義足を履く男が戦う、真夏の3つの大敵

義足を履く人間にとって、真夏という時期は最大の修羅場です。誰が好き好んで、足を完全に密閉梱包されたがるというのでしょうか。気温と体温が混ざり合い、汗から巻き起こるムシムシとした空気(臭気)を伴って、義足の中は軽く40度を超え、湿度も高い数値を示します。劣悪な環境の中で、義足を履く人間は3つの大きな敵と戦い続けます。
 

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【1】尋常じゃない汗の量
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まず、大前提として、義足は生足で履くわけではありません。靴下やストッキングなどを生肌の上に履いた上で、義足を履きます。また、私が履く義足は、義足の内側にインサーターと呼ばれる義足と生足の間の空間を埋める器具を履くので、生足→靴下(厚手の綿)→インサーター→義足の順番に装着しています。
 

義足の淵

 

想像に難くないと思いますが、この季節、義足の中では尋常じゃない量の汗が産出されます。汗をかく量は人によって異なりますし、障害者の場合、代謝機能が不十分に働かないこともあります。私自身の例になりますが、靴下が絞れるのは当たり前、床に置いておこうものなら汗が床に染み出していくことは日常茶飯事です。また、これだけの量の汗をかくと着替えの回数も多くなるため、一日に産み出される汗がたっぷり染み込んだ靴下は2枚、3枚と増えていきます。こんな靴下を3日とか1週間とか洗濯せずに置いておくことなんて私の美意識では許せません。結果としてほぼ毎日洗濯することになります。
 

私自身、もともとが汗っかきということもあり、義足内だけでなく体中から汗が噴出します。したがって、真夏は水分の確保は必須ですし、塩分もこまめに摂取しなくてはなりません。健常者以上に真夏は水分摂取量・塩分摂取量を気にしなくてはいけません。
 

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【2】半端じゃない汗の臭い
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【1】で書いたように大量の汗が産出されるということは、それに伴って臭いも酷いものとなっていきます。障害者・健常者問わず、人の靴下の臭いというものは、一部分のフェチズムを感じる人以外、嫌いな人が多いはずです。義足は生活時間のほぼすべてにおいて履き続けるもの、仕事をしている人であれば、出勤から帰宅まで同じ靴下を履き続けています。靴を脱げば空気と触れ合うことができる健常者の靴下事情とはワケが違い、義足内部では外気に触れることはなかなかありません。異臭・悪臭を引き起こす要因ばかりが目につきます。
 

義足って臭いの。

 

かつて泊まりにいった女の子の部屋で、私が義足を脱いだ際に見せてくれた女の子の表情と「足洗ってきて」の一言は私の人生に大切な気づきを与えてくれたと感謝しています。それ以来、義足を脱ぐときのエチケットを身につけることができました。自分の汗の臭いって何十年も生きていると鼻が慣れてしまうものなのです。彼女に指摘を受けたのが真冬でよかった。真夏なら家を追い出されていたかもしれません。女性の部屋から追い出された義足を履いていない私。なんてシュールな図なんでしょう。
 

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【3】熱中症じゃない熱中症
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28歳となり体が年を取ったのか、代謝機能が下がってきたように感じています。義足の中でこもった熱が体に回り、体全体が中から熱を持つようになってきた感覚があります。ここ最近の異常な暑さもあるせいか、熱中症ではないだろうけれど軽い熱中症なのではないかという状態が続いています。麻痺を持つ友人は「夏は熱が抜けないから体温が上がり続けるんだよね」と話していたので、同じような症状なのかもしれません。結果として食欲の減退や集中力の欠如、疲労の蓄積が感覚値として認識できるようになってきました。そろそろ、自分自身が障害者であり、普通の人よりも体にケアしなければならないと自覚しなくてはならないのかもしれません。
 

義足ってこんなに種類がいっぱい☆
 

ここまで3つの真夏の大敵を書き連ねてきましたが、真夏の暑さと義足の密閉状況に起因する汗にまつわるものです。生まれつき障害をもち、ここまで義足と共に歩んできているので、慣れているものですが、後天的に義足を履くようになった方には堪えます。また、水分補給や体力の維持は自己責任として解決できるものかもしれませんが、加齢と昨今の異常な暑さはネガティブな変化を引き起こしているような気がします。
 

軽装で働くクールビズなんて、冷房の温度を上げる/エアコンをつけない主義の部屋なんて、義足を履く人間への配慮なんてない、優しさすら感じないものだと個人的に思ってしまいます。ああ、健常者目線だなあと。代謝機能が劣る/ない麻痺を抱える障害者や病気を持っている方にとっては地獄絵図でしょう。エコになればなるほど一部のマイノリティの違った生きづらさが現れてくるのかもしれません。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。