社会人スキルでもスタンスでもなく大切なのは「社会人フィジカル」

4月の新入社員研修がひと段落し、振り返りもほぼ終了しました。人事担当の方、一緒に研修を受け持った講師の方々との振り返りの中で必ず出てくる言葉が、「今の新入社員って優秀だよね」です。そして、そのあとに続く言葉もほとんどみんな同じく、「優秀なんだけど、なんだかちょっと物足りない感じがするんだよね」。多少の表現の違いはありますが、ニュアンスはほぼ同じことを言っています。私自身もそう感じています。
 

「優秀なんだけど、物足りない」という、この正体は、いったい何なのでしょうか。
 

社会人としての能力を「スキル」と「フィジカル」に分けて考えると、優秀なんだけど物足りないと感じる理由が見えてきました。私が考える社会人スキルと社会人フィジカルについて説明しておきますと、社会人スキルとは社会人としてのマナー、知識のほか、論理的思考力やコミュニケーション能力などであり、社会人フィジカルとは思考し続ける力や分からないことに取り組み続ける力です。
 

サッカーではスキルとフィジカルという言葉がよく聞かれます。先ほどブラジルW杯の代表発表もありましたが、W杯常連になりつつある日本はスキルは世界トップレベルの選手がそろうものの、フィジカルが弱いと言われ続けています。スキルは高いもののフィジカルが弱いので、接戦に弱いとか、ボール支配率は高いけど、点が取れないと言っている人もいます。最近の新入社員に感じる物足りなさは、サッカー日本代表に感じる物足りなさと似ている気がするのです。
 

スキルとフィジカルについて、10年前と今を比べたイメージが下のグラフです。
 

フィジカル
 

これは、あくまでイメージですが、スキルは伸びた一方でフィジカルは微減し、全体としては能力は高くなっている。これが、優秀だけど何か物足りないと感じさせる正体です。では、なぜスキルは伸びたのにフィジカルは落ちたのでしょうか。
 

今の新入社員の世代は、大学まで浪人・留年などがないと仮定した場合、4年制大学卒だと1991年生まれです。中学生くらいから携帯電話を持ち、大学に入った時にはSNSがあった年代ですから、ITリテラシーは当然高いです。加えて、高校生や大学1年生からキャリア教育なども受けてきている人が多く、将来に関して多少なりとも考えてきています。さらに、就活支援の体制も一昔前にくらべると充実してきており、インターンを経験していたり、自分の内面と向き合うワークショップ、チームワークが試されるワークショップなどを受け慣れており、一般的なビジネススキルは高い傾向があるというのが私の仮説です。
 

一方、フィジカルに関しては、便利になった世の中であるが故に鍛える機会を奪われてしまったのではないかと思います。「グーグル先生」という言葉が使われているように、わからないことはインターネットで検索すれば調べられるようになりました。また、疑問に思ったことは掲示板に書き込めば(正否は別にして)、数分後には回答を得ることも可能です。そして、大学生や社会人に求める業務量も、効率的に進めなければ終わらない程に高度化してきています。結果的に、誰かに気に入られて(取り入って)情報を引き出したり、難解な課題に対してあの手この手で挑戦してみるという機会が減っているのではないかと思います。
 

しかし、フィジカルが強いのかスキルが高いのかを見極めるのは、数回の面接だけでは至難の業です。まして、全体としては能力が高いので、フィジカルの足りない面をスキルで補っているのか、スキルのなさをフィジカルでカバーしているのかなんて、ほとんどわかりません。
 

soccer
 

社会人スキルと社会人フィジカル、どちらの方が大切というものではありません。重要なのは総合力です。それでも、会社によってどちらを重視するのかは変わってきます。サッカー日本代表でもフィジカルの強さで有名なディフェンダーが戦術面で選ばれないということがありますよね、あれと同じです。
 

日本の多くの企業はこれまでフィジカル重視で採用し、採用してから研修やOJT(という名の放任を含む)でスキルを身に着けせてきました。しかし、スキルもある程度欲しい、スキルが伸びているんだからフィジカルもそれに応じて伸びているはずだという期待を持ってしまった結果、「最近の若い奴らは根性がない」という結論に至ってしまうのではないかと思います。
 

社会人スキルと社会人フィジカルのどちらが強いかによって、早期離職にも関連がありそうだというのが私の現時点での仮説です。その話は、また次回、記事で書きたいと思います。

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この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。