僕の最良の友達のひとり、右手です。

ささきの右手①
 

「俺の右手以上に、俺のことを分かってくれるヤツなんていない。」
心寂しく、懐も寂しい10代の頃、自嘲気味に私はこの言葉を使っていました。
 

彼女もいない。お金もない。暗がりの自室でいそいそと始めることと言えば・・・
自室派、トイレ派、風呂場派。様々なタイプがいますが、私は自室派でした。
 

人間には食欲、睡眠欲、性欲という生理的な三大欲求があります。
食べたいという欲求が食欲、寝たいという欲求が睡眠欲であることに対し、
性欲は男女または雌雄両性間に生じる性交への欲求(コトバンク)のことです。
上記のように○○したいと括るのであれば、セックスしたいという欲求です。
 

障害者にも性欲はあります。それは当たり前の話です。
私自身、両足が不自由ですが、セックスもすればオナニーだってしてきました。
足が不自由な分、ちょっと難しい姿勢が(うしろからとか)あったりしますが
健常者と何ら変わらないと思います。
※性的な嗜好が、という話はここでは除外します。
 

かつて私は、両腕が肩口から欠損している男性と話す機会がありました。
物怖じせず、「一人でどうやってるの?」と聞いたことがあります。
その返答は「俺な、挟んでやっとんねん。」でした。
なるほど。右手の代わりに両太ももを活用するのか。納得の答えでした。
 

食欲を満たすには何か食べればいい。睡眠欲を満たすなら寝ればいい。
では性欲はどう満たせばいいのでしょう。
 

男性は時に「溜まっている」という表現を用いるときがありますが、
射精頻度が少ないと夢精のように自然発生的に精液が出るんじゃないか
そう信じていた頃がありました。
実は古い精液はタンパク質として吸収されるので、そんなことはないんですが。
 

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もし、皆さんが事故に遭い、あるいは病気になり、
首から下が麻痺によって動かなくなったら
どうやって性欲を満たすことになるのでしょうか?
セックスであってもオナニーであっても、
身体の不自由さから考えて、自力だけで性欲を満たすことはほぼ不可能です。
 

今回、この記事を書こうと思ったのは、
セックスヘルパーの尋常ならざる情熱」という本を読んだことに起因します。
障害者に対する性的な面での支援・ケアサービスを提供している
一般社団法人ホワイトハンズの代表理事坂爪さんが著した本です。
 

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セックスヘルパーとは、本によれば、

“自力での射精行為が物理的に困難な男性身体障害者に対して、
本人の性に対する尊厳と自立の保護、そして性機能の健康管理を目的として
介護用手袋を着用したスタッフの手を用いて、射精の介助を行うサービス”

とあります。

またサイト上には射精を行うために
時間的・身体的に過度の負担がかかってしまう人が対象であると記されています。

 

最近、私はふと、自分に更なる障害が生まれたらどうしようと悩んでいます。
事故に遭うかもしれない、脳にダメージを負う病気になるかもしれない。
そうなれば、自分の生活が変わることは間違いありません。
今回は、自分の手足が動かなくなったとき、自分の性欲を満たすために
どうすればよいのだろうという疑問が発端でした。
 

セックスは楽しいものだと私は思います。
性欲を解消するためにも、愛を確かめ合うためにも。
しかし、もし自分の体が不自由になり、自力で何もできなくなったとき
パートナーに射精を介助してもらうのは、忍びない以上に精神的にしんどいです。
 

ホワイトハンズさんは
“障害者に対する性的支援を、「娯楽」や「性欲の処理」という観点ではなく、
QOL(=人生の質)の向上」という観点から、「自尊心のケア」として”

という表現を用いています。
 

私は自尊心という観点が非常に好きです。
これは障害者を支援する際に、意外と抜け落ちてしまいがちな観点。
障害の有無に関わらず、一人ひとりが自尊心を持ち、人生を切り拓ければ
生きづらさなんて発生しないのかもしれません。

 

今回は男性身体障害者の性的なエトセトラでしたが、
女性の場合や知的、精神障害者の場合、
どう対応していくのだろうという問題を考えることができます。
 

事実を事実として捉え、何が問題なのか設定し、解決策を考えることが大事です。
本には「セクシュアル・リテラシー」という言葉がありました。
今回のような性的なテーマに対し、目を背けたり
余計なフィルターをかけたりすることが一番の問題なのかもしれません。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。