簡単には避難できない。災害弱者であるという障害者の自覚。

先週の10月16日に猛威を振るった台風26号。伊豆大島を襲い、甚大な被害をもたらした台風26号の爪痕も残る中、今週末にはまた勢力の強い台風27号、そして28号が日本列島に上陸する可能性が指摘されています。ここまで連続で台風が襲ってくる記憶はないなと思いながら、万が一の備えは十二分に行っておかなければと感じています。
 

ソース:twitter
ソース:twitter

 

今回のような天災が襲ってきた際に、避難指示や避難勧告といったものが発表されます。避難しなさいという避難指示と避難することを勧める避難勧告。それぞれに法的な拘束力はないものの、避難したほうがいいという意図を伝えることに違いはありません。また、避難準備を始めたほうがいいというアナウンスである避難準備情報というものもあるようです。
 

私自身、自分が住んでいるエリアで避難指示等が出されたことはありませんので、実際に避難した経験はありません。しかし、いざ避難することになった際の準備は怠っていませんし、どこが避難場所なのか、何をもっていかなくてはいけないのかといった情報収集、シミュレーションは欠かしません。おそらく他の同じアラサー世代の方々よりも防災に対する意識は高いと思います。それは私自身が身体障害者であり、災害弱者になることをわきまえているからです。
 

両足が不自由で、右足に義足、左足に装具を身につけている自分自身にとって、自然災害が発生したときには、足手まといになる確率は高まります。義足・装具を履くための時間的なロス、義足・装具が壊れたときのリスク、長時間の歩行(移動)の難しさ、走ることができない、避難場所のトイレが和式だったらどうしよう、など健常者と比べると、できないこと・考えなければならないことが必然的に増えます。また、誰かのサポート、ヘルプを受けなければならない場合も想定できます。身体障害者が災害弱者になりえることは間違いありません。
 

たくさんの種類がある義足。着脱には一定の時間がかかります。
たくさんの種類がある義足。着脱には一定の時間がかかります。

 

3.11の震災で帰宅難民になった私は、市ヶ谷から当時住んでいた亀戸まで徒歩で帰りました。この区間約9km。帰宅した際に、自分が歩ける限界以上の距離だったと悟りました。両足が不自由な人間にとって、この距離を歩くことが難しいと、客観的に考えても分かります。しかし、避難する、身の安全を守るためのシミュレーションを行っていない街で、期限が分からないまま滞在することの不安のほうが大きかった。亀戸まで戻れば何とかなる。この気持ちが強かったのです。結果的には、歩行者による渋滞で徒歩スピードが遅かったこと、途中5回休憩を挟んだこと、この2点があったから乗り越えられた壁だったように思います。
 

私の場合、義足・装具を身につけていれば、健常者と同じとはいきませんが、ある程度の活動はできます。同じ身体障害者、特に肢体不自由(手や足、体幹などに不自由さがある)の方で、日頃車いすを使う、ステッキを使うといった方の場合は、私と同じようにはいきません。
 

では、聴覚に障害がある方の場合、耳が聞こえない、聞こえにくいといった中で、どのように避難指示や避難勧告を受け取るのでしょうか。FAXやメール、筆談を利用すれば事足りますが、避難場所でのとっさの伝達、指示には難しさが残ります。また、例えば、人工透析を受けなければならないといった、何かしらの医療行為を受けなければ命の危険性がある方の場合はどうでしょう。避難場所に対応できる設備があるとは思えません。
 

避難するというプロセスに難しさが発生する場合もあれば、避難した先で難しさが発生する場合もあります。健常者と異なる、何かしらの手法を準備しなければならないことが、災害弱者である事実を物語っています。
 

ここまでは身体に障害がある方を触れてきましたが、知的障害者の方の場合はどうでしょう。IQが障害認定の判断材料になっている点から、避難に関する情報の認識、理解、判断に難しさが発生しますし、急激な環境変化への対応にも健常者以上の困難さがあります。精神障害者の方の場合は、精神的動揺による症状の悪化は予想できますし、普段飲んでいる薬の常備は欠かせません。
 

非常口
 

障害者は災害弱者である。この事実から考えれば、他の健常者と同じように避難することはできません。ではどうすればいいのでしょうか。私は「障害当事者である自分自身が災害弱者であることを自覚すること」を前提に「何を助けてほしいのか真摯に伝えられるかどうか」にかかっていると思います。当事者である自分自身が伝えられない場合は、普段から支援してくれている方に「災害時に困りそうなこと」を書面に残してもらってもいいでしょう。周囲の支援者の方々は、日常生活に対するサポートだけでなく、非常時における支援対象者の避難誘導やセーフティネットを常日頃から改善・更新して頂ければと思います。
 

災害が起きたときに、自分の命の危険が迫る中、下手に強がっても意味はありません。災害時は健常者も障害者も関係なく、みんな困っています。自分や家族を守ることが大前提であり、他人のことまで考える余裕は本来的にはありません。障害者だからサポートしてもらえるなんて甘っちょろいことを思っていても、周囲は動いてくれません。障害当事者自身が、何に困っていて何を助けてほしいのか現状認識をし、真摯にお願いをすることが大切です。1回お願いしてダメならば、2回3回と積み重ねる。コミュニケーションとはそういうものだと思います。自分で動けないならば家族を動かす、支援者を動かす。「嘆くのではなく、動く。待つのではなく、動かす。」といった考え方が大切です。
 

避難場所というのは、地域の学校や公民館の場合がほとんど。避難は「地域」という単位で行われるものです。障害当事者としてのお願いとすれば、向こう三軒両隣の範囲内でいいので、自分の地域に住んでいる障害者を覚えておいて頂くだけでも助かります。「そういえばあの人障害あったよね」という認識だけで、非常時における関わり方が変わるものなのです。
 

バリアフリーの考え方に近いですが、障害者が避難しやすい状況であれば、高齢者にとっても小さなお子さんにとっても、避難の難易度は下がります。障害者目線で街を見てみると、住み良い街となるためのヒントが眠っているものなのです。
 

【参考リンク先】
避難所等での聴覚障害者に対する支援のお願い(災害対策マニュアル):http://www.jfd.or.jp/tohoku-eq2011/shelter-support
要援護者の特性ごとの避難行動等の特徴 :http://www.city.osaka.lg.jp/kikikanrishitsu/cmsfiles/contents/0000058/58401/bessi1.pdf
身体障害者の災害時の避難に関する一考察:http://www.civil.eng.osaka-u.ac.jp/plan/staff/inoi/welfare05_1.pdf
台風26号。伊豆大島から届いた島人のメッセージ(ハフィントンポスト/鯨本あつこ):http://www.huffingtonpost.jp/atsuko-isamoto/26_1_b_4130560.html

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。