す。
 

相手の仕事ぶりや、作業から生まれたものに対して批評してくれるひとがいます。改善提案や原因分析を伝えてくれるひとは大切ですが、批評しっぱなしのひとは大抵精神的にダメージだけ残して、得られるものを何も残してくれません。特に精神的に不安定な状態にいるひとに対しては毒になってしまいます。
 

⑥相手の健康を常に気遣う。
 

①〜⑤を並べたうえで、一番大切なことは相手の健康を気遣うことかもしれません。心身のコンディションが整わなければ、ウツなひとはもとより、多くのひとの仕事の生産性は上がりません。モチベーションや意欲といった目に見えないものに囚われるより「最近、体の調子どう?」という一言の効果は大きく、仕事の進捗を判断するうえでも、重要な観点です。
 

ここまででお気づきの方も多いと思いますが、これら6つの反省点は、ウツに関係なく、ほとんどの仕事や職場に通じるものであり、仕事の受け渡しの基本です。そういうひとつひとつをなあなあにしていたからうまくいかなかったんだと反省しました。私自身、新入社員研修の講師として4月に新卒社員に様々なメッセージを発信していますが、そこで伝えていることと近いものです。講師を務めておきながら、自分自身がうまく実践できていないのは猛省の極みです。
 

こういう考え方も大切かもしれません。
こういう考え方も大切かもしれません。

 

ウツは一人ひとり情況が異なるため、一括りにすることはできません。仕事できる・仕事したいという意欲があるというひとばかりと仕事しているので、私が仕事という分野の中で出会うひとは、比較的軽度のひとなのかもしれません。ただ、そんな軽度であっても働きづらい社会なのであれば、それは改善したほうがいいものですし、ウツに限らず、メンタルヘルスに不調が見つかるだけで働きづらいのであれば、それもまた悲劇的な社会です。
 

障害者雇用がうまくいっている企業の言い分として、仕事が細分化されたことで効率化が進んだ、障害者社員を配慮することが発端で職場のコミュニケーションが円滑になったなど挙げられることがありますが、ウツのひとを雇う、復職させるといったことも実は類似していて、企業風土を改善する一歩につながるものです。
 

ウツに限らず、生きづらさを抱えたひとを受け入れることは、様々なリスクや負荷がかかるもので避けたくなるものですが、特にリスク管理という観点でいえば、私個人として得られているものは非常に大きいと感じています。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。