僕は前、世界を変えようとしていた。でも今は、自分自身を変えようと思っている。デンマーク留学記⑨

この連載は「ワカラナイケドビョウキ」という不思議な病気になり障害をもった私が、ノーマライゼーション発祥の国デンマークに留学する1年間の放浪記です。デンマークでゴロンゴロンでんぐり返しをしながら「障害ってなんだろう」と考えます。
 

イスラエルとパレスチナの間にある壁

 

二週間の戦争を知る旅。デンマークからイスラエルへの修学旅行。私たちはたくさんのイスラエル人、パレスチナ人と話をしました。
 

入植地に住むイスラエル人、難民キャンプで生まれ育ったパレスチナ人、パレスチナ人の自爆テロで娘をなくしたイスラエル人、イスラエル兵に息子を殺されたパレスチナ人。
 

彼らは、自分の言葉で話してくれました。
 

入植地に住むイスラエル人は
「壁はパレスチナ人の自爆テロからイスラエル国民を守るためのもの。セキュリティなんだ」
 

難民キャンプのパレスチナ人は
「想像してみて。突然自分の故郷を追い出されたときのことを。イスラエル人が急にきて、家や財産を奪い、家族を殺した。僕たちの夢は、いつか故郷に帰ることだ」
 

「SNSも全てイスラエル兵に監視されている。反抗的なことをつぶやけば、すぐに殺される。夜中、突然兵士が家にきて銃を向けるんだ。友達も殺されたよ」
 

ベツレヘムにあるアイーダ難民キャンプをまわる。

 

日本のニュースからは知ることができなかった世界です。
 

でも最後にお会いした二人。それは、子供を亡くされたイスラエル人とパレスチナ人の父親たちでした。二人は、自分たちの経験から、両国の友好のために講演活動を行っています。
 

最初、私たちの泊まるホテルのロビーにいた二人が醸し出していた雰囲気は“幼馴染”。よくこんな雰囲気のおじさまがいるな、と思うような日本なら赤提灯の居酒屋が似合いそうな二人。ゲラゲラ笑いながら歩くその姿は、互いのことをよく知っている、そんな雰囲気でした。
 

イスラエル兵に殺されたパレスチナ難民たち。

 

彼らはすべてを話してくれました。
 

高校に通うバスで、娘さんが自爆テロにあったこと。
 

イスラエル兵に、息子さんを殺されたこと。
 

子供を殺される前は、対立に疑問を持たなかったこと。
 

事件後、ふとしたことで、お互いイスラエルの人やパレスチナの人と知り合ったこと。
 

どちらの国の人も同じような悲しい経験をしていると気付いたこと。
 

そこから、相手も人間なんだって気づいたこと。
 

「暴力と復讐の連鎖は断ち切らなければいけない。この地で闘うのは、簡単すぎるから」
 

「相手をよく知らないから、恨んでしまっていた。今は相手のことをよく知るようにしているよ。お互いを比較するんじゃなくて、理解するようにしている」
 

「報復に報復を重ねていたら、対立は決して終わらない。日本は違ったよね?第二次世界大戦のあとに、報復しなかった。勉強して働いて、自分たちの生活を変えていくことに集中したんだ」
 

「相手の勝手な形容に負けるな。対立をしていると、相手の国では、メディアや映画を使って、自分たちをモンスター、殺人者のように描写してくる。自分たちで自分たち自身を形容しなければ」
 


 

ずっと、怒りと悲しみを見てきた数日間。その私たちを包み込むような目じりの下がった優しい笑顔。学生たちのどんな質問にも、笑いながら答えてくれます。
 

「子供が軍隊に行きたいって言ったら、どうしますか?」
 

ふたりで顔を見合わせながら笑う。
 

「ほんとは行ってほしくないんだけどね。でもうちの息子はいま行きたがっているんだよね。お国柄、行くなとは大声で言えないし、大変だよ」
 

困ったように笑ってこたえる二人は、私たちの知っている“お父さん”だった。
 

最後に彼らが言ったこと。
 

「約束だよ。この戦争をデンマークや日本に持って帰らないでね。これは僕たちの問題だ。イスラエルとパレスチナの問題。君たちには君たちの国の問題があるはずだ。その解決に向き合ってほしい」
 

「どうか、イスラエル派にもパレスチナ派にもならないで。平和派でいてね」
 

比較はしないという彼らの言葉があったので、障害と戦争の大変さは比較しません。すごくすごく小さな部分で同じもののような、全く違うもののような気がしています。
 


 

人間を試すように、神様は私たちの人生に句読点を落としているのかもしれません。不条理なんて、簡単な言葉では表すことができないような、もっと強烈でシンプルな点。でも、彼らは自分たちでそれを飛び越えようとしている気がしました。
 

彼らが言ってくれた言葉。
 

「Yesterday, I was cleaver because I want to change the world. Now, I am wise because I want to change myself (僕は前、世界を変えようとしていた。でも今は、自分自身を変えようと思っている)」
 

戦争を知る旅は、平和を知る旅。
私たちは、大きな戦争の中に、ひっそりと隠れている小さな平和を見つけました。
 

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ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業第36期研修生として留学中です。ミスタードーナツに行くとレジの横に置いてある募金箱。全国の皆様の応援で学ばせて頂いております。
 

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この記事を書いた人

Namiko Takahashi