中小企業における障害者雇用の問題点を中小企業の経営者に聞いてみました。

2013年4月の障害者雇用率制度の改定を皮切りに、障害者雇用に関する取り組みが盛んになっています。該当となる大企業も障害者の採用には力を入れておりますし、各自治体でも各々の障害者雇用率の発表等を行っています。今後は障害者雇用への取り組みは一層中小企業にも求められることになるでしょう。
 

では、実際に中小企業としては、状況をどのように受け止めているのでしょうか?「現在、障害者雇用を行っていない中小企業の経営者」に対して、「障害者雇用を行っていない(行えない)理由」についてインタビューを行いました。今回インタビューを行ったのは社員数50名以下で、法定雇用率の対象外になる経営者の方々ですが、中小企業経営者の「本音」を探るという意味において、有意義ではないかと考えています。
 

今回は「障害者雇用を行っていない(行えない)理由」についてまとめてみました。3名の経営者の回答をまとめておりますが、それぞれ、アミューズメント業を営むAさん、デザイン業を営むBさん、業務改善を中心としたコンサルティング業を営むCさんです。制度上の問題はありませんが、障害者雇用を行っていないということが記事の前提となるので、発言内容に匿名性を持たせております。ご容赦ください。
 

障害者雇用をしようにも、そもそも出会いが無い

 

「法定雇用率が引き上げになるなど、障害者雇用への取り組み・推進が求められていますが、中小企業の経営者としてどのように感じていますか?」
 

「ニュースでは聞くけど、特に状況の変化は感じていない。会社は社会とともにあるべきと考えているから、社長業をやっている以上、社会に貢献したいという気持ちは人一倍強いつもりだ。だから、障害者の方を雇うことに対して、決して、後ろ向きな気持ちではない。(Aさん)」
 

「うちは、クリエイティブ関連の仕事だけど、そもそも障害者を雇う前段の話として、『自分を雇ってほしい』という人に出会ったことはほとんどないんだよね。(Bさん)」
 

「うちなんかは、知る人ぞ知る人小さな会社だからね。探し当ててもらうことは不可能に近いと思うよ。(Cさん)」
 

「障害者を雇用する場合の方法ってどのようなものを活用すると思いますか?」
 

「自社のHPに採用ページをつくっている。つまり、来てくれる人を待つのみ。これは、健常者も障害者も関係ない。(Bさん)」
 

「大企業みたいに、求人広告を出したり、エージェントに依頼するなんてことはあり得ない。そんなお金があれば、既存社員の給料に回したい。ましてや、エージェントを使ってまで障害者の採用はしないのが現実だよ。(Cさん)」
 

「ハローワークを利用したことはあるけど、そこで障害者の人を紹介されたことはない。そもそも、中小企業はギリギリの人数で経営していて、いわゆる健常者を確保するのも難しい。あえて、障害者の人を雇おうと考える人は少ないと思う。(Aさん)」
 

障害者を採用する・しないを分けるもの

 

「御社のHP等を通じて、障害者の方から面接を希望してきたとしたら、お会いになりますか?」
 

「まずは会う。障害者だからと言って、門前払いはしない。(Bさん)」
 

「会うつもりはあるけど、うちの会社はバリアフリーではないので、会社へ面接に来られない障害者の方も出てくると思う。(Cさん)」
 

「『自分のところで働きたい』という気持ちは嬉しいんだけど、その質問の回答は保留。(Aさん)」
 

「採用する可能性ってどれくらいありますか?」
 

「もちろん、可能性はある。数は少ないけど、実際に、社長面接を行ったこともある。でも、専門性が足りなくて不採用にした。それは、健常者も障害者も一緒だと思う。(Bさん)」
 

「採用はしたことが無いけど、うちはお客様と直に接するサービス業だから、正直難しいと思う。障害者の方がお客様と接した際に、お客様がどう感じるかわからないからね。変な話、お客様も理解がある方ばかりではないから。会社のイメージを損ねるリスクは避けたい。あと、現場経験の無い人にバックヤードの仕事も任せにくい。障害者の方を雇いたいという気持ちと矛盾する回答だけど。(Aさん)」
 

「おそらく雇わないと思う。自分自身が障害者のいない世界で育ってきたから、障害者の方との接し方がわからない。そして、そのことに時間を使うのであれば、会社が生き延びていくための方法を考えることに少しでも力を注ぎたい。(Cさん)」
 

障害者雇用に対する懸念点

 

「仮に、『(法律等で強制的に)障害者雇用をしなければならない』となった時、社長が危惧することはなんですか?」
 

「現場の混乱だね。仮に社長の一存で障害者を雇ったとしても、社長が常にいるわけではないから。一緒に働くのは現場の人間。彼ら(自社の社員)は、今まで健常者としてその世界だけで暮らしてきた。もちろんそれは悪いことではない。それが、いきなり、『今日から障害者の方と働いてください。』と言われたら、接し方がわからず、混乱すると思う。そうすると『社長ふざけんな!自分だけ格好つけて障害者雇用して、あとは現場に丸投げか!』という気持ちになると思う。下手をすると、それが退職の理由(遠因)になる可能性がある。(Cさん)」
 

「さっき言ったことに近いけど、お客様の反応だね。普通に動ける健常者のスタッフだってお客様のクレーム対象になる。仮に、障害者のスタッフがお客様に失礼をした場合にも、『障害者だからすいません。許してください。』というわけにはいかない。(Aさん)」
 

「会社設備だね。オフィスを設計する際に、バリアフリーのことなんて想定していないから、直すにはお金かかるよ。まず、入り口から段差あるし(笑)。国からの助成金だけでは厳しい面もある。(Bさん)」
 

 

経営者の方の本音を通じて、中小企業における障害者雇用の現実が伝わってきました。次回、「経営者(雇う側)の意見を踏まえて、障害者雇用で(障害者側に)必要なこと」をまとめたいと思います。

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。