先日、Web授業のSchooで「3年で辞めるのって得?損?早期離職白書の作者が語る若者のキャリアのあり方」というテーマでお話しさせていただきました。
早期離職についてはお話しする機会はこれまでも何度もありましたが、Web授業という形式ははじめてです。1時間という限られた時間内ですのでポイントを絞ってお伝えしました。
「結局、3年で辞めるのって良いことなんですか?悪いことなんですか?」
早期離職白書の作者である私にそんな質問をしてくる方がたまにいます。私の答えは「一概には言えません」。無責任なようですが、それが事実だと思っています。一概には言えないとはいっても、自分が辞めるかどうかを悩んでいるときに考慮しておくべきポイントというのはあります。例えばお金の面などです。
今回機会をいただき、Web授業のSchooにて「3年で辞めるのって得?損?早期離職白書の作者が語る若者のキャリアのあり方」というタイトルで早期離職についてお話しさせていただきました。その中でお話ししたポイントは主に4つ。
(1)早期離職の現状
(2)退職、転職するときのお金の注意点
(3)早期離職はキャリア形成に有利か不利か
(4)仕事選びでワークライフバランスは考慮すべきか
私が早期離職についてお伝えするときは統計データとインタビュー証言の2つを用います。統計データは全体像や傾向を知るため、インタビューはリアルを知ってもらうためです。早期離職に関わらず障害者、うつ、貧困、雇用などの問題を論じる時には多くの場合はこのどちらかが使われていますが、バランスよくつかわれている例は意外と多くありません。統計データだけをひっぱってきてリアリティのない話をしているTVのコメンテーターもいますし、一方で「Aさんはインタビューにこのように答えた」という一人の証言を、あたかもすべての人が同じ意見を持っているかのように伝えてしまうドキュメンタリー番組まであります。
私も早期離職に関してメディアの取材を受けたことが何度かありますが、こちらが何を言っても、最終的嘘にならないぎりぎりの範囲で編集されメディアが伝えたい主張の補完材料としてつかわれます。それでは一つの事例や全体の傾向をなんとなくつかむことはできるかもしれませんが、問題の本当の姿を知ることはできません。ですから私は全体傾向と個別事象の双方を大切にしています。
早期離職についての全体傾向は、すでに多くの報道がされている通り「大卒の3割が3年で辞める」というデータがあります。また、私の独自調査ですが、早期離職者のうち7割は退職企業に対してネガティブな印象を持っての退職であり、さらにそのうちの2割程度がうつ病などの精神疾患にかかっています。つまり、早期離職者全体の10~15%程度が精神疾患です。
個別の事例でみれば日本のIT企業を退職して、現在はGoogleで人事を担当している方もいます。典型的なキャリアアップでしょう。一方で、大手地銀を人間関係が原因で退職したものの、食いつなぐためにアルバイトを始めたら転職活動する時間がなくて結局フリーターになり今は貯金がなくて将来が不安だという人もいました。どちらも早期離職者のリアルなのです。
ボーナスが支給されたら辞めようかなと思っている方は、どちらの例も知っておいた方が良いと思います。自分自身がどちらになるかはわかりません。どちらでもない新しいスタイルが生まれる可能性も十分にあるでしょう。個別事象を知るというのはリスクを知るということでもあるのです。
データ上は転職回数が増えると給料が減る傾向にあるという資料もあります。ただ、これも個別でみれば給料が上がった例はいくつもあるでしょう。キャリアアップになるか否かについては、そもそのキャリアアップの定義はなんでしょうか?人によって違う可能性があります。
私は早期離職が良いとも悪いとも断言できませんし、3年以内で辞めたほうが良いかどうかも人によって差がありすぎて一概に回答することはできないと思っています。私のこのような姿勢を「無責任」「卑怯」と批判される方もいます。それでも私には断言するなんてことはできません。
早期離職に関わらず、人生において決断が必要なタイミングはありますし、他人との比較をしたくなるものです。でも、どんなデータも事例も、参考にはなったとしても自分がそのデータや事例の通りの人生を歩めるとは限りません。データも事例も参考資料です。最後はそれらの情報をもとに自分自身が決断することが重要なのです。
だからこそ、私はこれからも、人々の決断を後押しする情報を提供し続けていきます。