保健師が思う生きづらさを招く最たる病気。それは糖尿病。

「○○さん、あなたは糖尿病です。すぐに治療を始めないと合併症を引き起こします。」
 

もし、あなたが糖尿病と診断されたとき、多くの人が「えっ?治療?何にも症状ないけど。しかも、合併症って何?」と思うはずです。なぜなら、糖尿病の初期はほとんど症状が出ないから。そして、単なる血糖値が高い病気としか思わないから。
 

私はこの春で看護職歴8年目になります。今は病気の予防をメインに活動している保健師ですが、大学病院でICUに入院している重症の患者さんや人工透析をしながら病気とともに生きている患者さんを看護していた経験もあります。そんな私が看護職キャリアを通じて気づいたことは、「糖尿病」が最もこわい病気であり、生きづらさを招く病気だということです。

(注:糖尿病には先天的に発症する1型糖尿病と、後天的に発症する2型糖尿病の主に2タイプがあり、今回はいわゆる生活習慣病と呼ばれる2型糖尿病が対象になります。)
 

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国民の5人に1人が糖尿病と関わっている時代。

 

簡単にいうと、糖尿病とは「慢性的に血糖値が高くなる病気」です。体の中には血糖値を下げるインスリンというホルモンがあります。食後に血糖が上がらないように調整したり、血液中のブドウ糖を体の細胞に送り込んでエネルギーに変えたり、脂肪やグリコーゲンに変えて、エネルギーとして蓄えておくようにする働きがあります。このインスリンの量が不十分になる、肝臓や筋肉などの細胞がインスリンの作用をあまり感じなくなるなど様々な原因によって、ブドウ糖がうまく取り入れられなくなることで、全身のエネルギーが足りなくなってしまう状態になります。
 

血液検査で血糖値が高いというのは、血液中に取り残されたブドウ糖の量が多いということ。このブドウ糖の行き場がなくなり許容範囲量を超えてしまうと、本来は排出されることがない尿中にも糖が出てしまう。これが『糖尿病』の名前の由来です。
 

2012年の時点で、糖尿病と糖尿病予備軍の合計人数は約2,050万人、実に国民の5人に1人が糖尿病に関係しているという計算になります(2012年国民健康・栄養調査:厚生労働省)。またその多くが、食べすぎや飲みすぎ、運動不足といった生活習慣の乱れが原因となっています。自ら糖尿病を引き起こしている人があまりにも多い現実をどう思いますか?
 

最初はおとなしい。だからこそ、こわい。

 

糖尿病がおそろしい理由は、初期段階でほとんど自覚症状がないということです。健診結果や血液検査で空腹時血糖値が高いといわれるくらいで「痛い」・「苦しい」といった分かりやすい症状が出ません。そのため、取り返しのつかない危険なレベルまで放置されてしまうことがとても多い病気です。
 

実際に私は健診結果をもとにした保健指導を行っていますが、血糖値が異常に高く、尿中にも糖が出ていて、今すぐにでも病院に行って治療を始めないと危険なレベルにもかかわらず、「何年もこの状態だけど症状もないし生活に支障もない。大丈夫だよ。」と話す人や「仕事が忙しいから病院に行けない。しかも、糖尿病って診断されるのがこわいし。病院行ったらクスリ出されるでしょ?一生クスリ漬けなんていや。」と思われる人もいらっしゃいます。
 

たしかにそう思う気持ちは分かります。しかし、徐々に悪魔の本性をあらわしてくるのが糖尿病。血糖値が高い状態が長く続いていると、合併症を引き起こします。ある程度進行してしまうと、単なる「血糖値が高い病気」から「全身の血管と神経を侵す病気」へと変化するのです。現実問題としても、進行した合併症による何らかの症状が出て初めて病院に行き、糖尿病だと診断されるケースが多いです。ここまでくるともう、今までの生活を続けることはほぼできなくなります。最初はおとなしいながらも、徐々に本性をあらわす。だからこそ、こわい病気なのです。
 

なぜ、生きづらさを招くのか?

 

ではなぜ、糖尿病は最も生きづらさを招く病気なのか。その答えは合併症にあります。糖尿病の合併症は実にさまざまで人によって症状は違い、全身にあらわれることが特徴です。その中でも発症する人が特に多いのは、三大合併症とよばれる「腎症、網膜症、末梢神経障害」。これこそが、生きづらさを引き起こす最大の原因だと思っています。
 

厚生労働省資料より作成
厚生労働省資料より作成

 

この三大合併症は、進行すれば障害者認定を受けることになります。腎症は体の中の老廃物を排出できなくなるので人工透析患者へ、網膜症は最悪の場合は失明して視覚障害者へ、末梢神経障害は血液循環も悪くなり最悪の場合は下肢切断して身体障害者へ、というように。
 

事実、私は本当にたくさんの糖尿病合併症患者さんを看護してきました。手術後、血液循環が悪いので傷の治りがよくなく、感染症を起こして亡くなる人。突然心筋梗塞を起こして心肺停止の状態で運ばれ、そのまま意識が戻ることなく亡くなった人。30代という若さで週3回の人工透析を受けるため、安定した仕事に就けない人。ほんの少しの傷が原因で足が壊死し切断したことで自由に歩けなくなった人。失明してしまったため、大好きな奥さんの顔を二度と見ることができなくなったと落ち込む人。みんな糖尿病によって引き起こされたもので、それぞれがそれぞれの生きづらさを抱えていました。そして、今でもその生きづらさとともに生きる人たちは口々にこう言います。
 

「もっと早く、病院に行けばよかった。ちゃんと規則正しい生活を送っていればよかった。」
 

今の医学で糖尿病は、状態を改善することはできても完治することはありません。だとしたら、わざわざ自分で糖尿病になり、わざわざ生きづらさを引き起こすなんて、あまりにも自分を傷つけていると思いませんか?人生のいろいろな可能性を狭めてしまうとは思いませんか?そして、大切な人をも苦しめてしまうと思いませんか?あなたの命や人生は、決してあなただけのものではありません。自分で引き起こした生きづらさは、大切な誰かの生きづらさにもなりうるということを忘れてはいけないと思います。
 

糖尿病は確実に予防できます。ちょっと食生活を改善しよう、ちょっと運動してみよう、心配だから検査に行ってみよう、そのちょっとした行動ひとつで人生が変わるのです。生きづらさには予防できるものもあるということを皆さんに知ってほしいと思います。

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この記事を書いた人

杉本九実

1985年生まれ。順天堂大学卒の看護師・保健師。憧れだったICU看護師となるが、理想と現実のギャップ、過労、ストレスにより心身のバランスを崩し、バーンアウト状態と診断され休職。休職中に訪れた旅で自然の「ありのままに生きる」姿に感化された経験を活かし、2013年PONOプロジェクトを設立。「ストレスやこころの病気を自然の中で楽しく予防しよう!」をコンセプトに、自然の力と看護スキルを活かした今までにない新しいメンタルヘルス事業を行う。