うつ病患者の家族や友人の方に目を向けたサービス「Qyour(キューユアー)」とは?

2013年11月22日〜24日にかけて実施された、週末54時間でビジネスを実現させる起業支援イベント「Startup Weekend Tokyo」にて、ウツ病の“周りにいる人”向けの相談サービスである「Qyour(キューユアー)」というサービスが開発されました(現在テスト中)。今回は開発メンバーのひとりである広瀬眞之介さんのもとを訪れ、サービス内容や開発経緯について伺ってきました。
 

広瀬さんは左から2番目。その右隣がリーダーの石原さんです。
広瀬さんは左から2番目。その右隣がリーダーの石原さんです。

 

ー「Qyour(キューユアー)」は、ウツの“周りのひと向け”のサービス。ウツの当事者ではなく、その“周囲の方へのサービス”を開発した理由とは何なのでしょうか。
 

“ウツのひともしんどいけど、その“周りにいるひと”もしんどいんですよ。「どう接すればいいんだろう?」とか「関わっていることに疲れたんだけど」とか「病院に連れて行くべきか否か」とか悩みはあるけど、なかなか相談できない。ウツ当事者に愚痴れない。ウツになったひとの家族や恋人、友人や仕事仲間が、気軽に相談できるサービスがあればいいなと考えて作ってみました。気軽さがポイントだなと考えていて、スカイプを使ってテレビ電話かチャットで実施、15分程度の相談時間という設定にしました(注:時間や値段はまだ確定せず、テスト中です。フィードバックをもとに、これからも調整し続けるとのこと)。相談に乗るのは、カウンセラー、看護師、過去に実際にうつ病を克服した患者、過去に家族にうつ病患者だった人になります。”

 

Startup Weekend Tokyo中に作られた「Qyour」のチラシ
Startup Weekend Tokyo中に作られた「Qyour」のチラシ

 

“ウツのひと向けのサービスは医療、カウンセリング、行政の金額補助など、たくさんあるというと語弊があるかもしれないけれど、ラインナップは揃っているんです。でも、“周囲のひと”へのサービスというとそんなにあるわけではない。今回のイベントの54時間という時間の中で調べたけれど、ほとんど見つかりませんでした。”

 

ー広瀬さんは「ウツ・ヒモ・ニート」時代があったということを知っているのですが(注:広瀬さんと佐々木は旧知の間柄)、その過去もこのサービスを立ち上げようと関わった動機の一つになりますか?
 

“過去と今もあまり変わらないかもしれませんが(笑)、やはり自分がウツで苦しんでいた時代があるから、このサービスに関わりました。当事者じゃないと分からない部分もあるので。私自身、ウツで仕事もできない、家から出られない、死にたいというような時代がありました。私の場合、無理矢理、彼女がカウンセリングに連れて行ってくれたことから回復に向かいましたし、私の友人のウツ経験者も友人が世話してくれたと話していました。周りに助けられて社会復帰できた方ははいらっしゃるし、このイベント中にしたインタビューの中でもいらっしゃいました。結果的に“周りのひと”を助けたほうが、うつを解決する近道になるのではないかと考えたんです。”

 

ーお話を聞いていると、当事者だけでなく、“周囲の方”も苦労していると構図は、自分の子どもに障害があると分かったとき、自分を責めてしまうお母さんがいるのと似ているような気がします。当事者だけ支援すればOKというわけではない。ハッピーになるわけではない。“周囲のひと”のケアまで考えないといけませんね。
 

“実はこのイベント中にインタビューした行政の方から似た話を聞きました。発達障害児とかもまったく同じような状態らしいんです。親御さんが一番傷ついていて、親族からの干渉、今後どうやって育てていくかという悩み、障害認定されたくないという葛藤。周囲のひとたちのサポートがないと、親御さんが壊れてしまうという話でした。私は自分を救い出してくれたパートナーが壊れてしまうと、自分が生きられなくなってしまう。“周囲の方”への支援サービスというのは非常に大切だと感じます。”

 

※Startup Weekend Tokyo中に作られた「Qyour」のイメージ動画
 

ー患者、周囲の支援者、解決に向けたサービスという構図は変わらないと思いますが、例えば、新型ウツであったり、就活ウツであったり、ウツもバリエーションが増えてきたなと感じます。あえて聞いてみたいんですが、「Qyour」というサービスだけではすべてを解決することはできないですよね?
 

“意地悪ですね(笑)。「ウツ」という問題は大きすぎて、自分たちだけではなかなか解決できません。予防もあれば対策もありますし。もともと自分自身もウツ患者向けサービスを利用していたから分かりますが、メンタルヘルスのサービスを提供する会社も、それぞれの強みを活かしたカタチで、会社同士が組んでいたりします。大きい会社でもその状況なのに、小さい会社は組まざるをえません。私たちは、“周囲の方”への支援サービスというジャンルの中で、自分たちの力で解決できることはする、できないことは多くのひととコラボして取り組む、という想いでサービスを作りきろうと考えています。”

 

ー意地悪でスミマセン。そんな性格なんです(笑)。最後に、今後の「Qyour」について教えてください。
 

“今は54時間で仮リリースまでした状態です。ココナラのサイトから実際にワンコイン(500円)でサービスを使うこともできます。ただ、せっかくここまでやったからには、サービスを正式に立ち上げようという想いです。急に身近なひとがウツになってしまったとき、本やサイトで情報を拾っても、取捨選択の判断軸がないことは大きな問題です。私たちを気軽な駆け込み寺として使って頂けるようになればと考えています。まだまだ本サービスには足りないものがたくさんありますが、今もインタビューは続けており、何らかのカタチで世に出します。”

 

カウンセラーや医療スタッフは、患者に対する関わり方や感情の対処法などを、仕事に就く前に学ぶ機会もあるそうです。しかし、患者の周囲にいる家族や友人、職場仲間には学ぶ機会などなく、自分自身が疲弊してしまうケースも多々あります。“周りの人達”がしんどくなる前に相談出来ると、患者だけでなく家族ごと助かるようになるかもしれません。今後のサービス展開を楽しみに待ちたいと思います。
 

「Qyour」はこちらから → https://qyour.jp/

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。