ひとを本に見立てて、30分間だけ対話を借りる。ヒューマンライブラリーの面白さ。

2014年11月30日、明治大学の中野キャンパスで開催されたヒューマンライブラリーに足を運んできました。直訳すれば人間図書館。社会において偏見を受けやすいひとを「本」に見立て、30分間1対1で話を聞くことができるイベントです。明治大学国際日本学部3年横田ゼミナールが主催し、障害者、セクシュアルマイノリティ、依存症経験者、摂食障害経験者、アルビノ当事者など、当日は31冊(名)の本が並んでいました。
 

ヒューマンライブラリーは2000年にデンマークのロックフェスティバルの企画として「音楽と文化のフェスティバルという環境の中、多様性への寛容な心を育み、偏見を低減して暴力なき世界に近づく実践的な方法(横田ゼミ紹介文)」と銘打って始まったそうです。日本国内でも多数の団体が開催しているそうですが、大学のゼミ主催では明治大学横田ゼミのヒューマンライブラリーが最大規模を誇ります。
 

ヒューマンライブラリー
 

イベントが盛況だったこともあり、ほとんどの「本」が借りられていましたが、運良くアルコール依存症の経験者の方のお話を聞くことができました。内容については、ヒューマンライブラリー内だけで完結させなくてはいけないため、具体的なお話は口外できませんが、自身が考える依存症になった原因分析、依存症の際の自身の状況、乗り越えた今の活動内容等を、忌憚なく伺うことができました。
 

黒丸が借りられている印。ほとんど埋まっている。
黒丸が借りられている印。ほとんど埋まっている。

 

「本」は単に自分の苦しみや現状、どう乗り越えたかだけではなく、その過程から得た生きる知恵まで教えてくれます。全盲のヴァイオリニストが語る「不利こそ物の上手なれ」、義足を履くことになった方が語る「区切る・切り取る・切り開く!」、知的障害の画家とその父が語る「障害者、健常者。そんなことより人としてどう生きるか。」など、イベントが一日でなければ聞いて回りたいものがたくさんありました。偏見を受けやすいという特性をうまく受け容れ、その違いを楽しんでいるからこそ達する人生観のようなものは、そのあたりにある自己啓発本と比べて、遥かに効く「本」なのだと思います。
 

また、当日は、展示や講演会等もあり、「本」から聞く話だけではない気づきや学びもたくさん得ることができました。その中でも「見た目問題」を解決しようとするNPO法人My Face My Styleの写真展は非常に興味深いものでした。「見た目問題」は、生まれつき、あるいは病気や事故で負ったアザ、キズ、脱毛等の見た目(外見)に端を発する恋愛、結婚、進学、就職などの人生の節目でぶつかる社会の壁のことを言います。
 

※My Face My Styleのイベントのyoutube動画
 

全身脱毛症やアルビノ(先天性白皮症)、眼瞼下垂(まぶたを上げる力が弱い)などの方々の写真が展覧されていましたが、そこには自分自身の現状を気にすることなく、幸せ・楽しむ・自分の時間が流れるといった言葉が伝わってくるものが並んでいました。代表の外川さんが講演会で話していた「他人の評価に左右されない・気にしない」という言葉が写真からも伝わってきました。
 

2014年のヒューマンライブラリーのテーマは「今日、世界がもっとカラフルになる」でした。それぞれの考え方や生き方は、他の誰とも異なる「自分だけの色」であるということが根幹です。新しい色を知ることで、今まで見ていた世界がよりカラフルになる。実際にヒューマンライブラリーに足を運ぶと、自分の知らない価値観や世界がダイレクトに入り込んできます。もちろん、食傷気味になる方もいるだろうなと予想することもできますが。
 

自分が知らない世界があると気づくだけでも価値はあります。ただ、自分が当事者になる可能性だってあるぶん、ヒューマンライブラリーに広がる情報や知識は、純粋に知っていて損はないとも感じます。Plus-handicapを運営している理由ともリンクしますが、抱えなくてもいい生きづらさを抱えずとも済むように、また、抱えてしまった生きづらさをいくらか手放せるように、情報をもつという予防策を講じることも大事だなと再認識できたイベントでした。

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。