「会社の先輩や上司の能力の低さを見て、自分もこの仕事を続けていたらこうなってしまうかもしれないと不安になり、3年で辞めようと決めました。入社してちょうど1年が経った頃だったと思います。」
慶応大学を卒業し、就職人気ランキング上位常連の大手企業に入社したFさんの「なぜ3年で辞めたのか?」という質問に対する回答です。
「若者はなぜ3年で辞めるのか?」という本が発売され「大卒は3年で3割辞める」という現象が一気に有名になりました。ゆとり教育と呼ばれる世代が大学を卒業して社会人になり始めると「ゆとり世代は根性がないから3年で辞めてしまう」という話をする人も出始めました。毎年4月になると、ネット上では「今年のゆとりの信じられない言動」などと称して、様々な情報(ネタ)が投稿されています。
では、ゆとり教育と3年以内の退職には関係はあるのでしょうか。
厚生労働省が行っている「新規学卒者の就職離職状況調査」では昭和62年以降、大卒新卒者の3年以内離職率を調査し公表しています。このデータによると、調査を開始した昭和62年時点で大卒者の3年以内離職率は28.4%と約3割です。その後、一時低下傾向になりますが、平成7年以降10年以上も30%以上の水準で推移し、平成21年に15年ぶりに30%以下となりました。つまり、ゆとり教育世代以前から大卒者は3年で3割辞めていたのです。
このデータを根拠に「もともと3年で3割辞めるものなのだから大卒の早期離職など問題ではない」と主張する方もいます。また、外資系出身の方を中心に「もっと人材の流動性を高め、3割と言わずに4割、5割と高い転職率を目指すべきである」と言う方もいます。
私は2012年に新卒入社の会社を3年以内で退職した方(早期離職者)100名への個別インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめました。インタビューの結果わかったことは、早期離職には大きく分けて2つのタイプがあることです。
一つは、退職した会社に対してポジティブな印象を抱いている「ポジティブ退職」。主な退職理由は「別にやりたいことが見つかった」「前からお世話になっていた会社に声を掛けられた」「起業したいから」などです。
もう一つが退職した会社に対してネガティブな印象を抱いている「ネガティブ退職」。主な退職理由は「上司や先輩、同僚のパワハラ、セクハラ」「うつ病になった」「尊敬できる社員がいない」などです。最初にご紹介したFさんは大企業でのネガティブ退職の典型例と言っていいでしょう。
そして、私のインタビューではポジティブとネガティブの比率は約2:8という結果でした。ほとんどの早期離職者はネガティブ退職なのです。
さらに、ネガティブ退職者のうち約2割はうつ病などの病にかかっており、直接的にはうつ病が退職の理由という方も少なくありません。
前述の通り、大卒3年以内離職率については様々な意見がありますが、私はこれだけネガティブな退職者が多い状況は改善すべきだと考えます。そして、ネガティブ退職者を減らすことは結果的に早期離職率を下げることになるため、大卒の3年以内離職率は今の水準よりも下がるのが望ましいと思います。
最近では、転職者による口コミサイトなども増え、元社員から転職希望者に対して企業の文化や人間関係などの生々しい情報も共有されるようになりました。また、ハローワークの求人票には3年以内離職率の記入欄が追加(記入は求人企業の任意)されています。企業側にとってもネガティブな退職者を増やすのは得策ではない時代となり始めています。
では、ネガティブな退職者を減らすためにはどうすればよいのかという話になるわけですが、まずお伝えしておきたいのは、簡単にネガティブな退職を減らす方法などないということです。
社員がネガティブな感情を抱いて辞めるのは、多くの要因が複雑に絡まりあった結果であり、それぞれの要因や絡まり方は企業や退職者個人によって異なります。そのため、社員が退職に至った理由をしっかりと分析できないまま対症療法的な対応をしても、すぐに退職者が出てしまう可能性が高まります。
ですから、大切なことはそれぞれの企業や法人において、退職者の退職理由にどんな傾向があるかを知ることです。退職理由を知らずに「きっと、これに違いない」と考えて手を打っても、見当違いの対策では無意味です。
早期離職者の全体傾向、そして、それぞれの傾向別にどんな対策をとるべきなのかという点については、今後の記事、現在作成中の「日本生きづらさ大全」の中で言及していこうと思います。
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