的確に自己肯定感を殺してくる就活。リクルートスーツは私にとって喪服のようなもの。

私は俗に言う就活生で、どうやら来年には社会人として働いているらしい。内定をもらえればの話だけれど。
 

合同説明会の会場の最寄り駅に着くと、あの子もあの子もあの子も全身真っ黒で、同じような出で立ち。個性のカケラもない。一人ひとりの違いがわからない。
 

真摯な顔をして”御社”の話を聞き、採用担当者様からの問いかけにもさらさら答え、気の利いた質問を投げかけている。「就職活動=自己肯定感抹殺ゲーム」はもう始まっている。
 

就職活動
 

今日の説明会会場も遠いな、今月交通費にいくら使ったかな。5のダメージ。
 

あの子も一緒の説明会だろうな。すごくしっかりしてそう。このシャツで大丈夫だったかな。あ、スーツにシワ入ってる…。5のダメージ。
 

そもそも圧倒的に経験値が足りない。就活対策なんてほとんどしてないし、ESも履歴書も書き慣れていない。そういえば、面接練習は大学のキャリア支援の担当の人が苦手で行けなかった。ああ、なんで今日ここにいるんだろう。20のダメージ。
 

経営理念?理念ってなに?そんなことより、今、今夜観たいドラマのこと考えてた。私、バカなの?5のダメージ。
 

え?説明会だけじゃなくて、先輩社員との座談会とかあるの?知らなかったんだけど…10のダメージ。
 

知らなかったの、私だけ?どこに書いてたの?20のダメージ。
 

話を聞くときに、背筋シャキッとしてなかった。就活マナー的にダメって書いてあったやつだ、これ。やらかした。5のダメージ。
 

なぜ当社に興味を持ったんですか?って…サイトの先輩社員がイケメンだったからだよ。本当のことなんて言える訳ないじゃないか!目の前のあなた見て、ガッカリしてるとか、言えるわけないじゃないか!10のダメージ。
 

あの子、いい質問だねって褒められてる。やっぱ質問って大事だよね、私には思いつかない。そして、そもそもそんなに聞きたいことない。15のダメージ。
 

今日の自分、どうしようもなかった。会社も結局思ってた感じと違ったしな。ああ、この後どうしよう。新しいとこ探さなきゃ。25のダメージ。
 

就職活動
 

就活は的確に私の自己肯定感を殺してくる。
 

志望者がたくさんいる中で、欲しいと思われるためには何をすれば良いのか。どうすれば自分の価値を示すことが出来るのか。でも、そもそも、自分の価値なんて分からないけれど。
 

就活に関する記事やまとめサイトは死ぬほど読んで、企業説明のページもたくさん読んで。それでやっとスタートライン。ここからさらに、自己肯定感を抹殺するトラップが溢れている。
 

ES書いて、履歴書書いて、自分のアピールポイントや今まで頑張ったことなどを絞り出した結果、あ、書けるようなことがないと悟った瞬間。
 

あったとしても、文字にした時点で薄っぺらく感じられる瞬間。
 

字数制限がある中、聞かれたことに答えようとして言葉を切り捨てた瞬間。
 

私の中で何かがすり減っていく。
 

受験では、学力という言い訳ができた。失敗の理由は単純明快で、改善策も浮かびやすい。しかし、就活は違う。
 

就活は、これまでの経験、思考や人間性、すなわち人生が丸ごと問われる。ついでに来春からの生活もかかっている(ように感じる)。
 

コピペのお祈りメールで簡単に、自分は不要だと伝えられる。理由は不明。改善策も不明。原因も分からず、私たちは切り捨てられる。これはしんどい。
 

「自分自身が否定されているわけではない」と言われたところで、今、私が感じているこの感情さえも間違っているというのだろうか。
 

「就活生も会社を選ぶ立場だ」なんてもっとウソ。私たちは選ばれている。内定をもらうまでは。内定をもらって初めて、私たちには「選ぶ」という選択肢が与えられる。内定をもらえない状況で選ぶなんて、とてもとても。
 

「選ぶ」立場になれたとしても、就活という名の自己肯定感抹殺ゲームに勝てたと言えるのかは正直分からない。選ばれたからといって、自己肯定感が上がるか、失った自己肯定感が回復するかなんて分からない。ただ、きっと「生きづらさ」は少し減る。
 

自己評価と他者評価の差を突きつけられたり、自己評価の再検討を課せられたりするのが就活なのだ。
 

就活生は、自己評価を適切に伝え、曖昧な言葉で語られる「御社が求める人材」として選ばれる努力をしなければならない。その結果、他者評価が上がるかどうかは神のみぞ知るようなもの(人事担当者のさじ加減でしょ、どうせ)。
 

「ありのままの自分」を讃えるやさしい社会なんて、就活の前ではあまりにも無力だ。
 

今時点で、4月1日からの幸せも安定も保障されているわけではない。むしろ、不安定になる気しかしない。
 

働きだしたときに楽しい生活が待ってるとも思えない。ここまで自己肯定感をすり減らされて、メンタルも壊死させられて、それでも、それでもと”御社”へと足を運ぶ今に、未来なんて見えない。
 

真っ黒な出で立ちに身を包み、私たちは目元が笑っていない笑顔で、今日も殺されにいくようなもの。私にとってのリクルートスーツは、喪服なのかも。
 

願わくば、これから受ける企業や法人の採用担当者様がこれを読まない事を切に”お祈り”申し上げます。
 

記事をシェア

この記事を書いた人

大竹結花