もし身近なひとがウツになったら?声をかける側の大切な心構えは3つ。

2014年8月20日。Plus-handicapとして初めてインターネットによる生配信講義(schoo)にチャレンジしました。講義の内容は「もし身近なひとがウツになったら?ウツな相手へ届く声の掛け方を知ろう!」というもの。家族や友人、職場仲間など、自分にとって大切なひとがウツになってしまったら、何て声をかければいいのだろうという疑問から、講義を実施するに至りました。
 

心の調子に異変を来しているひとに対して、「頑張ってね」や「大丈夫だよ」という声かけは、個人的に何となく違う気がします。サラリーマン1年目の頃、仕事のストレスで円形脱毛症に悩まされていた頃、「頑張れよ」と言われても「頑張ってるし!」と強く反発したり、「頑張ってるんだけどうまくいかない」と余計に心が曇ってしまったり、「そもそも頑張るとか無理」というように絶望したり。その時々で様々な反応が起こりました。そんな経験を抱えているにもかかわらず、逆の立場になったときの声の掛け方、効果的な言葉を知りません。
 

今回はウツ・ヒモ・ニートという過去を持つ広瀬さんにゲスト講師を務めて頂きながら、当事者目線での声の掛け方を考えました。実はschooの講義が始まるまでは答えを作らない、生放送の1時間でまとめあげようという魂胆だったので、いわば、ギャンブルのようなものだったのですが、声をかける側の大切な心構えを整理することができました。
 

左が進行役の佐々木、右がゲスト講師の広瀬さんです。
左が進行役の佐々木、右がゲスト講師の広瀬さんです。

 

そもそも、この講座のタイトルには「声の掛け方を知ろう」という一節があります。この言葉を用いればOKという一言を見出せればと思っていたのですが、そんなマジックワードのようなものはありませんと講義中に広瀬さんは諭されました。様々な症状があれば、回復度合いも違う。一人ひとり置かれている状況も違う。そんな多様な背景があるのに、ひとつに絞り込むことなんて到底不可能であることが理由です。
 

ただ、ウツな相手に対して、どのように接するかという心構えの部分に関しては共通点があり、実際に集約すれば3つに絞り込むことが出来ました。それは、正直に伝える・知ったかぶりをしない・いい意味で期待しないという3点です。
 

①正直に伝える
 

正直に伝えるというのは、相手のことが知りたい、状況を聞いてみたい、何か力になれることがあれば協力したいというように、自分が声を掛けようとした気持ちを正直に伝えるということです。これは、「妙な遠慮をしない」と似ているかもしれません。
 

聞いていいのかな、迷惑じゃないかなというような声をかける側の遠慮は、実は相手に伝わりやすいものです。相手からすれば「気を遣われている」と受け取られてしまう。ただでさえ、心にトラブルを抱えている状態で、自分を責めやすい状況の中、かえってダメージを与えてしまいます。
 

正直に話した結果、相手が傷つくことだってあるかもしれないじゃないかという質問もあるかもしれませんが、それはウツであろうがなかろうが、コミュニケーション上、必ずと言っていいほど生まれる問題です。相手のためだと思い行動するのならば、気にしない(自分の気持ちを正直に相手に向ける)くらいがちょうどいい。結論、余計な雑念を振り払って接することが大切だということです。
 

余談になりますが、遠慮というのは、相手のためであるように見えて、自分の心の安全を確保するためのものです。相手を傷つけたくないから言葉を選ぼうというのは、自分が相手から注意指摘されたくないという気持ちから湧き起こるものでもあります。本当に相手のことを気遣っているのなら遠慮せずに躊躇なく声をかけているはず。遠慮が生まれるということは、実は自己保身に走っているのかもしれません。
 

画面上ではこのように映っていました(パソコンで見てる場合)
画面上ではこのように映っていました(パソコンで見てる場合)

 

②知ったかぶりをしない
 

知ったかぶりというのは、「あなたのことが分かっているよ」や「ウツのこと知ってるよ」や「私もあなたと同じような経験があるから伝わるよ」というようなことを指します。そんなこと、まったくありません。経験や知識、情報といったものから、知っていることは多いのかもしれません。ただ、そもそも自分と他人が100%分かり合えることはなく、またウツを取り巻く状況も一人ひとり違う中で、相手のことを完全に理解できることはありえません。
 

相手のことを知った気で聞かないこと。知った気で聞けば先入観が邪魔をします。自分は何も知らないという前提でまっさらな気持ちで聞き、その上で相手のことを知ろうという真摯な姿勢が必要となるのです。
 

ここも余談になりますが、「分かる」や「理解する」という言葉を安易に使うひとが多いように感じます。ウツに限らず、生きづらさを抱える属性のひとの状況なんて、簡単に「分かる」わけもなければ「理解する」ことなんてできません。「分かった」「理解した」ところで、当事者の生きづらさを劇的に改善できるほどの施策は打てません。「分かりたい」「理解したい」という心がけは決して悪いものではありませんが、それらの願望は自分を満たすものであると認識することが大事です。
 

③いい意味で期待しない
 

相手に声を掛けたら、自分に返してくれるという期待をしないということが、ここでいう「いい意味で期待しない」ということです。ウツで悩んでいるという場合、簡単に他人に話せない事情を抱えていることもあれば、話したくないという感情を抱えていることもあります。自分で整理しきれていないから話せないことだってあるでしょう。これも人それぞれ、千差万別あることです。そんな相手に返答を求めることはナンセンスです。「声を掛けた」という状況をまずはゴールとし、相手から返答があればラッキーくらいの心構え。これが大切なことです。
 

客観的に考えれば、声を掛ける側は自分の意図で声を掛けるため、自分で予期していることですが、掛けられる側は自分が意図しているわけでもなく、予期できることでもありません。相手のことを想って、せっかく声を掛けたのにと思い至ったならば、もしかするとそれは上から目線なのかもしれません。ただでさえ、相手は心の状況が不安定な中です。そのような内心が伝われば、これもまた自分で自分を責めてしまう引き金になるかもしれません。いい意味で相手(相手からの返答)に期待しない程度がちょうどいいのです。
 

下記リンクから「教室に入る」をクリックすると、録画放送が見れますよ〜!
下記リンクから「教室に入る」をクリックすると、録画放送が見れますよ〜!

 

https://schoo.jp/class/1183
 

上記で挙げた3点は、あくまでもschooの講義中にまとめられたもの。Plus-handicap編集長の佐々木と元ウツ・ヒモ・ニートの広瀬さんとの掛け合いの中で整理されたものなので、サンプルのひとつでしかありません。これらの心構えですべてが解決するわけでもなければ、正解というわけでもありません。強いていうならばヒントのひとつでしょう。
 

サンプルを知らないよりは知っていたほうがいい。それは自分の行動に判断軸が生まれるからです。しかし、サンプルを持っているから大丈夫というわけでもありません。私たちが今回提示したサンプルが相手に合わなければ捨ててください。サンプルを活用しながら、最後は自分の感覚に正直に行動することが大切です。ただ、その行動の評価は相手が下すものということを忘れてはいけません。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。