放送禁止用語が飛び交う障害者雇用の職場環境から考える、障害者雇用の問題点とは?

障害者雇用促進法によって、企業は障害者を雇用することが義務づけられています。法定雇用率は2%。単純計算すれば、企業で雇用する100人に2人は障害者でなくてはなりません。しかし、これは企業側の論理であって、働く障害者の観点からみれば、「雇用されること」以上に「働き続けること」が大切です。雇用を点で捉える企業側と、線で捉える労働者側の違いです。
 

ある障害当事者の方より「自分自身が働く職場環境について」寄稿して頂きました。彼女が先輩社員に言われた言葉の多くに驚きを感じつつ、両足不自由な私自身も同様の経験があると感じます。
 

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(Sさん 30代女性 軽度の発達障害)
 

私は、軽度の発達障害をもちながら、企業で働いています。実は、つい最近まで自分の障害に気づかず、健常者として働いていました。35才のとき、発達障害であるという診断を受け、障害者手帳を取得し、障害者雇用の枠で転職しました。
 

私の場合、短時間で新しい情報を記憶することが難しく、障害認定を受ける前までは「物覚えが悪いなあ」としか考えていませんでした。障害認定を受ける前に働いていた仕事の現場では、一度聞いただけで業務を覚えられることが稀で、何度も教えてもらうことが多く、「一発で覚えて。」と言われてしまうことを苦痛に感じていました。ワーキングメモリといわれる脳領域の障害によって、記憶力に難のある発達障害の方がいるのですが、私もその一人だったのです。
 

内定をもらった転職先では、障害者雇用の枠で私が採用され、過去に実施していることもあって、障害者の受け入れには慣れているだろうと考えていました。自分自身も、障害者雇用での入社ということで、他の同僚から色眼鏡で見られるだろうと思い、多少の覚悟をしていました。しかし、そこで起きたハラスメントは、想像以上のものでした。私は、契約社員として身体障害者の方と一緒に10人ほどの部署に配属になったのですが、その配属先の先輩女性社員から、継続的なハラスメントを受けることになってしまったのです。
 

「あなたは健常者とほとんど変わらないから、重度障害の人を雇うより、障害者としては¨当たり¨だった」
 

その方に入社直後に言われた言葉です。障害者社員に対して「片手落ち」や「きちがい」という言葉を使うこともあり、時代錯誤な感じでした。また、「正社員と非正規は違う」、「中途採用の人は変わってるわね」とよく言っていました。日常的に「健常者」と「障害者」、「正社員」と「非正規」という言葉を使い、「あなた方と、わたしは違う。」ということをわざわざ口に出し、私たちを見下すような言い分でした。私が一番精神的に参ってしまったのは、「障害者は健常者と違って、瞬時の判断能力が低い。」と大きな声で言われたときでした。
 

不思議なことに、このようなハラスメントが起きていると知りながら、周囲の方々は、彼女に何も注意しませんでした。私は、もう一人の障害者の方と励まし合いながら我慢して働いていましたが、入社して3年後、体調を崩し、退職しました。
 

いま思うと、障害者雇用という働き方についての自分の考えが甘かったと思います。「健常者は、障害者に対して、多少なりとも配慮するものだ」というのが当たり前だと思っていて、障害者雇用制度は、「性善説」で成り立っていると考えていたのです。
 

私の経験は、極端な例でしたが、人々の心にある差別意識をなくすことが、バリアフリーな世の中につながっていくと信じています。
 

(寄稿、了。)
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障害者雇用は「障害者を採用すること」に重きが置かれがちです。法定雇用率が未達成であれば、未達成分1名につき50000円の納付金が発生し、さらには社名公表の罰則が発生するからです。企業の人事担当者が「障害者の採用」に躍起になることは仕方がありません。
 

しかし、本来的には、障害者雇用は「障害者を戦力化すること」がゴールであるはず。人事担当者や現場のマネジメント担当者が協力し、障害者社員を受け容れる環境を作り上げ、育成していかなくてはなりません。新しく入社した同僚を暖かく迎え入れ、関わり、信頼関係を構築していくことが、障害者雇用の世界では、なかなか上手くいっていないことが事実です。
 

