【社交不安障害の方へのインタビュー】就職試験300社落ちてもあきらめなかったのはなぜ?〜社交不安障害と支えになったもの〜

■今回のインタビュー記事の掲載について
 

Plus-handicapでは、株式会社よりよく生きるプロジェクトと連携して、過去に生きづらさを抱えていたけれど、現在では前向きに生きられていると感じている方々へのインタビュー記事を全5回掲載します。生きづらさを感じている人へのヒントとなり、また、生きづらさについての理解が深まればと考えております。
 

第3弾である今回は、精神障害(社交不安障害)の方のインタビューをご紹介いたします。
※インタビュー内容をそのまま掲載できるように、名前はイニシャルにしています。
 

ケース3:社会不安障害Dさん(40代)

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インタビュアー:織田 昇(よりよく生きるプロジェクト カウンセラー)
 

織田カウンセラー(以下、O):今日はよろしくお願いします。事前にDさんは社交不安障害をお持ちだとお聞きしたのですが、社交不安障害ってどのようなものなのですか?
 
 
 

Dさん(以下、D):周囲の目が気になって悪口言われるんじゃないかとか、目線がきつく感じた時にあの人に嫌われちゃったんじゃないかって思ってしまうんです。廊下ですれ違うだけで、目線を感じたり、ストレスを感じたり。それで疲れてしまって、朝起きれなくなっちゃったりするんですね。そうすると、辛くて、苦しくなります。学校も午前中はいけなかったり、トイレにこもったりしていました。あと、電車での目線が気になって苦しかったので、電車が苦手なんです。今は会社に近いところに住んで電車に乗らないようにしているので大丈夫ですけど。
 

O:ありがとうございます。今までの半生をお伺いしてもいいですか?

D:高校2年の時くらいから、だんだん周囲の目が気になりだしてきました。その時は、精神疾患とかそういう知識とかなかったので、病院いくとか、親に言うとかもなくて。
 

2浪して大学に入ったんですが体調が悪くなってしまって。他の大学に編入しても、燃え尽き症候群みたいな感じで、体調は良くなりませんでした。それでこのままじゃ無理だと親に相談して、21歳の時にはじめて精神科に行きました。それから20年弱カウンセリングにずっと通っています。
 

結局、2浪と編入を経て社会に出たのが27歳の時なんですね。公務員試験とか受けたりもしたんですけど、集中力が続かず受かりませんでした。そこからいろんな仕事をしました。30歳の時に営業職の正社員を1年、その後、アルバイトしながら就職活動して医療事務を2ヶ月。そして本屋で1年ちょっと。
 

電車に乗るたびに視線を感じるって、相当の苦痛だと思います
電車に乗るたびに視線を感じるって、相当の苦痛だと思います

 

35歳って転職が厳しくなる年齢っていうじゃないですか。今までは手帳を取らないというプライド的なものがあったんですけど、自分の中で障害者として配慮してくれるところで働いてみようかと思って、35歳で障害者手帳をとりました。
 

障害者雇用の枠で就職活動をして3ヶ月くらいである企業に契約社員の事務職で採用されました。4年間くらい勤めたんですけど、給料が安いのと人間関係が悪くなってきて辞めたんです。その会社にいた最後の方で彼女ができたっていうのもあって、家を出て、自立したいなって考えるようになりました。就職活動で300社くらい受けて、今の会社に入社しました。
 

去年の11月から働き始めて、一人暮らしも始めて、もうすぐ1年です。特に問題もなく、彼女との結婚とかも具体的になってきて11月に式を挙げることが決まりました(注:インタビューは10月に実施しています)。
 

O:結婚ですか!おめでとうございます!!すごい紆余曲折があったんですね。障害者手帳をとる決断がひとつのターニングポイントのような気がするのですが、とる前と後で何か変わったことってありますか?

