メンタルの浮き沈みが激しい人こそ、自分の平常時を把握することが大切。ー株式会社リヴァ 松浦秀俊さんに聞く

自分の心の調子の浮き沈みを普段から気づき、調整できている人はどれだけいるのでしょうか。
 

うつや双極性障害(気分が高まる躁状態と、気分が落ち込むうつ状態を繰り返す精神疾患)の方などを対象とした復職、再就職支援を行う株式会社リヴァ。今回お話を伺った松浦秀俊さんは入社7年目で、ご自身も双極性障害Ⅱ型を抱えるピアサポーターでもあります。
 

「メンタル面に不安を抱えつつも、企業で働くにはどうすればよいのか」というテーマで松浦さんにインタビューしました。
 

株式会社リヴァ 松浦秀俊さん

 

自分の取扱説明書をつくる

 

ーリヴァさんはうつや双極性障害の方に対するサポートを続けていると聞きました。
 

これまでリヴァを使って社会復帰された方は558名(2018年3月時点)。その中で双極性障害の方は15%の84名います。いろいろな方を支援してきましたが「双極性障害の人全員に当てはまる・対処できる」というマニュアルはありません。気持ちの浮き沈みだけでも一人ひとり全然違いますし、広いカテゴリの中で「双極性障害だろう」っていうことなのかなと思います。
 

ー気持ちの浮き沈みが激しいことで「働き続けること」に対する課題を抱えている方が多い印象を受けます。松浦さんが復職や再就職への支援を行う上で、大切にしていることを教えていただけますか?
 

当社でやっていることの一つに「自分のトリセツ(取扱説明書)をつくる」というワークがあります。例えば、うつであれば、気持ちが下がる前のきっかけ、気持ちが下がっていくときに現れる状態やその対処、そして自分の平常時を定義していきます。平常時を定義することが一番大事で「気持ちが上がっても下がってもいない状態をどのようにキープしていくのか?」を明らかにしていくのです。
 

ーたしかに、自分の平常時が定義できていないと、気持ちが落ちている状態をそもそも把握できないことも。定点を知らなくては、異変に気づけないですね。
 

自分のトリセツをつくるという取り組みは障害の有無など関係なく、やったほうがいいことだと思います。ただ、こういう疾病にならないと、その重要性に気づかなかったり、向き合う機会がなかったりするかもしれません。
 

サイトのスクリーンショット

 

私はイチロー選手にならって「自分のプロになりましょう」と言うことがあります。アスリートは自分の体や心の状態をよく観察します。自分がこういう状況のときは、こういう調子になる、みたいな。アスリートじゃなければ見つめないような、体と心の小さな変化を見つめることに価値があるんじゃないかなと思います。
 

ー「自分のプロ」ってカッコいいですね!松浦さんご自身が働き続ける上で大切にされている心持ちってありますか?
 

「細く長く」みたいなスタンスでいます。昔は短距離走的な意識でした。私の場合、軽い躁状態のときって、寝なくてもいいくらいテンションが上がっているので、夜中でもどんどん調べ物をして、そのペースで3カ月くらい走り切ってしまうんです。
 

でも、今は刹那的な生き方でなく、マラソンのように、ペースを保って一定にやっていくという心持ちです。やれると思っていてもあえて抑える。日頃から余白を残すような生き方です。リヴァで働き続けて7年になりますが、実績や信頼って小さなものでも積み重ねれば価値になるし、自信につながるんだと気づきました。
 

相談相手を2人立てることが効果的

 

ーメンタルの浮き沈みが激しい人をマネジメントすることはなかなか難しいと感じます。今までたくさんの方を支援してきた中で見つけたヒントなどはありますか?
 

自分にとってありがたかったことを最初に思いついたのですが、それは、入社してからずっと一人の特定のスタッフが自分の相談役を務めてくれていることです。直属の上司は変わったとしても、相談役はずっと同じです。
 

ー相談役と上司、それぞれ別の相談相手をもつということですか?
 

本当に気持ちが落ちているときって、その背景を伝えるパワーがないんです。そんなときに、まだ関係性ができていない上司しか相談相手がいなければ、何も言わないまま、いろいろと抱え込んで休んじゃったりすると思います。だから、日常的な困りごとは上司、気持ちが特に落ちたときの緊急相談窓口は今までの経過を知っている相手というように、相談相手を二人立てられると助かります。
 

ー緊急時の相談相手は専門家のほうがよかったりしますか?
 

「この人だったら話せる」という関係性をつくれるかどうかですね。この場合の相談役はメンタルの専門家じゃなくてもいいと思います。
 

ー二者間で、どこまで情報共有はされていた方がいいのでしょう?
 

上司も相談役の人も、緊急時の情報と悩みごとの経過を共有してもらえているとありがたいですね。また、できていないところではなくて、どこができているかみたいな視点で関わってもらえることも重要かもしれません。以前、状態を崩した時と比べて何ができるようになったという共有も嬉しいですね。
 

ー他にマネジメントする上で、知っておいたほうがいい点などはありますか?
 

双極性障害でいえば、軽い躁状態のとき、気持ちがハイになっているときの関わり方も重要なんです。私の場合だと、相談役の相手とはフェイスブックでつながっているんですが、私の投稿が増えるとメッセージで「ちょっと動きすぎじゃない?」と送ってもらうことがあります。そのメッセージを見て、活動をセーブすることがあります。
 

ー個人的な話かもしれませんが、気持ちが高ぶっているときって、周囲からの指摘を素直に受け入れられないような感覚があるんですが。
 

たしかに、理性が働きにくい部分があって、指摘をすんなり受け入れることができないときも多々あります。なので、日頃から信頼している相手からの言葉が大事です。自分の気持ちが落ちているときにもきちんと関わってくれて、気持ちのアップダウンを知ってくれている相手ですね。「調子のいいときだけを見て、評価されているんじゃないか?」と感じると、素直には聞けないかもしれません。
 

ーそれは双極性障害に限らず、ふつうの人間関係でも同じですよね。
 

精神疾患に限らず「調子が悪い状態」を気づいてくれる人はいますし、「気持ちが高ぶっている」と気づいてくれる人もいます。ただ、その両方を気づいてくれる人はあまり多くありません。自分の周囲に一人でも多くいてくれるとありがたいですね。
 


 

「自分の平常時」を具体的に把握することができているひとは、どれだけいるでしょうか。話題に上がった「自分のトリセツ」など、松浦さんのお話は「精神疾患の人にとって必要なこと」という枠を越えて、「誰もが生きていく上で身に付けたいこと」のように思えました。
 

普段よりも調子がいいときにブレーキを踏むことは難しいですし、「細く長く」続けるということも忘れてしまいがちです。仕事に限らず、人生そのものに長距離走的な視点が必要なのかもしれません。
 

ご自身の体調管理や調子が悪い時の仕事の調整の仕方など、突っ込んだ質問を数多くしたにも関わらず、真摯に一つ一つを受け止めて回答してくださった松浦さん。懐の深さとやわらかな雰囲気を感じることで、利用者の方々が相談したくなる気持ちに気づくことができました。支援する立場の方がここまで自己開示してくれると、支援を受ける側も安心して話すことができる。そんな想いが心によぎりました。
 

ライター:森本しおり
 

株式会社リヴァ
東京都豊島区高田3-7-9花輪ビル1F
https://liva.co.jp/

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