雇用契約打ち切りになった身体障害の方からの相談 ―働く障害者の甘えの解決策を考える―

障害者雇用で採用となった某大手企業で働く知人Aさんから相談を受けました。内容は、採用されてから1年目で契約打ち切りになったことに対して、何とか雇用継続のための交渉が出来ないか?というものでした。
 

Aさんの証言をもとに、まずは、Aさんの経歴から時系列的に経緯をご説明いたします。
 

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Aさんは、20歳を超えてから交通事故で肢体が不自由となり、障害者となりました。その後は、特段の職能スキルを身に付けることも出来ず、職を転々とする日々。自分は一生このままなのか?と自問自答する日々の中で、CSR事業の一環で経験不問の障害者採用活動を実施していた冒頭の某大手企業と出会い、採用エージェントを通して即応募。そして、見事に職を勝ち取り、未経験ながら管理部門への配属が決まったのでした。
 

契約内容は、いわゆる契約社員で単年度更新。しかし、1年で契約が満了することはなく、普通に仕事をしていれば複数年の在籍ができると、Aさんはエージェントより説明を受けていました。契約社員だとしても、今までいた会社の倍近くの給料が支払われることで、Aさんは大喜び。これで安定した生活が送れる!未経験だけど、仕事もしっかり覚えよう。ちゃんとしたところだしきちんと教えてくれるだろう、とAさんは考えていました。
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ここで話を現在に戻します。
 

久しぶりに会ったAさんは、以下のように告白しました。
 

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「1年で契約打ち切りになりました。理由は、仕事の単純ミスで会社に大きな損害を負わせていたことらしい。しかし、そのことは事件発生時には特に告げられず、契約更新の時に初めて言われて、そのまま打ち切りでした。」
 

突然の解雇にAさんはビックリ仰天。しかし、そのことについて当人は以下のように考えているようです。
 

①入社して数か月の自分にミスを全部押し付けるのはおかしい。そもそも、管理部門の仕事の分野については初心者なのだから、ミスをしても当然。
②ミスをしたのは確かだが、特段の改善指導を受けた覚えはなく、いきなり契約打ち切りはおかしい。周りの人も何も言わず、陰口もいろいろと言われているみたいで最低だ!
③大手企業なのに懐が狭すぎる。障害者差別として、トップに謝罪を求めたい。(健常者だったらこんなことはないはずだ!)
④「複数年の契約」を前提に、この企業の仕事を紹介した人材エージェントについても、強く異議を求めたい。
 

特に③④について、実際にどのくらい行動に移すかはわかりませんが、数々の遺恨を残しながら、Aさんは契約打ち切り(終了)となりました。
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さて、皆さんは、Aさんの一件についてどう思われるでしょうか?
簡単に大別すると、2つの意見に分かれると思います。
 

①Aさんかわいそう!もともと未経験者の障害者を雇っておきながら、ミスしたらクビだななんて、仕事のさせ方がおかしいよ!!
②大きなミスをした契約社員を雇っておく必要ある?障害者だけでなく、仮に健常者だってクビだよ。第一、Aさんは新卒じゃないわけで、ミスしても当たり前という考え方が甘いよね。
 

他にも意見は出てくるでしょうし、正解はないと思います。しかし、現在の日本の雇用状況の観点から言うと、やはり障害者側に仕事に対しての認識の甘さがあることは否めないと感じます。もちろん、認識の甘さについては障害者だけの話ではなく健常者に関しても言えることですが、障害者手帳でわりと簡単に大手企業に入ることができる障害者たちにとって、この甘さは命取りになりかねません。大手は大手と呼ばれるだけあって、優秀な人間が集まっています。その中で、「ミスをしても当たり前」という考えであれば、やはり居場所はなくなるでしょう。
 

断っておきますが、障害者が全員甘えているとは言っておりません。その傾向が顕著であると言っているのです。
 

実力の120%を出せとは言いませんが、それこそ出来る限り必死に働く必要があるでしょう。職場以外でも積極的にスキルアップに励む必要もあるでしょう。組織である以上、雇用者側の論理が先に立つのは自明の理です。どれだけの努力やパフォーマンスを発揮できるか?これは、決して、障害者だけの話ではないと思います。
 

辛辣なことを書きました。偉そうなことを書いてしまいました。しかし、雇用の現場で問題の一つとなっている障害者側の甘えについての解決策はここにあると思うのです。障害当事者の私から言わせてもらうと、そもそもこの甘えの根本は「人生に対する諦め」があるように感じています。私にもありました。
 

私のような中途障害者には、「あ~あ。障害者になっちゃった。どんなに頑張っても、健常者以上にはなれないよ。生活しないといけないから仕事にも就くけど、その仕事も程々でいいよ。あとは、健常者にやってもらいましょ。」という気持ちが強いのではないかと感じています。実際に、Aさんの言葉の端々に「障害さえなければ、自分はこんなに苦労はしていないはず。損な人生だな。」という印象がありました。
 

たしかに、障害を負うことによる物理的なハンディキャップはあると思います。一度、人生が遅れてしまったことに関して、100%挽回は出来ないかもしれません。しかし、だからと言って、人生を諦めないで欲しいと願います。私も、物理的ハンディキャップと諦めにより、人生が大きく遅れてしまいましたが、なんとか必死で挽回をしているつもりですし、まだまだ挽回していきたいと思っています。
 

自分が直面している仕事に対して、失敗しても諦めずに努力をして、工夫をして、一緒に働く人(同僚)に心配りをして、どんどん成長していきましょう。そうすれば、甘えやミスだって自然と減っていくでしょう。Aさんの現状は、自身のプライドが大きく傷つけられ、生活にも大きな支障をきたしている状態かもしれません。しかし、人に謝罪を求めたり異議を申し立てたりするエネルギーは、次の仕事に回して欲しいと私は願っています。
 

障害者の仕事に対する甘え。それは、人生に対する諦めが根底にあるのかもしれません。障害者Aさんの雇用契約打ち切り問題から、そのことに気付きました。
 

障害者こそ自分の人生に対して、大きな目標を持って生きていって欲しいと思います。私自身もそうありたいと望んでいます。障害者への教育の方向性は、未来へ目線を向けられるような仕掛けを必要としているのではないでしょうか?

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。