私が早期離職白書をつくった理由

井上さん

 
これまでの私の記事でも何度かご紹介してきた早期離職白書。これは、私が2012年の一年間をかけて、早期離職した若者100名へ直接インタビューを行い、更に退職企業に対する満足度のアンケート結果を分析したものです。大学生の卒業論文をもう少し一般の方にも読みやすくしたものだと思っていただければイメージしていただけるかもしれません。
 

今回は、私がなぜ早期離職白書をつくったのか?について、私の自己紹介も兼ねて書かせていただきます。
 

一言で簡単に言ってしまえば『自分自身が早期離職者だった』からです。
 

私は大学卒業後に入社したコンサルティング会社を1年10ヶ月で退職しました。キャリアアップ転職ではなく、次の転職先も決まっていない状況で、まさに逃げ出すように退職しました。実は、退職の2ヶ月くらい前、打ち合わせ中に突然涙が止まらなくなりました。それも一度だけでなく二度も。普段の私からは想像がつかない状況です。なにしろ一番驚いたのが泣いている私だったのですから。感情的になったわけでも叱責を受けたわけでもなく、突然涙が止まらなくなったのです。たしか、「これってどういう意味?」程度の質問を受けた瞬間、涙が止まらなくなったのだと記憶しています。しかし、なぜか異常なまでに冷静で、涙が出てくること以外はまったく普段と変わりなく打合せを続けていました。涙が出たときは「かなり精神的にきてるんだろうな」程度に思っていたのですが、さすがにもう一度その症状が出たときに「会社を辞めよう」と決断しました。
 

退職届
 

当時の私は「業務改善」という名目のリストラ目的のプロジェクトを担当していました。クライアントからお金をもらってクライアント企業の社員をリストラ(整理解雇や左遷)する。そんな仕事です。社会人2年目で仕事にも慣れてきて、自分の仕事を少し冷静に見られるようになってくる時期で、そんな仕事をしている自分が嫌になったのです。「この仕事って誰かのためになっているのか?」「こんなことしてお金もらっていいのか?」そんな青臭い感情が私の中で沸々と湧いてきたのです。
 

私が勤めていたコンサルティング会社は業界内では給料が高い方ではありませんでしたが、それでも一般的には高い水準にありました。実家暮らしだった私には充分過ぎる給料です。社内の人間関係も良好で、大きな支障はありませんでした。賃金や人間関係といった一般的に「転職を考えるきっかけ」と言われる要素は満たされていました。ただ一つ不満があったとすれば「仕事の意義」です。当時の私は自分の仕事に意義を見出せなくなっていました。
 

つまり、「仕事の意義が見出せず」退職したのです。
 

自分が退職をすると、同年代の友人から「転職したい」という相談を受けることが増えます。みんな経験者に話を聞きたいのでしょう。そのとき、若い人がこれだけ会社を辞めたいと思っている現状に不自然さを感じたのです。
 

同じ頃、「日本でいちばん大切にしたい会社」という本に出会いました。その本に出てくる企業は「社員第一」を実践しながら収益も上げている企業。そんな企業が増えれば会社を辞めたいと思う人が多いこの状況も改善されるのではないだろうか?そう考える様になりました。
 

また、私は、なぜみんな自分の経験からしか語らないのだろうかということに疑問を感じていました。例えば、3年以内に退職する早期離職に関しても、ステップアップできたと感じている人は「一つの会社にずっととどまらない方が良い」と言います。一方、早期離職したことを後悔している人は「一つの会社には最低3年はいた方が良い」と言います。早期離職を経験していない人は「自分の友人はこう言っていた」「本でこんな風に読んだ」というレベルで早期離職に関して意見を述べます。
 

早期離職は、「最近の若い人は根性がない」「働く意義なんて求めるな」「昔は○○だった」という言葉で、どうしても済まされてしまいます。さらに、「日本の人材流動性を高めるべき」「3年以内で辞めることの何が悪いのかわからない」という意見もありました。当時の私は漠然と「早期離職は企業にとっても個人にとっても損」と考えていたのですが、それは自分の経験でしか言えないため、実証することはできません。したがって「まずは自分が早期離職者の実態を知ろう!」と決め、NPO法人NEWVERYが発行していた『中退白書』を参考に、早期離職者100人への直接インタビューを実施しました。実は大学時代に、社会学の授業で3年以内の離職率が「七・五・三(中卒が7割、高卒が5割、大卒が3割)」となっていることは教わっていました。ちょっと勉強すれば「最近の若者がすぐ辞める」なんてことは嘘だとわかるのに、それすら世間ではほとんど知られていない事実に驚きました。
 

早期離職という事象についてもっと多くの人に知ってもらいたいという想いで早期離職白書を作成し始めましたが、インタビューを通じて、退職理由は百人百色だということに気がつきました。「早期離職の理由はコレだ!」というものに帰結させていたいと考え、詳細なアンケートを取っていたことで、かえって退職理由の多様性に気づきました。
 

実際にインタビューを続けるにあたって、「ひとつの理由に帰結させることに何の意味があるのだろう?」と感じるようになりました。早期離職者の状況について定量的に把握することは重要です。しかし、個々別々の事情があって辞めているにも関わらず、社会は一つの理由に帰結させようとしています。ここには大きな矛盾がありますし、私自身も矛盾に嵌るところでした。
 

結果として、一人ひとりの社員に対して、向き合っていないことが早期離職につながっているのではないかと考える様になりました。コーチングやキャリアカウンセリングの資格取得者が増えていることも、個々人への対応が企業内でも重要視されている結果だと考えています。
 

私が早期離職白書を通じて社会に発信すべきなのは、「早期離職の原因は様々である」こと。そして、「早期離職者のリアル」ではないかと考えるようになりました。
 

もちろん、「百人百色でした、まとめられていません」ではあまりにお粗末なので、早期離職につながる要因については整理しました。(このあたりは「若者はなぜ3年で辞めるのかの真実」をご覧下さい)
 

基本的には早期離職の理由は人それぞれであり、一人ひとりに向き合わなければ、本当の理由というのはなかなか分かりません。だからこそ、早期離職白書を通じて、自分の周囲に似たような状況の人がいないか、早期離職者に多い傾向が現れていないか、考えてもらうきっかけにしてもらいたいと考えています。
 

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