キャリア支援に対する誤解

キャリア支援を仕事にしている人と聞いて、どんな人を思い浮かべるでしょうか。大学生であれば大学のキャリアセンター(就職課)の職員や就活セミナーなどの講師、社会人であればハローワークの職員や転職コンサルタント(人材紹介者の職員)などが思いつくのではないでしょうか。最近ではキャリアカウンセラーの資格を持っている方も増えていますから、そういった方々もキャリア支援の仕事をしているということができそうです。
 

私は上で挙げたどの仕事もしていませんが、キャリア支援の仕事をしていると思っています。転職の相談を個人的に受けるようなレベルのことを言っているのではなく、私が本業で携わっている研修やコンサルティングという仕事をキャリア支援だととらえています。研修の中で、転職相談を受けることはありませんし、場合によっては受講者は経営者や人事担当者ということもありますが、そういったケースでも私は「キャリア支援」に携わっているという自覚を持っています。
 

そもそも、みなさんの考える「キャリア」とはなんでしょうか。この定義は人によって様々でしょう。私も研修の冒頭で同じ質問を投げかけることがありますが、まったく同じ答えが出てくるということはほとんどありません。それなりに大きな企業で「キャリア形成に力を入れている」と内外に強く情報発信している企業の人事部でさえ、担当者によって「キャリア」の定義が異なることがあるのです。
 

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ここでは「キャリアとは仕事を中心とした人生すべて」という定義で話を進めていきます。
 

キャリアが仕事を中心とした人生全体であるならば、キャリア形成をしていく主体は誰なのでしょうか。キャリアを歩む本人が主体であることは言うまでもありませんが、私はその人が勤める組織もキャリア形成の主体であるべきだと考えています。そして、企業が本人のキャリア形成にもっと口出ししていくことが、早期離職を減らし、巡り巡って最後には若者無業者を減らすことになるのではないかと考えています。
 

今は多くの大学でキャリア教育が実施されています。私が大学生のときも「キャリアプランニング」なる授業が1年生の必修授業でありました。当時は必修授業にしている学校は少なかったと思いますが、最近だと多かれ少なかれ似たような授業が1コマくらい入っていることは珍しくもないようです。そういった授業の中には非常に優れたものもありますが、私の学生時代の経験と、学生から聞いた話をまとめると「適職診断を受けて、仕事について調べて、自分のなりたい姿を描いて終わり」というものです。また、社会人にインタビューしたり、社会人のゲストと対話の時間を設けたりする形式も最近は増えている印象を受けます。ただ、いずれの場合でも最後には「なりたい姿を描いて終わり」ということが多くなっています。
 

一方で、「自分には夢がない」「目標がみつからない」「なりたい職業がわからない」といって悩んでいる若者もたくさんいます。キャリア形成=将来像を描く力と思い込んでいる人たちは、将来像が描けないことに不安を覚え、劣等感を感じて悩むのです。
 

それでは企業側はどうしているのでしょうか。企業によって差が大きい部分はありますが、将来に向けたビジョンをはっきりと述べられる人材を優秀な人材と評価する傾向があります。結局、将来を描く力のある人、または誰かが描いた将来を自分の将来と思いこむことができた人の方が企業から評価をされるのですから、現在のキャリア教育も無駄ではないのかもしれません。
 

けれども、私はもっと企業が社員のキャリア形成に口出しをしていくべきだと考えています。むしろ、当人と企業が一緒になってつくり上げていくものだと思うのです。キャリアが仕事を中心とした人生すべてだとするならば、やはり中心には仕事があります。ですから、仕事の仲間は本人が望むか望まないかに関わらず、必ず本人のキャリアに影響を与えます。会社が望むキャリアや本人が望むキャリアにはどんな要素が必要なのかを考え、その要素を与えると同時に、計画の修正が迫られたときには双方にメリットがあるように計画を修正する手伝いをすることが重要なのではないでしょうか。
 

企業が社員のキャリア支援をするというと「そんなことをしたら、優秀な社員が辞めてしまうではないか」という意見をもらうことがありますが、はっきり言ってその可能性は低いです。もともと起業家志望でもない限りは、その企業でのキャリアが不透明であることが主要因だからです。特に、大企業では優秀な社員ほど年功序列的な雰囲気に早い段階で見切りをつけるタイプが多い傾向があります。(詳しくは以前の記事『若者はなぜ3年で辞めるのかの真実Part2』をご覧ください)そもそも、キャリア支援をしたら優秀な社員に辞められてしまう程度の会社であれば、遅かれ早かれその社員には辞められています。
 

また、キャリア支援をすることで、仮に退職したとしても企業に対しては「自分を成長させてくれたのは、あの会社だ」という企業に対してポジティブな印象を持ってくれます。そうなれば、大学の後輩の就職先や、友人の転職先として会社を推薦してくれるかもしれません。外資系企業ではマッキンゼー出身の方は、ほとんどの場合がマッキンゼーをおすすめしていますし、日本企業でもリクルートは起業家を多く輩出している企業として大学生にも人気の企業です。リクルート出身の方のお話を聞くと、必ず「リクルートではこのようにしていた」という話がでてきますので、退職をしたとしても決してネガティブにとらえず、むしろ企業への愛着は持ち続けているのです。
 

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しかし、このように退職企業にも愛着を持ち続けているケースというのは多くはありません。早期離職白書における調査では新卒入社3年以内に退職した者のうち約7割は退職企業に対して「不満」であると答えています。私はこれをネガティブ退職と呼んでいるのですが、3年以内離職率の高さが問題となるのは、多くがネガティブ退職であるからです。ネガティブ退職者のなかにはうつ病などの精神疾患になっているケースが約2割。退職後の仕事が決まっていないケースが2割です。うつ病、自殺、ニート、フリーターといった多くの問題に早期離職は関係性が深いのです。
 

ネガティブ退職を減らしていく方策として、企業はもっと個人のキャリア支援に介入していくべきという考え方のもと、私は企業の経営者や人事の方々を通じてキャリア支援を行っています。私はキャリアカウンセラーの資格は持っていませんし、個人に対してお金をもらって就転職のアドバイスをすることはありません。それでも、キャリア支援の仕事をしています。
 

キャリア支援というのは、個人の話を聞いてアドバイスをしたり、コーチングで何かを引き出すことだけではありません。セミナーで就活生に情報発信をすることでもありません。働くことに関わるというのはすべてキャリア支援なのです。つまり、働く現場である企業がキャリア支援に力を入れていくことが、もっとも効果的なキャリア教育なのです。

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