東京都の中小企業向け障害者雇用セミナーで講演者が教えてくれた意外な本音

公益財団法人東京しごと財団主催の「障害者雇用普及啓発セミナー(中小企業経営者向け)」に参加してきました。障害者雇用を計画している・あるいは障害者雇用について知りたい(東京都内の)中小企業が対象で、年6回に渡って実施される予定とのことです。
 

私が参加した今回は「第1回:障がい者雇用促進~知っておきたい障がい者雇用のイロハ~」。200名以上の参加者で会場が沸き立っており、中小企業における障害者雇用のニーズの高さを感じました。ただ、正確に言うと、参加者全員が中小企業の方かどうかはわかりませんし、特例子会社を設置できる大企業の方も参加していました。かくいう私も、個人での参加でした。
 

セミナーのプログラムは、大きく2つで、以下の通りでした。
 

・主催者による障害者雇用における自治体サービスの紹介
・障害者雇用のエキスパートである秦 政(はた まこと)氏による講演
 

私自身、1980年代から障害者雇用を進められてきた秦さんの講演を聞いてみたいという思いで参加したので、秦さんの講演内容をまとめてみます。今回は、自身が勤めていたリクルート社で設立した特例子会社のエピソードや、今後、縮小していくことが予想される日本経済の中で、障害者雇用の重要性について語っていました。
 

●障害者は障害基礎年金を受給しているので、給料は多少低くてOKなのか?
 

秦氏はリクルート社に在籍していた1980年代後半、特例子会社の設立を命じられます。当時、障害者に関する知識が全くなかった中で、印象的だったエピソードを語りました。
 

「障害者の多くが正社員ではない立場で働き、給与も満額でない(少ない)状況に疑問を感じ、知人に話を聞いたそうです。すると、返ってきた答えは、「彼ら(彼女ら)は、障害基礎年金を受給しているから、給与と合わせればそれなりの額になる。さらに、給与が高くなると、受給も減額もしくは停止になる可能性もあるので、今のままで良いはずだ。」
 

「それはおかしい。給与は成果なのだから、低いままの状況であれば、障害者のモチベーションも上がらない。そもそも年金は、障害による生活の不便等を補うものであるはずで給料とは関係ないはずだ。さらに、受給額が減れば、それだけ日本社会も財政的に助かるはずだ。だから、障害者が力を発揮できる職場をつくるべきだ。」
 

秦さんが障害者がイキイキ働ける環境づくり、リクルートの特例子会社作りに奔走し始めたきっかけです。障害の軽重・内容によって一概には言えませんが、基本的には秦氏のおっしゃる通りだと思います。自身も年金を受給している立場ですが、あえて言わせてもらうと、年金の受給はハンディキャップを負った人間に対して、国からの恩情だと思います。それは堂々と受け取れば良いと思いますが、それと給与は別で、しっかり働いてその上で、自分の職能向上等に充てても良いのではと考えます。私の場合、以前の職場では給与が低く、健常者社員も困難を強いられていましたが、私自身は、年金も使ってスキルアップ・キャリアアップを行っていました。
 

●これ以上社会保障費を増やせない日本の現状
 

こちらの図をご覧ください。
 

出典 財務省 ※厳密に言うと、セミナー時とは違う資料ですが、趣旨については同一です。
出典 財務省
※厳密に言うと、セミナー時とは違う資料ですが、趣旨については同一です。

 

少子高齢化等の影響で、国民所得(税収)が頭打ちになる状況の中、増加していく社会保障費との相関関係を表しています。当然、これらの原因がすべて障害者福祉関連ではないという前提です。
 

「障害者を雇用し働いてもらうことで、税金を納めてもらえるようにしていければ、日本経済の状況も変わっていくだろう、そのためにも、会場にいらしている方々の会社で、障害者の方が働けるような仕組みを作っていっていただきたい。」
 

秦氏もおっしゃっているように、決して障害者だけの話ではなく、フリーター、ニート、就職浪人、リストラされた年配等も含めて考えなければならない問題です。高い税金ですが、「日本という国を維持するためにも自らが税金を納めていく」という意識は、万人が持つ必要性があるのではないでしょうか。
 

●障害者雇用を実現していくために、必要なこと
 

秦さんの話をまとめると、以下3点に集約できました。
 

Ⅰ:障害者雇用をすると強く決めること。
 

2001年当時は、雇用率1.27%で、当時、本社があった山口県ではワーストカンパニーとして有名だったユニクロ(ファーストリテイリング)は、現在、法定雇用率2%を大きく上回る、6.64%(13年4月現在)を実現し、障害者雇用のリーディングカンパニーとして話題になっています。社長の柳井氏が、「1店舗1人の障害者雇用」を会社の必須目標に掲げて、その後、現在の数字に達したそうです。まずは「障害者雇用をすると決める」ことの重要性を挙げました。
 

Ⅱ:採用計画を立てること。
 

中小企業で、準備も整えずいきなり障害者雇用を行うのは無理であり、まずは計画を立てることを説き、財団が提唱している「障害者雇用を実現するための6つのステップ」を紹介しました。
 

ステップ
 

上図をご覧いただきたいのですが、障害者雇用を考える際に、最低でもこのようなプロセスを検討が必要になってきます。私の印象として、今まで、障害者雇用を考えていなかった中小企業にとっては、かなりのハードルであると感じました。
 

Ⅲ:仕事の切り出し→仕事の創出
 

現在、行われている仕事を見直してみれば、誰かの比重が重くなっていたり、非効率になっているものがあるはずで、それを障害者にやってもらうようにして、少しずつ、会社の中でポジションをつくっていってあげるべき、と説明がありました。
 

「人は仕事(をすること)で、人生が変わっていく。そのきっかけを与えられるようにしてほしい。」と、働く自信を無くしながらも自分の役割を得て、見事に会社の中で戦力としてポジションを得ていった障害者とのエピソードを語り、閉会となりました。
 

とても素晴らしいお話を聞いたと思いつつ、先日記事で紹介させて頂いた中小企業の経営者への障害者雇用の課題についてのインタビューを踏まえ、「障害者にも、働くうえで戦略性と専門性を持ってほしい」という話を聞いていたので、下記の趣旨の質問をしてみました。
 

※参考記事
・中小企業における障害者雇用の問題点を中小企業の経営者に聞いてみました。
・障害者雇用において、雇う側(経営者側)の意見を踏まえ、働く側(障害者側)に必要な2つのこと
 

「(中小)企業側に箱(受け入れ先)をつくることを求めていますが、障害者側に対して感じていることはありますか?」
 

「自分の立場・仕事は、受け入れ先をつくるためのメッセージ発信をすること。しかし、そうして作られたチャンスを生かすも殺すも障害者自身であると思っています。益々、時代が厳しくなってくる中で、障害者側も待っているだけでは、現実問題としていろいろ難しいと思います。」
 

意外な本音を聞きました。やはり、生き馬の目を抜く大手民間企業で長年戦ってこられた方の意見であり、最終的には働く側の意識も重要であると感じました。
 

社会全体で障害者雇用に関する取り組みが盛んになってきています。もちろん、全てが十分であるとは言えませんし、障害を持っている方全員が同じように活動できるとは言えませんが、雇用の受け入れをしようとする社会の環境は整い始めています。そうした社会の追い風に乗りながら、自分のやりたい仕事・できる仕事を考え、実現のために自ら一歩踏み出す時が来ているのかもしれません。

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。