気管切開のひとってネクタイ締められるの?車いすのひとってミニスカ履けるの? 障害者から障害者に質問してみた。

2014年3月21日、「障害者の何でも言いたい放題vol.2」というイベントが福岡で開催されました。
 

「障害者」とひとくくりにされがちですが、身体障害者が精神障害者のことを理解できないように、また身体障害者の中であっても義足を履いている人間が目の不自由な方のことを知らないように、「障害者が他の障害者のことを知る」ということを目的に開かれたディスカッションイベント。1月に開催された第1回に引き続き、第2弾の今回は「障害者のファッション」に関する議論が繰り広げられました。
 

障害者プロレスラー永野さん手作りの食事を囲みながら開催しました。
障害者プロレスラー永野さん手作りの食事を囲みながら開催しました。

 

障害によって身に着けられないアイテムがある。例えばネクタイ。

 

「気管を切開しているから、ネクタイ締められないんですよね。だからスーツが似合わない。」
 

気管切開とは、簡単に言うと呼吸を助けるために気道に穴をあけることです。喉の皮膚を切開し、気管にカニューレというパイプのようなものを通します。したがって、首元から透明のパイプが出ている状態となります。首からパイプがむき出しに出ていれば、ネクタイを巻けない、マフラーを巻けないなど、首元のオシャレができません。
 

ネクタイを締める・締めたくないというのは個人の志向ですが、ネクタイを締められる・締められないというのは障害が理由で発生する状況です。「スーツが似合う男性って素敵」という女性からの声を聞くたびに少し心が痛むと仰っていました。また、彼の場合は、車いすを使っていることもあり、スーツを着て車いすに乗ると、シワがたくさん発生したり、スーツのシルエットが崩れたりとダサくなってしまうから嫌だということも話していました。
 

【参考】気管切開者の状況(wikipediaページ:気管切開より引用)
【参考】気管切開者の状況(wikipediaページ:気管切開より引用)

 

「車いすだとスカートのほうが履きやすい。でも長すぎるとタイヤに絡まるし、短すぎるとヒザが締められないから丸見え。丈の長さが難しい。」
 

麻痺等で足が思うように動かない場合、スボンのように片足ずつ足を通さなくてはいけない履き物よりスカートのように一度に足を通せる履き物のほうが便利です。しかし、車いすは常に座ったままの体制を取らなくてはならず、丈の長さによっては下着が丸見えになることも。逆に足元まで覆う丈ならば、車いすの前輪等に絡まり車いすが転倒したり、スカートが破れたりします。自分に合った丈の長さを見つけることが重要なようで、「立つと膝下、座ると膝上。この長さじゃないと履けないんですよ」というのが彼女の話でした。
 

車いす女性のスカートの最適な長さとは?
車いす女性のスカートの最適な長さとは?

 

義足を履いている私の場合だと、ヒールに高さがある革靴は履けません。最近の革靴は、足元の疲労を和らげるために、かかとの高さよりつま先の高さのほうが低くなっている靴が主流となっています。皆さんも一度自分の革靴を確認して頂けると分かると思いますが、靴の中の足は地面と平行な状態ではありません。しかし、義足の場合、足首が自分の意のままに動かせないので、地面と平行ではない分の角度だけ体が前に傾きます。背伸びをした状態で体を前に傾けるとバランスが崩れるのですが、その状態で歩いているのが革靴を履く義足のひとたちです。
 

買い物が楽しめなくなる原因。試着室、マネキン、動線、店員さん。

 

障害者が洋服を買いにいく際、ヘルパーさん等が同行してくれている場合は大きな問題は発生しにくいですが、単独で行くとなると話は変わってきます。どんな服が似合うかな?これ着てみたいな?など、買い物の時間は一般的には楽しいものですが、障害者の場合だと楽しむ余裕がないこともしばしば。
 

例えば、試着室。自身の障害が理由で、履ける・履けない/着られる・着られないといったことが想定されます。したがって、試着室で確認(似合うか似合わないか以前の問題)する必要があります。しかし、試着室には難題がたくさん転がっていて、イベントでもたくさん挙げられました。
 
・車いすが入れるスペースがあるか
・着替えられるスペースがあるか(健常者よりもスペースが必要な場合があります)
・試着室に段差があるとスムーズに移動できない
・試着に時間がかかるため、他のお客さんに迷惑がかからないか不安になる
・店員さんに手伝ってもらわないと着脱が難しい
 
そもそも服を着られるかどうか、スボンが履けるかどうか、など障害が理由の困難なポイントが多いにも関わらず、試着室だけで一苦労です。
 

また、店舗内の動線に問題が発生する場合もあり、通路の狭さやレジの高さ、陳列されている商品が分からない・届かないなど、様々な難題が眠っています。また、店舗のマネキンの手の高さが車いすの顔の高さと同じで、顔にぶつかったり、マネキンを倒してしまったりという危険性があるという車いすユーザーならではの発言もありました。
 

もちろん、最近では、バリアフリーやユニバーサルデザインなどの考え方が浸透していることもあって、障害者の目線に合わせた店舗づくりが進んでいる場合が多くなってきました。しかし、働いている障害者の場合、買い物に行くことができるのは土日。多くのひとでごった返す中、店舗に入っていくことには少しの勇気が必要となります。
 

また、店員さんとのコミュニケーションにも難しさがあります。店員さんが障害者への対応に慣れていない場合、話しかけていいのか悩んでいることが伝わってくるそうです。基本的には「困っていることがあったら何でも言ってくださいね」と一言かけてもらえるだけで十分だとイベントではまとまりました。手伝ってほしいことをこちらから伝えられる雰囲気ができ、結果として、ストレスなく買い物ができる状態を作り出せるといいよねという話でした。
 

実は障害者同士で集まって議論するという時間は少ないのです。
実は障害者同士で集まって議論するという時間は少ないのです。

 

買い物ひとつでこれだけ苦労する障害者。障害も様々あるので、ひとつひとつの障害に適応した状態を作ることは難しいでしょう。大切なことは、困っている状態があることを知っておくこと、そして、いざ障害者が来たときに動けるための心の準備をしておくことだと思います。また、障害者側も、自分から何を手伝ってほしいのか素直に伝えることが大事なのだなと感じたイベントでした。
 

第3弾は初夏の頃に予定されています。今度は何を根掘り葉掘りするか、今から楽しみです。

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。