障害者はメディアに消費されるのか?それとも発信に利用するのか?【「左手のピアニスト」コンサートレポート】

「左手のピアニスト」と呼ばれる智内威雄さんのコンサートに行ってきました。
 

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智内さんは幼少期からピアノの才能に優れ、東京音大を卒業、海外の音楽大学にも留学を果たし、数多くのコンクールで入賞・受賞の実績を持つなど、まさに将来を嘱望されていたピアニストの一人でした。しかし、右手にジストニア(筋肉硬直・痙攣などの運動障害の総称)を発症。両手での演奏を断念することを余儀なくされます。その中で、左手のみでの演奏を決意し、活動を再開。メディアでも多数紹介されるほどの存在となりました。今後は、自身の演奏とともに、左手で行う演奏曲の開拓・発掘、後進(同じように右手が使えないピアニスト)の育成などを行っていくそうです。
 

私は、正直言って、智内さんのことは最近まで存じ上げていませんでしたが、昨年のNHK特集でその活動を拝見しまし、楽曲の素晴らしさに触れ、機会があればコンサートに足を運びたいと思っていました。そして、先日、ようやく行ってきました。
 

演奏は本当に感動しました。左手のみでの演奏ですので、もちろん両手での演奏に比べれば音数は少ないのですが、一音一音の響きや幻想的な世界観は絶品でした。日本の民謡なども取り上げていて、こうしたシンプルな楽曲はむしろ左手での演奏が合うのではないかとも感じました。音楽を聴いて、涙が出てくるのは久しぶりでした。いろいろな活動を続けられているようでしたので、是非、応援したいと思いました。左手一本でここまでの演奏が出来るようになる。智内さんの物凄いまでの努力と情熱を感じました。
 

ただ、ここで少し穿った見方をしてみます。
 

(失礼な言い方になると思いますが)仮に、智内さんの右手が通常のように動いたとして、彼の個人的な見地・志向から「左手のピアニスト」として売り出したとしたら、NHKで特集されたかどうかもわかりませんし、そもそも私も彼のことを知ることが無かったかもしれません。
 

つまり、「(障害を持つ)左手のピアニスト」として、興味関心を持ったわけです。
 

ここで、私は、みなさんの記憶にも新しいはずである、(自称)全聾のピアニスト佐村河内守氏ことを思い出しました。彼もまた、演奏において絶対的なハンディキャップを持ちながら、感動的な楽曲を提供している人間として、NHKに特集されました。
 

智内さんと佐村河内氏の共通点は「障害を持った音楽家」として、NHKに特集されたという点です。もちろん、智内さんは本物(の音楽家)であり、佐村河内氏は偽物であったわけですが。そういう意味で、やはりメディアに「障害」が消費されているわけであり、私(たち)も、「障害」というフィルターがある中で、その人や作品を評価しているのだろうな、と改めて感じました。
 

「メディアにとって、障害(ハンディキャップ)は消費でしかない
 

悲しい話ですが、現段階では、日本社会においてそれが厳然たる事実であると思います。以前、五体不満足で有名な乙武洋匡さんは、佐村河内氏のゴーストライター問題で、以下のように語っていました。
 

「聴き手が、何を求めていたのかってところだと思うんですよね。耳が聞こえる人が書いたのか、聞こえない人が書いたのかによらず、素晴らしい作品は、素晴らしいんだと思うんですよ。」(一部抜粋)

一部抜粋先リンク:http://numbers2007.blog123.fc2.com/blog-entry-3304.html
 

乙武さんの批判の気持ちに賛成なのですが、社会はまだそこまで成熟はしていません。しかし、だからこそ自分の意見や活動を伝えるチャンスが多い世の中だと思います。
 

自分が障害を持ったという経験や、それを乗り越えた経験を通して、社会に対して建設的な発言をすることはたくさんあるのではないでしょうか?リアルな発信でも良いですし、今はネットでも簡単に発信が出来ます。「消費されるのを待つのではなく、こちらから発信(利用)する」という気持ちが大事だと考えます。ただ、これは御涙頂戴の感動話を提供というよりは、社会の状況改善に向けた当事者目線の建設的な提案が望ましいのかもしれません。
 

当然、すべての障害者が同じように発信することは難しいでしょう。先日の記事にもありましたが、世の中には、「わかりやすい障害・わかりにくい障害」があります。まずは出来る人から少しずつ発信をしていき、社会のムーヴメントをつくっていくことが必要であると私は考えます。
 

私は、障害当事者として、「障害」をテーマにしたコンテンツを、今後もどんどん取り上げていきたいと考えていますし、発信する障害当事者を応援していきたいと思っています。私自身、勉強不足の部分があり、まだまだ「身体障害」をテーマにした内容が多くなるとは思いますが、今後は「知的障害」「精神障害」をテーマにした記事も書いていきたいと考えています。
 

最後に話を戻して。智内威雄さんは本当に素晴らしく勇気をくれるアーティストです。是非、一度、演奏を聞かれることをお勧めします。
 

※智内さんについてはこちら。
オフィシャルHP:http://tchinai.com
智内さんのことがよくわかる略歴:http://www.sbrain.co.jp/keyperson/K-7788.htm

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。