障害者雇用において、雇う側(経営者側)の意見を踏まえ、働く側(障害者側)に必要な2つのこと

中小企業における障害者雇用について、経営者(雇う側)へインタビューを行いました。前回の記事「中小企業における障害者雇用の問題点を中小企業の経営者に聞いてみました」では、経営者の方の本音を通じて、中小企業における障害者雇用の現実をお伝えしましたが、今回は、それを踏まえて、障害者雇用で(障害者側に)必要なことを書きたいと思います。
 

前回同様、回答者は、アミューズメント業を営むAさん、デザイン業を営むBさん、業務改善を中心としたコンサルティング業を営むCさんです。インタビューの最後にこんな質問をしました。
 

(障害者雇用を行わない・行えない理由は理解しましたが)中小企業で採用可能な障害者の社員像を教えてください。

 

「前に言ったように、うちの会社で障害者雇用をすることは難しいという前提で話すと、ウチの業界が好きな人で、能動的に動ける人を希望する。この業界は世間からの風当たりが厳しいんだけど、社員は『それでも頑張ろう!』という気概を持った人間が多い。苦労することをわかっていて入社してくる人たちばかりなんだよ。だから、変な話、『会社に〇〇してほしい!』という気持ちの人には務まらないと思う。(Aさん)」
 

「具体的に出来る仕事が明確な人かな。ちょっと専門的な話をすると、『中小企業は適所適材』という言葉がある。元々の言葉は、知っている通り『適材適所』で、大企業の人材戦略ではこの言葉をよく使う。これは、たくさんの人を雇って、数多くある自社のどこかのポストに配置する、ということ。だけど、中小企業はそもそも会社にそれほどポストが無い。ポスト(仕事)が空いた時に初めて人を雇う(補充する)。だから、『適所適材』ということになる。つまり、(空いたポストで必要となる)具体的な職業スキルが必要なんだよね。もちろん、最初から全部できるわけではないと思うけど、少なくとも『〇〇の仕事をしたい』という意識は持っていてほしい。(Cさん)」
 

「僕は、自分の会社のことでしか語れないけど、やっぱりデザインが出来る人だよね。もちろん、完成されたスキルまでは必要ないけど、最低限のデザイナーとしての素養は必須。そうじゃないと話にならない。でもね、一つだけ言うと、僕は雇えるものなら、本当に障害者を雇用したいと思っている。デザインというのは、デザイナーの世界観が勝負なんだよね。障害者の方は、良くも悪くも普通の人たちと違った世界を生きてきている。そういう人のデザインを見てみたいし、自分で育ててみたいとも思っている。(Bさん)」
 

中小企業経営者の言葉をまとめると、障害者雇用で、働く障害者側に必要なことは以下の2点だと思いました。
 

戦略性と専門性
 

つまり、どんな仕事をしたいのか?を明確になるまで考えて、必要となる職能スキルを身に付け、やりたい仕事が行える会社を探して応募する。そして、受かるまで応募し続ける。ということです。
 

経営者の言葉からもわかるように、中小企業は、健常者・障害者関係なく、「出来る仕事(職業スキル)が明確な人間、もしくはやりたい仕事が明確な人間」を採用したがっています。そうした雇用者のニーズがある中で、仮に、「自分は何が出来るかわかりませんが、雇ってください。自分を雇うと、障害者雇用の法定雇用率にも寄与でき、場合によれば助成金も支給されます。」というアプローチをしても、それでは採用に至らないことが多いと理解できると思います。むしろ、助成金目当てだけで採用をしようとする経営者がいたら、そもそもその人は会社の人材戦力をキチンと考えていないことになるので、経営能力そのものを疑ってしまうことになることも理解できるかと考えます。そんな人の下で働くのはリスクが高いです。
 

「戦略性と専門性」と一言で言っても、難しいと思います。健常者でも考えていない人は多い。しかし、雇う側のニーズがそこにあるのであれば、考えていく必要はあるのではないでしょうか。もちろん、障害の種類や程度によって、考えられる・考えられないことはあると思いますし、できる・できないもあり得ると思います。ただ、「障害者だから〇〇の仕事しかできない」と決めつけて、自分から可能性を狭めてしまうのではもったいない。そのためにも、まずは、世の中にどんな仕事があるのか、という情報収集から始めてみることをお勧めします。
 

自分のやりたいことが見えてきたら、あとは根気よく会社を探すだけです。会社(特に中小企業)はたくさんあります。全国で約430万社、日本の企業の99.7%が中小企業です。自分から探していけば、見つかるかもしれません。
 

障害者雇用の可能性に関して、Aさんはインタビューとは別に、以下のような言葉をおっしゃっていました。
 

「健常者は障害者の(物理的に)出来ない部分にだけ、目がいってしまう。それは仕方のないことだと勘弁してほしい。一方で、健常者は、障害者の方々の可能性についても見えていない、という気持ちを個人的には持っている。だからこそ、障害者側から出来ること・出来るようになりたいと思っていることを教えてほしい。そうすれば、こちらからもお願いすることも見つかるかもしれない。」
 

前回の記事の冒頭でも書いたように、社会全体で障害者雇用に関する取り組みが盛んになってきています。その際、会社側に「障害者を雇いましょう!」とプッシュするだけではなく、障害者側からも働くことへの「戦略性と専門性」の視点があれば、障害者が働きやすい社会になっていくのではないかと思います。会社側も障害者雇用への理解、促進は今までよりも進んできている分、障害者自身が企業への提案、助言を実施する段階に入ってきたのかもしれません。
 

記事をシェア

この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。