【うつ病の方へインタビュー】本当に職場に戻りたいですか?〜復職と休職を繰り返す中で見つけたもの〜

■今回のインタビュー記事の掲載について
 

Plus-handicapでは、株式会社よりよく生きるプロジェクトと連携して、過去に生きづらさを抱えていたけれど、現在では前向きに生きられていると感じている方々へのインタビュー記事を全5回掲載します。生きづらさを感じている人へのヒントとなり、また、生きづらさについての理解が深まればと考えております。
 

第4弾である今回は、うつ病の方のインタビューをご紹介いたします。
※インタビュー内容をそのまま掲載できるように、名前はイニシャルにしています。
 

ケース4:うつ病Cさん30代

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インタビュアー:織田 昇(よりよく生きるプロジェクト カウンセラー)
 

織田カウンセラー(以下、O):今日はよろしくお願いします。これまでと、そして現在の状況を教えて頂いてもいいですか。
 
 
 

Cさん(以下、C):2013年10月から障害者雇用枠で、フルタイムで事務職をやっています。IT系の会社にまだ入社して2週間なんですけど(注:インタビューは10月に実施しました)、業務改善用のプログラムを組んだりして集中している時とかが楽しいです。昇格したいとか、給料あげたいとかそういう考えはなくて、自分のペースを維持して安定していけたらいいなと思っています。長時間勤務ができているので、これからも続けられそうかなって感じです。
 

前職のとき、仕事の失敗で身体の調子を崩して、休職と復職を繰り返していました。その繰り返し自体が苦しかったです。自分を責めて、ずっと布団の中で泣いている状態でした。正直に言うと、死にたいってことだけを考えていました。
 

休職と復職を繰り返してきていましたが、会社を退職して、身内の紹介でラーメン屋で接客と調理のアルバイトをはじめました。アルバイト後、就労継続A型事業所(就職が困難な障害者に就労機会を提供し、その知識と能力の向上に必要な訓練などの障害福祉サービスを供与することを目的としている事業所。利用者と雇用契約を締結し最低賃金が保証される)に勤務し、そこから障害者雇用枠で会社を紹介されて今の会社に入社しました。
 

O:前職ではどんな状況だったんですか?

前職での仕事は、自分のできる範囲のことをやっていた感じでしたが、ある仕事で失敗してしまって。学生時代から元々うつを隠してたんですが、仕事の失敗をきっかけに再発してしまって、しんどくなってしまいました。色々配慮していただいたんですが、続けられませんでした。

うつの薬の影響で集中力がほとんど続かなかったんです。注意力がないから現場に置いておくことができないと上司に言われて休職になりました。それでまた症状が悪化した。自分で自分を責めて、また薬のんで、また集中力続かなくなってっていう悪循環で。こういう復職と休職を繰り返していたことがとても辛かった。結局、前職では復職と休職を5、6回くらい繰り返したんです。目の前のことに必死で、早くこの循環から抜けたいとか、そんな考えられなかったです。
 

最後に休職したとき、復職ではなく退職してアルバイトを始めたのは、その時にちょうど産業医が変わって、何も知らないのに一方的な意見だけで、僕の復職を取り消されたっていうのがあったからです。これで精神的にダメージを受けて、頭の中が真っ白になって、暴走して。ちょっと行方不明になったりもした時期もあったんですね。
 

休職と復職を繰り返している人って世の中にたくさんいるとは思うんですけど、繰り返すほうが辛いっていうか。休職と復職を繰り返して、最終的に復職できたらそれはそれでいいんですけど。一概にそうとは言えないかもしれませんが、退職してアルバイトするということも1つの選択肢としてもっておくっていうのもいいんじゃないかと思います。
 

休職・復職を繰り返していた
休職・復職を繰り返していた

 

O:休職と復職を繰り返していたところから、長時間で働けるようになった。変わったきっかけって何だと思いますか?

C:一番の要因は家族です。アルバイトの最初の頃は週に2回くらいしか働けなかったのが、実家から通うことで、少しずつ時間が伸ばせるようになって、自信がついていきました。母は仕事が忙しいんですけど、その合間をぬってでもご飯を一緒に食べてくれて、僕の相談にのってくれたんです。前の会社の時は1人暮らしで実家とは離れていて、会社と家だけの生活でした。とにかく頭の中がまとまらなくて、身体がついていかない状態。そのせいで体調を維持できなかったところもありました。
 

また、仕事を覚えていって、アルバイトの店長から認められたんです。店長がオーナーに直談判してくれて、「C君頑張っているから、もう少し時間延ばしてみようと思うんですが、大丈夫でしょうか?」って言ってくれたんです。そういう風に言ってくれたのが嬉しかったんです。それだけ回復してきたんだなと思って。
 

うつが再発したらとか、心配はほとんどしていません。今は楽です。一番楽なのは、もう隠す必要がないっていう。完全に障害者の枠で働いているので。
 

O:聞いていて思ったのが、一度はじめたら「続けなきゃいけない」っていうことに苦しんでいたような気がしたんですが。周りに合わせ過ぎていたっていうこともあったような印象も受けました。