D:ありがとうございます。それまで自分の病気を隠してクローズで働いていたときは、きつくあたられたりとかする場面もあったんですけど、手帳をとってオープンにして、障害者枠で働くと、配慮とかしてもらえるようになりました。あまり残業しないようにしてくれたり、あまりキツくない言葉で言ってくれていたり、過ごしやすい雰囲気にしてくれたり。
 

振り返ると、障害者手帳をとったことは間違いじゃなかったと思えますね。ただ、自分には病気があるんですけど、頭のどっかで「実は病気ではないんじゃないか」っていうのがありました。だから、障害者手帳をとる・とらないっていうのは難しい問題だと思います。
 

今の会社ではモチベーションが今までとなんか違うので大丈夫ですね。彼女ができたっていうのが一番大きいです。生き甲斐になっているものがあるので、必ずしも自分の本当にやりたいことをやっているのかと思うと疑問符がつくのかもしれないけど、やりがいもってやっているし、充実感もってやれています。
 

O:300社受け続けられた理由ってどこにあると思いますか?

D:自分の人生を充実させたい、独り立ちしたいっていうのがありましたし、彼女のこともありました。そのモチベーションからか、人の目も気にならなくなったとは言い切れませんが、病気もだいぶよくなってきました。彼女とは同じ病気をもっている友達の紹介で知り合ったんですが、彼女も病気をもっているんです。その分、わかりあえることはたくさんある。彼女が辛いとき、僕も辛くなったりするんですけど、支えになってくれる。
 

一般的に「障害者同士のカップルって難しい」って聞いた事あるんですけど、僕は良かったと思っています。自分の理想の生き方はあるし、お互いのアイデンティティを大切にしながら幸せに生きていきたいです。失恋したときってつらいと思うんですけど、いい人と出会えたらモチベーションになる。ラッキーでした。
 

将来的には、障害者と関わることをライフワーク的にやっていきたいというのがあります。人事部とかで働いて、障害者の方のサポートをすることなどを少しは考えています。
 

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O:モチベーションって内側から湧き起こるものなんでしょうね。

D:そう言えばそうかもしれないですね。周りからの評価とか報酬とかはどうでもいいので、自分の内側から出てくる、コアの部分から出てくる。彼女ができたことで自信がつきましたし。辛い時にも一緒にいてくれる人がいてくれるっていうのは大きいですね。心の港があるっていいなって。
 

みんなやりたいことも違うと思うんですけど、やりたいことがなくても、心のよりどころとかボランティアでも人でもパートナーでもいいですけど、そこから広がっていくと思うんです。必ずしも仕事じゃなくても趣味でもいいから。そういうことが一つでもあるといいと思います。
 

僕もギター弾くんですけど、それが逃げ場になっていた時があります。ギター弾いている時だけは、嫌なこと忘れられたってことがあったので。どこかに自分の中の核とつながるものをつくっておくのもいいと思います。24時間365日は走り続けられないですし。
 

O:すごく伝わってきます。せっかくなので、これだけは言っておきたいってことはありませんか?

D:繰り返しになるかもしれないですけど、幸せって相対的なものじゃなくて、絶対的なものだと思います。自分が幸せって感じていたら、どんな障害もってようが、周りにどう言われようが、幸せじゃないですか。なので、自分にとって何が幸せか、何が自分のコアなのかを見つけることが大事だと思います。僕にとっては彼女であったり、仕事に対する成長意欲だったりするのですけど。
 

O:貴重なお話し、ありがとうございました。

D:ありがとうございました。
 

インタビュー後記

普段、カウンセリングをやっていると、「正社員じゃなくてフリーターだから結婚できないんだ」「障害があるから彼女ができるわけがない」という考えをもった人と会うことがあります。しかし、今回のDさんもそうですが、障害をもっていたり、疾患をもっていたりしても幸せな家庭をもっている方はいらっしゃいます。
 

Dさんを含め彼らに共通するのは、世間からみるとマイナスな要素があっても、それに悲観していないということです。幸せのあり方は人それぞれであり、自分にとっての幸せを見つけ、実現しようとすることが大切なのではないでしょうか。Dさんの場合は、彼女であり、成長し続けられる環境だったのだと思います。
 

「就職したから恋愛ができる」ではなく「恋愛したから就職ができる」という事例が、何かのヒントになれば幸いです。
 

インタビュアー 織田昇

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