社会人基礎力と社会人フィジカルのちがい

「社会人基礎力」というものをご存知でしょうか?2006年から経産省が提唱している概念で「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として3つの能力と12の能力要素という構成で定義しています。
 

その内容は以下の通りです。
 

1.前に踏み出す力(アクション)
(1)主体性
(2)働きかけ力
(3)実行力
 

2.考え抜く力(シンキング)
(4)課題発見力
(5)計画力
(6)創造力
 

3.チームで働く力(チームワーク)
(7)発信力
(8)傾聴力
(9)柔軟性
(10)状況把握力
(11)起立性
(12)ストレスコントロール力
 

これが本当に社会人の「基礎力」なのか?という議論はこの場では控えますが、一部では「神スペック」と言われるように、求める能力が高すぎるという声もあります。
 

http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/kisoryoku_image.pdf
http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/kisoryoku_image.pdf

 

ちなみに、私はこの12要素をすべて満たしているかと言われると自信がありません。特に「規律性」なんて小学生の頃にどこかに置いてきてしまっています。ただ、経産省も、社会人基礎力の要素は定義しながらも、各項目についてどのレベルに到達すれば社会人基礎力が満たされているのかという判断基準は設けていません。意味合いとしては「社会人になるときはこの12個を人物評価の観点として参考にしてね」というメッセージでしょうか。
 

今回は私がPlus-handicapの記事の中で提唱してきた「社会人フィジカル」について「社会人基礎力」との違いから説明していきたいと思います。
 

(参照記事)
社会人スキルでもスタンスでもなく大切なのは「社会人フィジカル」
社会人フィジカルが弱いほど早期離職するのか?
 

社会人フィジカルは、社会人の能力を大きく「スキル」と「フィジカル」という2つの要素に分けたときの考え方です。私が考える社会人フィジカルの場合、チームワークはスキルの一つに分類していますので、社会人基礎力の3要素でいうとチームで働く力の部分は除外ということになります。
 

ただ、チームワークに分類されている要素でも、「発信力」「ストレスコントロール力」は社会人フィジカルが求めている能力に非常に近い印象を受けるので、この2つは「前に踏み出す力」の要素と考えています。「発信力」は「主体性」の一環ととらえ、また「ストレスコントロール力」は「セルフマネジメント力」と言い換えています。「セルフマネジメント力」はストレスコントロールを含めた自分自身を管理する能力というニュアンスです。「前に踏み出す力」に含まれる「実行力」は、社会人フィジカルにおいては、要素というよりもう少し大きい概念だと考えています。実行力の構成要素が主体性や働きかけ力というイメージです。
 

社会人フィジカルでは、社会人基礎力でいうアクションとシンキングをそれぞれ、スピードとスタミナと言い換えています。スピードはアクションの力、スタミナはシンキングの力です。スピードはあるけどスタミナがないタイプの人もいますし、一瞬のスピードでは劣るもののスタミナがあり、長期的に安定して結果を残せるタイプの人もいます。職種でいえば、営業力が強い会社はスピードタイプ、コンサルティング会社などはスタミナタイプです。世の中にはコンサルティング会社と言いながらスタミナは一切無視でスピード勝負だけの会社も多いのが現実ですが。
 

これまで私が述べてきたことをまとめると、社会人フィジカルは大きく以下のような要素に分類することができます。
 

1.スピード (アクション=実行力)
(1)主体性 (発信力含む)
(2)働きかけ力
(3)ストレスコントロール力
 

2.スタミナ (シンキング=考え抜く力)
(1)課題発見力
(2)計画力
(3)創造力
 

社会人フィジカルはスキルとは別物という考えがベースにあるので、この中からスキル的な要素を抜いたものが純粋なフィジカルということになります(厳密にスキルとフィジカルを分断することは実際のスポーツの世界においても難しいことなので、当然あいまいな領域が生まれます)。また、フィジカルですから、これらの能力の構成要素がさらにあります。筋力とか心肺機能とかのように。
 

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私が社会人フィジカルという考え方に至ったのは、若手社員研修を担当していて、「優秀なんだけど、なんだか物足りない」という印象を若手社員に対して受けたからです。
 

今の若手社員は、チーム活動が得意ですし、多様な考え方に対しても尊重しなくてはならないという意識が強い傾向にあります(できているかどうかは別として)。研修でのケーススタディなどで新入社員と30代社員に同じ課題を与えると、新入社員の方が良い成果を上げることも珍しくありません。チームワークの重要性を認識し、一人ひとりのスキルも高いのです。それでもどこか「物足りない」と感じてしまう原因を「スキルは高いけどフィジカルが足りない」というスポーツの世界にありがちな例えを思い至ったときに結びついたのが社会人フィジカルという考え方です。
 

「社会人基礎力」は神スペックと揶揄されていると書きました。ただ、私は、社会人基礎力よりも先に、社会人フィジカルを鍛えるべきだと思います。社会人フィジカルがしっかりしていれば、その後にチームワークを身に着けることも可能です。したがって、まずは社会人フィジカルの6要素を徹底的に鍛えるべきだと思うのです。短距離選手と長距離選手がいるように、人によってスピードタイプかスタミナタイプかは異なりますし、会社によってどちらが求められるのかも変わります。会社で求められる要素を鍛えていくことが重要です。
 

誤解の内容に補足をしておくと、チームワークが大切でないとは思いません。社会生活の中でチームワークなしで仕事ができることというのは多くはありません。しかし、チームの力を決める大きな要因はメンバー一人ひとりの力です。だからこそ、新入社員のうちからチームに自分をあてはめることを覚える必要はないと思うのです。最初はちょっと天狗になっているくらいでいい。「自分に任せておけばなんとでもなる、だから自分にやらせろ。」それくらいのエゴを出せる人間をつくっていくためにも、私は社会人フィジカルという概念を広げ、鍛えていきたいと思っています。
 

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この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。