杓子定規だとうまくいかない、中高生のキャリア教育現場

全国に数あるNPO法人の中で、もっとも多いのは「保健・医療・福祉分野」ですが、その次に多いのが「子どもの教育・育成」に関するものです。私自身も現在、複数のNPOを通じて中学生や高校生向けに、キャリア教育の授業やプログラムを担当させてもらっています。その内容は様々で、漠然と将来のことを考える機会を提供するものもあれば、お金や職業について具体的内容を伝えるものもあります。基本的にはボランティアなので無償か、お金をもらったとしても交通費程度です。
 

学校現場に入り込むタイプの教育系NPOの多くは、事務局のスタッフが数名おり、そのうえで、私のようなボランティアとして関わる登録スタッフを抱えています。学校で授業を行う機会があれば登録スタッフに声をかけ、授業を実施するスタイルをとっています。面白いもので、登録スタッフは複数のNPOでボランティアとして参画していることが多く、初めて行くNPOの授業なのに別のスタッフの方から「前は〇〇の活動でご一緒しましたよね」と言われるケースも珍しくはありません。
 

20150811コラム
 

キャリア教育の進行方法はプログラム内容によって異なりますが、教室に進行担当者が1~2名いて授業を進めていく場合と、体育館などで小グループ(生徒5~20人)に担当者が一人ついてワークショップ形式で進めていく場合の2パターンが多く見られます。様々な中高生を相手にするため、絶対に成功する方法はありませんが、進行役の技量によってある程度は場をコントロールすることが可能です。一方で、進行役の技量によっては、キャリア教育のプログラム自体が成り立たなくなってしまうケースもあります。以下、私が経験したプログラムがうまくいかない5つの特徴を挙げてみました。

 

1.授業が始まった直後、生徒との信頼関係ができていないのに、いきなり双方向のコミュニケーションをしたがる。

2.一度に話す量が多く、話が長い。つまらない。

3.一人の生徒に手をかけすぎる。目立つ子への対応に追われて、目立たない子への対応ができない。

4.生徒にやたらと敬語を使う。

5.キャリアカウンセラーの資格更新のためのポイント稼ぎ(更新には一定のポイントが必要)のためにNPOのスタッフに登録・登壇・講習受講をしている。

 

20150811コラム写真②

 

プログラムの内容によって進行方法も求められるスキルも変わってくるのですが、上記の5つの点だけは、ほとんどのNPO事務局の方が「やらないでほしい」「やるとうまくいかない」点として挙げられています。1~3については、私自身も何度か失敗の経験があります。
 

個人的に厄介だなと思うのは、5番のタイプの方です。私の経験上、教育系NPOの登録スタッフでもっとも多いのが各種機関で発行されたキャリアカウンセラーの資格を持っている方々です。キャリアカウンセラーは双方向でのコミュニケーションを心がける方が多いのですが、限られた時間の中で複数人の生徒を相手にするキャリア教育の授業においては、キャリアカウンセラーの講座で学んだ原理原則が正しいとは限りません。また、学校にとって大切な授業の時間を使い、生徒にとっても貴重なキャリア教育の場を、ポイントを稼ぐという目的で利用されるのは、同じ登録スタッフとしては悲しい気持ちになります。
 

その一方で、キャリアカウンセラーの方でプログラムの進行が素晴らしい方がいらっしゃるのも事実です。だからこそ、ポイント稼ぎが目的という方々が増えることで「キャリアカウンセラーは使えない」というイメージが定着してしまうことはNPOにとってもキャリアカウンセラーにとっても不幸なことだと思うのです。
 

私自身もキャリア教育に関わらせていただいている中で最も大切だと感じているのは、目の前の生徒たちに対し、限られた50分とか100分という時間の中で何を残せるのかを徹底的に考え抜いて行動することです。そして、目的達成のためにできること徹底的に考え抜くことは、キャリア教育に関わらず、すべてのNPOや社会的活動に関わる方に求められていることであるはずです。社会問題を解決する活動の中に自分たちの都合を過剰に持ち込む姿勢は、結局は目的も達成できず、誰も幸せにできないのではないかと思うのです。
 

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この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。