カミングアウトすれば生きやすい!?

ゲイであることをカミングアウトし続けてきて「生きやすいか?」と問われれば、生きにくくはないと答えます。ただし、生きやすいと言い切れるほどの順風満帆な状況ではありません。
 

僕は高校生の頃にゲイであることをカミングアウトして以来、周囲の人にどんどんカミングアウトしていき、遂には、先日取材原稿を起こしていただいたように(参照記事:ゲイの「出会い」と「恋」と「セックス」)、NewsweekJapanの表紙で、ゲイであることを表明しつつ掲載して頂くに至りました。最近では、カミングアウトをしながら転職活動を行ってみたりなどもしました。
 

とはいえ、僕のように広くカミングアウトしているゲイはたくさんいるわけではなく、多くのゲイは、カミングアウトをしたくてもできないか、カミングアウトをしないという選択をしています。不安や恐れがあれば「できない」となりますし、そもそも性の話について何故わざわざ言わなければならないのかと考えれば「しない」という答えになることもあります。
 

© にしはらまもる
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カミングアウトに関してよく耳にする話として「自分だけが楽になるための行為だ」とか「言われる側の気持ちを考えたことがあるのか」というものがあります。これらはどちらも間違っておらず、どちらも間違っていると言えるかもしれません。
 

カミングアウトし始めの頃は、自分を肯定して欲しい、自分を承認して欲しい、という欲求を満たすためにしていたように思います。友達に嘘をつきたくない、ずっと長く友達でいたいから自分のことを理解して欲しい、という思いで伝えていました。しかしながら、友達からある程度の肯定や承認を受けてしまえば、その欲求は当然減少していきます。
 

では、その後、何故カミングアウトし続けてきたのか。それは、僕がカミングアウトする相手が、いつか誰かからカミングアウトされても、ゲイに免疫がついているように、という目的のためでした。
 

© にしはらまもる
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もし、自分が楽になるため、自分らしく生きるため、という目的であれば、各コミュニティの中にカミングアウト済みの人が1人でもいれば一応は果たせます。ゲイはノンケぶること(異性愛者のように振る舞うこと)など朝飯前なので、恋愛などの話を合わせることは容易に行えます。僕の場合は合わせるのが面倒なのでどんどんカミングアウトしてしまうのですが。ただ、カミングアウトしたら面倒くさいことはなくなるのかと言えば、そんなことはありません。
 

・セックスに関する質問が多く、具体的なことにも答えなくてはならない空気になる。
・心が女だと思っている人が多く、LGBTの基礎知識を咀嚼して説明する必要がある。
・カミングアウトを無かったことにするような振る舞いをされる場合には、相手の感情や考えを丁寧にヒアリングすることになる。
・逆に「ゲイの友達欲しかった!」と前のめりで来る人は、ゲイの世界を自分に都合よく解釈している場合が多いので、偏った知識を解きほぐすことになる。
・上記のパターンについて、同じ話を何年もの間、繰り返すことになる。
 

「面倒くさい」という言葉を使ってはいますが、上記の内容は全て想定内です。想定内なので、基本的には淡々と対応します。たまに風呂へ入るのを面倒くさいと思ったり、家事をするのが面倒だと思ったりすることと同じようなものです。「淡々と」と書きましたが、僕は何でも受け答えするので、僕にカミングアウトされてしまった皆さんは、その際、是非どんどんと好きなことを好きなように質問していただきたいと思っています。
 

© にしはらまもる
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カミングアウトすればそれだけでその後の人生はハッピーになるか?といえば、そういうわけではなく、良いことも面倒なことも、付随して色々発生しますよ、という話でした。
 

つい先日、かつての競泳界のスター、イアン・ソープがカミングアウトしました。どうやらオーストラリアでは彼がゲイであることは有名な話だったようですが、だとしてもとても勇気が必要だったと思います。彼は、ある側面ではとてもホッとしているだろうし、これからの人生をとてもポジティブに生きていけるのだと思いますが、一方で、今後面倒なこともたくさん待っているんだろうなぁと、そんなことを考えました。
 

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この記事を書いた人

網谷勇気

1978年東京生まれのゲイ。学生時代より、カミングアウト済みのノンケ友だちと、ゲイの友人たちとを繋ぐため「友だちの友だちと友だちになる」飲み会『バブル』を定期的に開催。2005年より運営を組織化し、飲み会をイベント化する。2006年、NewsweekJapanゲイ特集の表紙へ出たことをきっかけにゲイであることをフルオープン化。2008年よりゲイとしての活動を抑えていたが、2014年にバブルの組織を再編成、2015年「大切な人へのカミングアウトを応援する」NPO法人バブリング設立。