では、なぜ上記のような状況が発生するのでしょうか。それは、お互いの思い込みやスタンスから発生する、理解・認識不足だと考えています。そして、忘れてはいけないことは障害者側にも課題があるということです。
 

スライド1

 

就職する障害者側は、
①自分の障害・状況は理解してくれるはずという思い込み
②会社・職場に積極的に溶け込もうとしない姿勢
この2点が課題だと考えています。
 

寄稿して頂いた彼女も話していましたが、障害者雇用に対する思い込み(=障害者に配慮することは当然という思い込み)は変えなくてはなりません。企業側に配慮を求めることは間違いではありませんが、どんな配慮をしてほしいかを具体的に伝えることは障害者側の役割ですし、それが必ずしもすべて実現するとは限らないことを想定しておく必要があります。また、雇用する障害者1人のために企業が準備をしてくれるのであれば、それに応える努力をしなくてはなりません。労使関係上、そして賃金が発生している以上、当たり前のことです。
 

ライターの堀さんが障害者雇用の枠で、ある大手企業に就職したのですが、活躍する障害者社員と活躍しない障害者社員の差は「定められた昼休みに、ランチを1人で食べているかどうかにある」と話していました。「職場での人間関係が円滑であればあるほど、上司や先輩から仕事が舞い込み、職場内での地位も確立できる」。なるほどという観点です。(もちろん、一人一人の趣味嗜好もあるので、一概に言えないことは補足しておきます。)職場に新しく加わる場合は、自分自身から積極的に溶け込む必要があります。これは障害者であろうと健常者であろうと、すでに出来上がっている人間関係(コミュニティ)の中に一から加わるのであれば、自分からアプローチしなければ加わることは難しいことに由来しています。ここでは障害が理由にはならず、性格が理由になります。
 

受け入れる企業側は、
・受け入れる体制を、現場の社員に任せっきり
・現場の社員の過去の経験則からくる判断能力の偏り
この2点が課題だと考えています。
 

この2点は、障害者雇用に限った話ではなく、新卒・中途に関わらず、採用・育成というフェーズがうまく機能しないのではないかと考えます。上手くいっているとすれば、現場社員が自発的にマネジメント手法や教育体制を整えているからであり、属人的な手法であることを否定できません。
 

障害者を採用することに関して、ハローワークであったり、人材紹介・採用支援の企業てあったり、ノウハウが集約されていることで、人事担当者には客観性が担保された情報が集まります。また、人事担当者は普段から障害者採用業務に携わることで、障害者とは?障害とは?ということを考え、理解する時間が必然的に増します。一方、現場社員の障害者への理解や認識は、現場社員一人一人の過去の経験に一任されます。普段の業務では、ビジネスモデルや自分の仕事内容に障害者が関わらない限り、障害者について考える時間もなければ、その必要もほぼないと言っていいでしょう。障害者雇用において、障害者を受け入れざるを得なくなった現場の担当者は、ある意味、自社に作り出された被害者なのかもしれません。
 

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引き上げられた法定雇用率が実現された暁には、企業で働く障害者が増えることが推測できます。また、別の法案になりますが、障害者差別解消法が施行されれば、障害者に対する直接・間接差別がなくなります。したがって、障害が理由でできない仕事があったとしても、健常者と同様に、一定以上の成果を求められることは間違いありません。障害者の働く姿勢が問われる時代が、すぐそこまでやってきています。
 

企業側も現場社員に任せっきりな属人的姿勢で臨めば、現場社員・障害者社員双方が疲弊してしまいます。その間を取り持つことが人事担当者の仕事だとしたら、法定雇用率確保を早急に行い、社内環境の整備に力を入れ始めなくてはいけないでしょう。
 

※一般社会において不適切とされている表現が含まれておりますが、彼女が実際に言われた言葉として、事実に即して掲載させて頂いております。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。