「障害者としての自分」と「社会人としての自分」のバランス

プラスハンディキャップの読者の皆様、はじめまして。くそ真面目な記事が並ぶ中、エッセイ風味の投稿で空気を壊す、聴覚障害者の「くらげ」と申します。私は「ボクの彼女は発達障害」(学研)を上梓しておりまして、その縁で(正確には佐々木編集長にメールで押しかけた)寄稿させて頂くことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
 

簡単に自己紹介させて頂きますと、私は聴覚障害者と言われるであろう存在です。「あろう」というのは、私は一見(一聴)して聴覚障害者であるとまず「見破られない」程度の障害であるからです。聴覚障害は一見してわかる障害ではありません。コミュニケーションを確立させようとすれば一発でわかると考えている方は多い模様ですが、実のところ、そう単純な話でもありません。
 

私は、進行性難聴です。子供の頃は言葉を覚えるのは通常通りだったようですが、小学2年生の時に難聴が発覚。それ以降、徐々に聴力が落ちて、中学2年生でろう学校に転校したという経歴があります。そのため、発音はほとんど健常者と変わりがない事が多く、話しただけではまず聴覚障害者と思われることはありません(体調や場所によっては発音そのものもかなり質が落ちますが)。
 

また、人工内耳を21歳で手術を受け、かなり適合しました。聞く方についても人工内耳を装着していれば電話が出来る程度に「回復」したので、ちょっとした立ち話程度なら「ちょっと反応が鈍いのかな」くらいで、身体障害者手帳3級を取得しているとはまず想像もつかないと思います。
 

スマホで電話
 

そんな状態なので私は「聴覚障害者」なのか、ということに結構戸惑いを持っていたりしますが、耳が悪くて健常者と同じことはできません。「聞こえてるんだけど聞こえないんだよ!」という、よくわかんないところに自分を着地させようと日々悶々としている一青年だったりします。
 

なお、彼女の「あお」(発達障害)は「あんたはどっからどう見てもおっさんであって、甥っ子もできた30歳が青年とか自称してて恥ずかしくないのか」とか言っておりますが、青年です。髪の毛が落ちてる量が増えてるのに悩んでいても青年です。断じておっさんではありません。
 

聴覚障害者として仕事をするということ

 

さて、そんな私ですが、幸いなことながら現在はサラリーマンとして働いています。正社員ではなく、契約社員という立場ですが、私は実はこの「契約社員」という立場にかなり安堵しています。確かに給料も安く、ボーナスも手当もありません。ぶっちゃけ、障害者年金がなければ食っていくのは無理な給料です。
 

では、なぜ安堵しているのか。それは、私が「聴覚障害者」だからに他なりません。
 

私にとって、今の職場は2つ目の職場です。前職はある行政団体で正職員をしておりました。では、なぜ辞めたのか?
 

仕事がきつかった?

いや、それほどきつくはありませんでした。
 

障害に理解がなかったから?

いや、障害者関係の部署だったため、理解はかなりありました。
 

では、なぜ辞めたのか?

それは、私が「聴覚障害者で正職員」という立場に疲れ果てたからです。
 

スマホからメモをとる

 

聴覚障害者としての私、社会人としての私

 

言うまでもなく、聴覚障害とは「聞こえること」に問題がある障害です。
 

しかし、仕事というのはどうでしょうか?「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)といわれるように、コミュニケーションがなければ仕事は動かないのです。また、電話ができなくても、筆談やメール・チャットソフトで補うことは可能です。しかし、「電話」や「口頭で話す」ことに対して、時間あたりの情報量は大きく落ちます。すなわち、どんなに頑張っても「時間単位の情報に対する効率」は落ちます。
 

繰り返しますが、私は「聴覚障害者」です。しかし、「聞くこと」「話すこと」は出来なくはない、というレベルです。そうなると、どんなに最初は筆談やメールが主体でも、そのうち「効率よく」、私に話しかけるようになります。そして、私もある程度は「効率よく」コミュニケーションを取るのは可能です。
 

「聴覚障害者」として「支援を求めなければならない自分」と「社会人」として「効率よくコミュニケーションをこなせる自分」という2つの存在が並立するようになるのです。仕事をするうちに、徐々に「社会人」としての意識が大きくなり、「聴覚障害者」としての自分は小さくなっていきます。
 

しかし、私は健常者ではないのです。小さいようで、どうしても超えられない断絶が、そこにはありました。そこに気がついた時、私はどうしようもなく疲れてしまいました。そして、自分のバランスを失い、うつを患い、休職から辞職、という道を歩むことになったのです。

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くらげ