障がい者だから「しょうがない」とは言わせない。納品の質にこだわる特例子会社、日総ぴゅあの挑戦。

新横浜駅のすぐそばにある、日総ぴゅあ株式会社。日総工産株式会社の特例子会社として平成19年(2007年)に立ち上げられました。知的・精神障害の方を中心に、70名ほど雇用している日総ぴゅあさん。「企業だから成果を出さなくてはいけない。働いているからには、価値を発揮してもらわないと意味がない。障害があろうとなかろうと、企業の本質は変わらない。」と語る宇田川社長のお話を聞きながら、ここまでの会社の歩みや人材育成の考え方を伺いました。
 

宇田川社長(右)とPlus-handicap佐々木(左)
宇田川社長(右)とPlus-handicap佐々木(左)

 

特例子会社とは、企業(親会社)が障害者の法定雇用率2%を達成するために、特例で立ち上げた企業(子会社)のことで、そこで障害者社員を雇用すれば、親会社の法定雇用率に反映される仕組みです。例えば親会社が1000名企業であれば、特例子会社で20名障害者社員を雇用すれば、親会社が障害者社員を雇わなくても、法定雇用率達成となります。
 

障がい者だから「しょうがない」とは言わせない。

 

日総ぴゅあさんは、パソコンでの入力業務や商品の組み立て・検品業務、社内外の清掃業務やハーブ&ティの製造販売業務など、多岐に渡る仕事を請け負っています。「時間がかかる」・「集中力を要する」・「根気がいる」などの細やかな仕事を幅広くお受けするとサイトにも記載されていますが、障害者の特性(ある作業への集中力が極めて高い・細部へのこだわりが強いなど)を生かした仕事を受託し、納めています。有名和菓子店の紙袋の作成や有名文房具メーカーの商品の組み立てなど、外注先として選定されることがクオリティの高さが証明しているようにも感じられます。
 

障がい者だからこの程度でもOKだよという仕事は絶対にしないし、させない。完成品を見て、その価値を理解してもらって、評判が立って、え?これ障がい者が作ってたんだ?という流れじゃないとダメだと思う。障がい者の為に仕事くださいでは、まったく意味がないと思うんです。

 

宇田川社長が語る言葉通り、QCD(品質・コスト・納期)への意識づけが強いことも相まって、最近では高単価の仕事が獲得できるようになり、主婦や刑務所での内職として流れていた仕事が、日総ぴゅあさんのもとに集まるようになってきているそうです。実際の作業現場を見ても、働く一人ひとりが自身の持ち味を発揮して、仕事を進めていました。
 

作業風景①
作業風景①

 

うちも企業だから成果を出さなくてはいけません。でも、障がいがあろうとなかろうと初めてやる仕事は難しい。だから、企業として成果を導きだすための必要な人材育成の部分は私たち健常者社員が支援するという気持ちはものすごく強い。障がい者社員を「チャレンジドスタッフ」というのに対して、サポートする立場の社員を「サーバントスタッフ」といいます。「チャレンジドスタッフ」が主体的に働けるように手伝うという意味合いが強い。彼らが自分たちの力だけで仕事ができるようにフォローしています。

 

日総ぴゅあさんの仕事の工程(ライン作業)は、障害者だけで完結しているものが多く、健常者の手を借りずに納品することもあります。これはかなりのインパクトがあること。「障害があるから◯◯できない」という印象に左右されず、仕事を切り分け、適材適所に配置する姿勢から生み出されているものです。
 

可能性を閉ざすことがもったいない

 

日総ぴゅあさんでは、会社の見学会を定期的に開催しています。軽作業を行うフロアやパソコン業務を行うフロアなどの見学を経た最後には、チャレンジドスタッフの方から業務内容についての説明が行われます。知的・精神障害の方が多数働く環境ということを鑑みれば、スライドを説明しながら発表するということ自体、驚きに値するものがあります。
 

発表を終えた直後のNさん。
発表を終えた直後のNさん。

 

見学コースでの最後のパワポの発表は保護者の方や特別支援学校の先生の方からびっくりされます。それなりのスキルを持ってないと働かせられないかな、エリートじゃなきゃダメなのかな、と思われることもしばしばです。でも、それは違う。今日発表したNさんも入社8年目を迎えますが、元々いた福祉施設の方からすると、企業での就業は長続きするか心配で、辞めるんじゃないかと思われていたし、実際いまだに人前で発表できるなんて信じられないと言われたりします。会社の務めは、いいところをひとつひとつ引き出していくこと。可能性を閉ざすのはもったいない。

 

結果のレベルを問わず、そのひとにとって一歩進めたという評価を査定、上司の推薦によって選ばれる賞揚制度、オンリーワンのスキルを持っているひとを選出するマイスター(ぴゅあのその部門の社長だと言われています)など日総ぴゅあさんの人材育成の制度は充実しています。全員のロッカーには設定された目標が貼ってありますし、ひとと関わり、面倒を見ることに長けているひとはリーダー・サブリーダーに抜擢されます。
 

見学会を通じて、本人、保護者、学校の先生と就業のイメージが湧きます。また、日総ぴゅあの場合、仕事の数が多いので、合った職種を見つけられる可能性が高く、ジョブローテーションも可能です。年数が経てば状況が変わることももちろんある。業務横断型で社員70名を障がい特性、業務特性、個人スキル、その時その個人の状況等で客観的に見る部門も作りました。ミスマッチがあっても修正できるというところが強みかもしれません。

 

特例子会社もひとつではありません。人材育成の力が、結果的に採用力にもつながっているのではないでしょうか。
 

作業風景②
作業風景②

 

ここまでは正解かもしれない。さて、これからは?

 

2007年に創業した日総ぴゅあさんは2017年が10期目。ここからを第2ぴゅあと捉え、新たなスタートを切る覚悟のようです。
 

従来の特例子会社とは少し違う企業形態でスタートした為に、創業当初は「ぴゅあさん大丈夫?」と言われていましたが、ここまでの歩みを振り返ると選んだ道は正解だったような気がします。自社の営業で仕事を獲得してきて、70名雇用してきた。これからはどうやって定着させ、定年まで働かせるかというところがテーマ。会社としての戦力化、モチベーションアップ、生活水準を引き上げる。ここに力を注いでいかなくてはいけません。これからの半年でいろいろなことを整理しながら、施策を打っていきたいと考えています。

 

作業風景③
作業風景③

 

特例子会社は障害者雇用における法定雇用率の遵守に向けた施策のひとつでもあります。雇用率という言葉にあるように、行政も企業も支援者も、「就職/雇用」というところに目を向けますが、その先にある「定着」や「育成」という面までは、なかなか注力できていないことは事実かもしれません。さらなる先、生活の質の向上(QOL)への意識はこれからの話でしょう。
 

言ったからには、やらないとね。CSRは宣言したからには、自らを追い込んででもやっていかないといけない。自分たちに緊張感を与える上でも、会社見学の積極的な開催や広報活動を通じて、企業としての露出度を高くしないと。

 

日総ぴゅあさんの見据える先、そしてその覚悟は、障害者雇用の未来を創り出してくれるのかもしれません。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。