ネガポジ流のキャリア教育―「やりたいこと」ではなく「やりたくないこと」から考えてみる―

「あなたの夢はなんですか?」
「あなたのやりたいことはなんですか?」
「あなたは将来どのような自分になりたいですか?」
 

記憶を辿れば保育園の時から、小学校・中学校・高校・大学、そして社会人になってからも、この問いは常に私の日常に存在していた気がします。私自身この手の質問が苦手ではなかったので、聞かれる度に「先生だ記者だ翻訳家だママだ」と約半年に1度は変わるブレブレの願望を惜しげもなく語っていました。
 

違和感を覚えたのは、「小中高生の学習支援」「不登校生に関わる活動」を始めた4年前の大学生時代からです。学校に行っていない子、学力が著しく低い子、家庭状況が複雑な子、手首を切っている子、自分が大嫌いという子。本当にいろんな子がいて、自分が生徒側にいる時は、こんなにいろんな子達がいることということに全く気付きませんでした。
 

一方の私達「教育者」側。それぞれ違いはあれど、教育に対して熱い想いを持ち、ざっくり言えば「子どもたちを今よりも良い方へ導こう」という志を持つ「キラキラした感じの人」が、私も含め、たくさんいました。そのポジティブでキラキラでイキイキとしたオーラから、目の前の生徒達に向かって、なんの悪気もなく真っ直ぐに放たれる問いと声かけ。
 

「やりたいことはある?」「夢はある?」「前向きに頑張ろう!」
 

その時の、言いようのない違和感と空気感。何人かの生徒たちの、なんとも言えない反応と表情を見た時に、この問いが持つ「暴力的な押しつけがましさ」という側面を初めて感じた気がします。
 

20150618
 

「ネガポジ先生」こと黒沢一樹さんが代表を務める「若者就職支援協会」が提供する、高校生向けのキャリア教育授業に先日参加させてもらってきました。授業のスタイルは、私たち大人1名と複数人の高校生がグループになり、与えられた「あるテーマ」について一緒にお話するというもの。全員に共通のワークシートが配布され、そのシートに書かれたテーマに対してまずは大人が自分語りをして、それを参考に高校生が内省を行うことで、生徒たちが自分自身の中にある想いと向き合う形になります。
 

黒沢さんにお会いしたのは初めてだったのですが、幼少期の家庭環境・学校環境で虐待やいじめを受け、中学を卒業してから働き始めて50社での就労、2度の事業失敗などの経験を重ねてこられた方、とのこと。「なんて壮絶な人生だ」大変不躾ながらそう思いました。完全に私の主観です。
 

その黒沢さんが掲げる思考法、且つ今回の授業のテーマとなったのが「ネガポジ」という言葉。「おそらくはネガティブとポジティブを足した造語なのだろう」くらいの予想はつきましたが、その意味を実感したのは授業で使用するワークシートを見た時でした。
 

資料転載禁止のため、質問項目とシートデザインは少し変えております

資料転載禁止のため、質問項目とシートデザインは少し変えております


 

なるほど斬新。「~ない」の否定語×3。
 

通常の、というと語弊がありますが、こういったキャリアの授業で問われるのは「やりたいこと」であり「なりたい姿」であり「そうなるために」であるのが主流なイメージ。それらをすべて「ない」に覆したこれらの質問項目を見て、「あ、これすごくいい」と率直に感じました。
 

その「すごくいい」を、実際に体感できたのは、授業開始後。私のグループに集まってくれたのは、いわゆる「やんちゃ系男子」の集団。私に興味を持ったのではなく、私の後ろに設置されていた巨大扇風機の前で涼みながら授業をサボるために来たという意思が彼らの全身から溢れ出していました。もはや清々しい。
 

「この不真面目っぽい感じが逆に健全だよな」という思いを頭の片隅に追いやり声をかけ続ける私を、全力で無視して遠慮なく騒ぎ続ける彼ら。
 

じゃあこちらも正攻法は辞めようと「もう勝手に見るで」とシートが挟まった彼らのファイルを勝手に開いていくと、
 

【なりたくない姿】
 

・余裕のないやつ
・人に対して優しくない
・人に謝らない
・ありがとうが言えない
・人に気を使えない
・女に優しくない
・働きもせずに遊び続けて家族に迷惑をかける
・ギャンブルばっかりする
・稼げない
・くさい
 

意外と、全員しっかり書いてくれていました。書いている内容をきっかけにして、それぞれの生徒たちと話します。
 

「余裕のないやつってどんなやつ?」
「なんか、いつも焦ってたり、周り気にしたりしてるやつ」
 

「お礼と謝罪が言えない人は無理なんだ?」
「前に駅でどっかのオッサンが誰かと肩ぶつかったのに舌打ちしとって、こういうやつにはなりたくないと思った」
 

「女に優しくない男はまじで終わってる」
「いま私のことめっちゃ無視してるやん」
「実は聞いてるって」
 

「この「働きもせず」って」
「俺の親父」
「そうか、そうならんためにどうするよ?」
「ちゃんと働いて月収1000万稼ぐ」
「それだいぶすごいな」
 

ネガティブな問いを切り口にして、彼らは彼らなりに、このテーマと向き合ってくれていたのだと感じました。
 

「夢は?やりたいことは?」といったキラキラした前向きな問いに対して、時に「暴力的な押しつけがましさ」を感じると最初に書きました。
 

学習支援の時に関わった子どもたちから感じた自己肯定感の低さ、自分自身への期待値の低さ、あるいは「自分を低く見せておきたい」という気持ち。その心理状態で、前向きに自分の理想や将来を描けるのかと考えた時、それはおそらく「NO」で、その質問自体がその子たちを苦しくさせる恐れがあると私は危惧しています。
 

また、そうでなくても中高生ぐらいの時は、自分の夢を語ったり物事に真面目に取り組むことは「ダサい」と感じたりする年頃な気もします。今回の問いが「やりたいこと」「なりたい姿」だった場合、私のグループにいた「やんちゃ系男子達」の授業への取り組み方は少し違うものになったかもしれません。
 

ポジティブで前向きな問いかけよりも、一見ネガティブで後ろ向きな感じのする問いかけに答える時のほうが、その子の中にある感情と本音を素直に表出させやすいのかもしれないなと、今回の授業を通して感じました。
 

「ネガティブな見方こそポジティブである」という黒沢さんの言葉。
 

ネガティブという言葉の響きこそあまり良くないですが、ネガティブな自分の気持ちと向き合った先に、ポジティブな考えや行動変容が生まれる可能性があることを知りました。多感な時期の子たちに関わる際に、「ネガポジ流」という思考のストックが1つあると良いかもしれません。
 

(参考)
NPO法人「若者就職支援協会」ホームページ
http://www.syusyokushien.com/

若者就職支援協会代表 黒沢一樹さんのブログ「学歴なんかふっ飛ばせ」
http://blog.livedoor.jp/gakureki/

このライターの執筆記事

  1. 「本音で生きる」という決断― 起業家・小野貴也さんが摂食障害を克服できた理由
  2. 「本当はだれも死にたくない」-身近な自殺の食い止め方を、自殺の名所・東尋坊の茂幸雄さんに聞いた
  3. 3つの転機がもたらした、発病以来なかなか感じられなかった「生きやすさ」【脳脊髄液減少症】