C:だと思います。「続けない」っていうのと「頑張らない」っていうのは違いますよね。「続けないこと」は「頑張っていない」ことじゃないですよね、きっと。
 

前の会社の時は、自分のテンションを無理矢理上げて周りに合わせようと必死でした。じゃないと、仲間外れにされる気がしてすごく怖かった。
 

今は全然そんなことなくて、周りに合わせようとか思ってないです。ずっと低いテンションが続いてると見られていると思います。無理に合わせなくても、自然と周囲に合わせられるようになったんです。自分のペースが身体でやっとわかってきた感じです。主治医の方からも「めちゃくちゃ回復しているね」って言われました。
 

あと、何でも自分でなんとかしようとしすぎちゃうことが多くて、人に頼るとか頼むことが苦手でした。実家に帰って、親が頼ってくれて構わないって言ってくれているので、なんだかんだ家族がいて、落ち着きます。結局それでも自分で何とかしようとはするんですけど。言ってくれるだけ心持ちに余裕ができました。
 

結果的には、苦しかったことがあったから、無理しなくていい状態・今の落ち着いた状態があって、前に進める感じが持ててます。
 

O:この話を聞いて、たくさんの人が勇気づけられると思います。やっぱり休職中の人って絶対に戻らなきゃいけないっていう意識があるのかもしれない。「どうやったら戻れるんだろう?」っていうのも大切ですけど、それは戻ることが前提の考え方で「そもそもそこに戻りたいの?」っていう。道を変えることが結果として良い方向に向かったっていうことなんだと聞いていて感じました。

C:お世話になった先輩とかいたので、僕も戻りたかったことは戻りたかったんです。復職しないことで、その人たちを裏切ってしまう感じがしていました。
 

でも、大事なのは、病気から一度目を離して、病気を意識しないことじゃないかなと思います。うつがひどかった時は、常に頭の片隅に病気のことが意識にあったので。だから、最終的に復職目指す人も、一度違うものに目を向けて、興味のあるものを勉強してみたりするのも道が開けるんじゃないかな。
 

自分が変化したって気づいたのは、ラーメン屋でアルバイトしていた頃です。認められて自信がついたんだなと。あとは、就労継続支援A型事業所の頃に、パソコンは得意だったんで、「こういうのつくって」って言われて書類をつくっているうちに、あ、楽しいって。プログラミングとか学ぶ前だったんですけど、
 

それで、今の会社入って、もっといいものつくれないかなと思って、空いている時間とか使ってマクロ(ワープロソフトや表計算ソフトなどで、特定の操作手順をプログラムとして記述して自動化する機能)組んだものをつくってみたんです。マクロを組んでいると楽しくて。
 

上司に見せると「すごいな~。よくこんなんできるな~!」って言われました。やっぱり好きなことだと、そうやって空き時間とか使ってでもやっちゃうんですよね。だから、休職している人も、自分のちょっと得意だとか、興味のあることにちょっと意識を向けてみて、ちょっとした行動からしてみるといいかもしれないです。
 

一度、今の状態から目を離してみる
一度、今の状態から目を離してみる

 

O:貴重なお話ありがとうございました。

C:ありがとうございました。
 

インタビュー後記

今回のインタビューで感じたのは、人間は一つのことに視点が集中しがちだということ。特に心の状態が悪い時には、考えが固着してループ状態になってしまう傾向があると感じました。
 

「どうやったら復職できるんだろう」
「なんで復職できないんだろう」
「自分のどこが問題なんだろう」
 

考えれば考えるほど、復職するための情報を検索し続けます。でも復職することで頭がいっぱいになって、復職以外の道は見えづらくなります。このように問いの立て方を間違えて考えれば考えるほど、絶対に”正しく”間違えます。なので、いつでも最初の問いが重要だと今回のインタビューでも感じました。
 

偶発的な出来事があったにしても、Cさんがそこから抜けられたのは、自分の興味のあることや好きなことに意識を向けたことや、家族のサポートによって心の状態に変化が起こって、固着した状態から緩みができ、考え方が変化して、行動に変化が生まれていきたのではないかと思います。
 

その結果Cさんは、今の状況から目を離すことでき、別のところでアルバイトをするっていう「復職する/復職しない」の2つの外の第3の道が見え、本当は自分のペースで働けて、なにかを創ったり工夫したりするのが楽しいのではないかということに気付いたんだと思います。
 

もし今の状態から目を離すことを自ら作り出すためには、原因やどうやったらいいかの方法にとらわれずに、一度制約を外す未来への問いを自らにしてみることをオススメします。
 

「本当はどうなったらいいんだろう?」
「何の制約もなかったらどうなっていたらいい?」
 

もし今、苦しんでいる方がいらしたら、この方法が何かのヒントになれば幸いです。
 

インタビュアー 織田昇

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