脳脊髄液減少症に関連する学会にて。患者が感じた違和感その1

昨年末、脳脊髄液減少症に関する学会に参加しました。なかなか文章がまとめられず半年経過していたのですが、紆余曲折を経て4年ぶりに脳脊髄液減少症と向き合うことにしたこともあり、やっと記事にすることができました。学会のタイトルは、下記の通り長いです。
 

「日本賠償科学学会、低髄液圧症候群・脳脊髄液減少症・脳脊髄液漏出症の解剖と生理、そして臨床と裁判。」
 

日本賠償科学会とは、損害賠償に関する諸問題を医学と法学の両側面から学際的に研究し、人身傷害の認定並びに民事責任の認定の適正化に資することを目的とする学会である(サイトより引用)。
 

この学会の趣旨をまとめると下記の通りです。

1.臨床現場から交通事故由来の外傷性脳脊髄液減少症発症の可能性の有無

2.脳脊髄液減少症自体と造影剤注入による“CT検査に起因する脊髄液漏出の見分け方

3.ガイドラインによる脳脊髄液減少症の該当数の変動

4.統計データや司法の場での扱い
 

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定員432人に対して646人が参加。私はダメもとで当日の整理券狙いでなんとか潜り込めました。休憩時間に出席者の名札を見ると保険会社関係者が大多数を占めており、保険会社員7割、医師2割、弁護士・他関係者少々、当事者はほぼいなかったと思います。会の最後で脳脊髄液減少症患者の家族会の代表者一名が2~3分発言されていました。
 

以前、そして先週から改めてお世話になっている国際医療福祉大学熱海病院の篠永医師も登壇されました。極端にいうと脳脊髄液減少症の存在を肯定し、患者を治療してきた篠永医師VSその他大勢の否定派という印象でした。
 

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【家族会がまとめた当日の賠償学会要点】

*ちなみに動画内で触れられていた現在唯一の治療法の保険適用は見送られました。詳しくは次回取り上げます。
 

今回学んだことは、脳脊髄液減少症には2種類あることです。

外傷性脳脊髄液減少症:交通事故をはじめとする何らかの外的要因により発症する

突発性脳脊髄液減少症:主たる原因が分からない

 

 

私が診断された10年前は、脳脊髄液減少症の有無が議論されていたように思います。現在は、外傷性、特に交通事故によるむち打ちにより発症するのかどうかが主な焦点になっています。これは、そのまま損害賠償や裁判に直結し、保険会社の業績に直結する問題です。学会に参加したことで、同病者同士での情報交換や医師と患者のやりとり、ネット上の検索だけではわからないことが垣間見えた気がしました。
 

厚労省側に立ちガイドラインを策定している医師、保険業界とそれらに繋がっているであろう医師達と、病気の治療に向き合う医師との衝突。質疑応答の際、外傷性脳脊髄液減少症の存在を疑う質問が出ると、会場内から大きな拍手と歓声が沸き起こった時には異様な空気を感じました。病気を取り巻く社会情勢もまた垣間見えた気がしました。
 

私のような部外者かつ病気を抱える当事者が参加して印象に残ったことは、賠償学会という学会の性質上かもしれませんが、医師の研究やガイドラインの策定根拠についての駆け引き、研究成果の報告など、患者ありきではないデータや論文上のやりとりでした。唯一、患者を救うために活動されている医師のみが、患者を正面に見据えて発表されていましたが、他の医師とは面識もなく、反対意見も多い中、肯定派医師からは気概・情熱が伝わってきました。自らが当事者であるからかもしれませんが、医師のその姿勢に、日々痛みと向き合いながら過ごすことへの勇気をもらった気がします。
 

病名なんてどうでもいい、困っている人が数十万人単位でいる事実を受け止め、周知と治療につながればと思います。鼻っから否定している人はともかく、交通事故に限らず誰しもが発症し得る脳脊髄液減少症、自身や身内が同じ状況に立ったらどうなのかとも思ってしまいました。
 

学会を経て自らを振り返ると、自分の症例は外傷性でなく突発性なのかなと、なんとなく感じました。窮屈な席に痛みは疼き、数時間の座りっぱなしはかなり堪えましたが、終了後、登壇されていた医師にお礼と近況報告をしに行きました。数年分の苦悩と葛藤が溢れ出て、うまく言葉になりませんでしたが、それでも医師は、「また来なさい。必ず治るから」と言葉をかけてくれました。
 

今回、全容を書ききれなかったので、次回は各登壇者の主張と、脳脊髄液減少症の診断基準となる複数のガイドラインについて取り上げてみたいと思います。
 

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*定員オーバーのため隣の部屋も臨時会場に
 

参考までに学会のプログラムは下記の通りです。当日は、登壇者の発表内容や研究成果を記載したA4百ページほどの資料が配布され、発表や質疑応答が行われました。学会自体は、予定を一時間ほど延長しました。
 

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【日本賠償科学会 第63回研究会】
会 期:2013年12月14日(土) 13:00~17:40
会 場:JA共済ビル カンファレンスホール
研究会会長:辻 泰(JA共済総合研究所 医療研究研修部)

プログラム
シンポジウム:『低髄液圧症候群・脳脊髄液減少症・脳脊髄液漏出症』の「解剖と生理」そして「臨床と裁判」 13:20~17:30 座長:小松初男(虎の門法律事務所 弁護士)井上久(順天堂大学 整形外科・スポーツ診療科講師)

1.「脳脊髄液循環の基礎と解剖 -病態を理解するために-」秋田恵一(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科臨床解剖学分野 教授)
2.「外傷性脳脊髄液減少症は稀な疾患ではない!!-交通外傷後脳脊髄液減少症の多数の臨床経験から-」篠永正道(国際医療福祉大学熱海病院 脳神経外科教授 厚生労働科学研究費補助金による研究 研究分担者)
3.「外傷性脳脊髄液減少症は稀な疾患である!!」 吉本智信(公立学校共済組合 関東中央病院 脳神経外科部長)
4.「難治性むち打ち損傷患者に髄液漏れが発症しているのか? -整形外科臨床医の立場から-」 遠藤健司(東京医科大学 整形外科講師)
5.「脳脊髄液漏出症の画像判定基準と画像診断基準(基準作成の概要)」 佐藤慎哉(山形大学医学部総合医学教育センター 教授 厚生労働科学研究費補助金による研究 研究分担者・研究事務局)
6.「交通事故による脳脊髄液減少症の発症の有無、因果関係についての裁判上の法的判断について」 羽成守(ひびき綜合法律事務所 弁護士)

*指定発言
・「外傷性脳脊髄液減少症という疾患は存在しない!!-慢性外傷後頭痛500例の治療経験と病因についての考察-」 高木清(千葉・柏たなか病院 正常圧水頭症センター)
・「外傷に伴う低髄液圧症候群について」 有賀徹(昭和大学病院病院長・救急医学講座主任教授 厚生労働科学研究費補助金による研究 研究分担者)

【 徹 底 討 論 】16:20~17:30
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この記事を書いた人

重光喬之

10年来、脳脊髄液減少症と向き合い、日本一元気な脳脊髄液減少症者として生きていこうと全力疾走をしてきたが、ここ最近の疼痛の悪化で二番手でもいいかなと思い始める。言葉と写真で、私のテーマを社会へ発信したいと思った矢先、plus-handicapのライターへ潜り込むことに成功。記事は、当事者目線での脳脊髄液減少症と、社会起業の対象である知的・発達障害児の育成現場での相互の学び(両育)、可能性や課題について取り上げる。趣味は、写真と蕎麦打ち。クラブミュージックをこよなく愛す。