障害者にまつわるニュースから障害者の世界を考えてみる【イベントレポート】

2013年12月1日、「障害者にまつわるニュースから障害者の世界を考えてみよう」というテーマでイベントを開催しました。Plus-handicapのライター堀さんと編集長佐々木の2人で、障害者がトピックとなっているニュースを発表し、社会が抱いている障害者に対するイメージや認識を、集まった方々とともに考える時間を作りました。
 

イベントで取り上げたニュースの束
イベントで取り上げたニュースの束

 

例えば、「視覚障害者の事故 ベストで防ぐ 県内初 熊谷市が製作」というニュース。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/20131128/CK2013112802000147.html
 

これは、熊谷市が視覚障害者向けに外出時用のベストを製作したというニュースです。詳細はリンク先に飛んで頂きたいのですが、製作されたものは、蛍光グリーンのベスト(スポーツ選手が着るビブスのようなイメージです)。表面に熊谷市のゆるキャラ「ニャオざね」が描かれ、裏面に「盲人のための国際シンボルマーク」が描かれています。
 

「視覚障害者の安全を守るという点ではgoodなアイデアだよね」という意見が出た後、「ゆるキャラの描かれたベストを着せられるって、着るひとのことを考えているのか」・「安全を守るためならデザインは二の次でもいいのか?」というデザインへの批判、「埼玉県内初ということは、障害者福祉に積極的に取り組んでいるという市の姿勢を見せているのかな」・「行政主導で実施していることは価値のあることなのかも」という市政に対する意見、「いっそ前面に広告貼れるようにして、広告収入を稼いでもいいのかも」というイレギュラーな視点など、ニュースに対する幅広い意見が出ました。
 

このニュースから派生して、「お腹に赤ちゃんがいます」と書かれているマタニティマークのように、「私は障害者です」と外向きに発信するマークを付けることの是非について議論されました。このベストは「私は視覚障害者です」という発信であり、自己開示でもあります。マタニティマークだと幸福なイメージ、ポジティブなイメージがよぎりますが、障害者を示すマークはどうなのだろう?身の安全と自己開示を天秤にかけると?という問いかけが続きました。マークがなければ相手の障害に気づかないという現代社会の周囲への無関心さ、余裕のなさが問題点なのかもしれないという意見に帰結しましたが、障害者関連のニュースから現代社会の課題に昇華させていく議論は非常に白熱しました。
 

また、以前記事としてアップした「24時間テレビにナメられている障害者の現在地」もひとつのニュースとして取り上げ、24時間テレビで障害者の挑戦や難病患者の闘病記で御涙頂戴を期待することの是非論から、日本人のチャリティに対する考え方、障害者に対する報道の姿勢、軽度な障害だからこそテレビに取り上げられるのではないか、といった観点での意見が出てきました。
 

「障害者の世界への認識を深めようとする前に、まず「ニュースとは?」から入っていくことから、切り口がいちいち多くて、すごく面白かった!」
「障害者をめぐる、たとえば、テレビやラジオなどの「報道」はどうか、福祉をめぐる寄付(募金)の文化はどうか、障害者の「仕事」について、さまざまな「事業」のあり方について、ほんとうの「バリアフリー」とは、などなど。」
 

上記は、お越し頂いた方からの感想ツイートです。「ニュースをあらゆる角度から読み深め、自分なりの考察を発信すること」。これが今回のイベントで果たしたかったことの一つです。ひとつのニュースを読むだけで、10人いれば10通りの読み方が生じます。そのひとつひとつの読み方をシェアすれば、自分以外の9つの価値観に触れることになります。たかがニュース、されどニュース。ニュースから多様な価値観を汲み取ることができれば、非常に効率的な学びの材料になる。実は企画した私たちが一番学べたのかもしれません。
 

障害当事者、支援者、家族に障害がある方がいるといった属性の方々にお集まり頂きましたが、今後もイベントは定期的に企画して実施したいと考えております。皆さまにお会いできることを楽しみにしております。

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。