生きづらさを与えてくれて感謝します。「チャレンジド・フェスティバル2013 ーすべての人が、生きやすい日本へ!ー」

2013年11月9日と10日の2日間、代々木公園野外ステージ(NHKホール横)にて「チャレンジド・フェスティバル2013-すべての人が、生きやすい日本に!」が開催されています。これは、障がいのある人、あるいは障がいのある人・ない人を組み合わせたユニットによる、ダンスや音楽、演劇などのパフォーマンスを通じて、障がいのある人の存在、才能を世に伝えていくお祭りです。
 

詩人・ピアノ・ヴァイオリンによる絶唱朗読バンド「ムジカマジカ」のパフォーマンス
詩人・ピアノ・ヴァイオリンによる絶唱朗読バンド「ムジカマジカ」のパフォーマンス

 

大会会長の齋藤匠さんがサイトやパンフレットに寄せている挨拶の中に、「私たちの存在を知ってください」という言葉が使われています。ある知的障がいを持つ子どもの親御さんから寄せられた「私たちが先に死んだら、子どもは幸せで自立した生活が送れるのだろうか」という言葉が原点で、1人でも多くの人が障がい者の存在を知り、1人でも多くの人が思いやりをもって優しく助け合えるようになってほしいという想いで、このイベントを立ち上げ、実現に至っています。
 

このイベントのタイトルにも使われている、「チャレンジド」という言葉。皆さんは聞いたことがありますか。障害者を指し示す新しい言葉のひとつであり、「the challenged (挑戦という使命や課題、挑戦するチャンスや資格を与えられた人)」に由来しています。障害をマイナスに捉えるのではなく、障害を持つからこそ体験することを社会のためにポジティブに活用していこうという意味が込められています。
 

11月9日(土)のパフォーマーは10組。知的障がい児のダンサーズや精神科病棟に3回入院していた絶叫朗読家、手話とダンスを融合したユニットや筋ジストロフィーと闘う歌手など、「チャレンジド」にふさわしいラインナップがパフォーマンスを披露していました。冒頭の写真にあるムジカマジカは、ヴォーカルが統合失調症と闘っているとステージ上で話していました。
 

パフォーマー月乃光司さんが伝えた言葉。
パフォーマー月乃光司さんが伝えた言葉。

 

アルコール依存症、引きこもり、パーソナリティ障害で精神科病棟へ3回入院(パンフレットより)という経歴の月乃光司さんが、朗読パフォーマンス中に発信した「神様、私たちに生きづらさを与えてくださり、感謝します」という言葉は鳥肌ものでした。客観的に見れば、生きづらい状況でしかないような過去を持つのに、その状況に感謝できるという精神。それは自分自身を受容し、承認し、今を生きている、そして未来に向かっているからこそ届けられる言葉ではないかと思います。
 

障害には種類があり、また軽い・重いという程度もあります。軽い障害だから簡単に障害に向き合えるわけでもなく、また重い障害だから障害を受け容れるまでに時間がかかるわけでもありません。このチャレンジド・フェスティバルに参加しているパフォーマーのほとんどは、多種多様な障害が背景にある「チャレンジド」であり、自分なりの向き合い方を実践した結果、自分の障害について外に向けて発信できている人たちです。今、自分の障害に悩んでいる・自分の生きづらさに囚われているという方々にとって、その闇を抜けた先にあるひとつのモデルケースが、あのステージの上にあります。
 

「みんなが笑顔プロジェクト」というこのフェスティバルのコンセプトが示す通り、当事者自身が笑顔にならなくては生きづらさの先にある生きやすさ、自分の未来を自分で歩くという状態は、なかなか創り出せないでしょう。人間は過去を変えることはできません。過去はどんなに辛くても向き合い、自分自身で受け容れるしかありません。見るべきものは今、そして未来です。今の行動の積み重ねが未来を創り出していきます。ステージの上に立てるか、生きづらさに囚われたままで生きていくのか。この違いは今この瞬間から行動できるかどうかにかかっている。こんなメッセージがステージの上から投げかけられたように感じました。
 

チャレンジド・フェスティバル公式ホームページ:http://challenged-festival.com/
 

※チャレンジド・フェスティバルが主体となる文章内では「障がい」、私の意見を伝える文章内では「障害」としております。

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。