「実家帰らないの?」という気の利かない質問に対する不満。

「実家帰らないの?」と聞かれるたび、私は困ってしまいます。
 

この質問は、ふんわりとその人のルーツを探っていることもあれば、ただの世間話として長期休暇に帰省する予定があるのか聞いていることもあるでしょう。話題をつくるために、いろいろな場面で使える便利な質問です。
 

気軽に聞いていることがほとんどだとわかっていますし、そこまで気負って答える必要もないはずだと頭ではわかっています。しかし、この質問をされるたびに、私は心のどこかが引っかかるような気持ちになるのです。
 


 

考え過ぎかもしれませんが「実家帰らないの?」という質問には「生まれ育った家に両親が住んでいる」という前提があるように感じてしまいます。そして、私はこの前提がまったく当てはまりません。
 

「実家」を辞書で調べてみると、

1.自分の生まれた家。正家。また、父母の家
2.旧民法で、婚姻または養子縁組によって他家にはいった者の、元の家。
https://kotobank.jp/word/%E5%AE%9F%E5%AE%B6-521103
 

とありましたが、それでもなお、どう答えていいのかわかりません。
 

父は仕事柄、海外出張や転勤が多く、私はアメリカで生まれました。こう話すと「じゃあ、英語がしゃべれるの?」とよく聞かれるのですが、生後半年で日本に来たので、全然しゃべれません。残念。高校生になるまでに5回引っ越しをしたので、どこで育ったのか?という問いにも迷います。
 

「実家」は家の場所以上に、そこに住む家族が重要です。私の両親は約15年前に離婚し、その後10年ほど、母、私、弟の3人で暮らしました。私が「実家」と聞いて一番に思い浮かぶのは、この家なのですが、私と弟が独立するタイミングで引き払ってしまいました。
 

現在、家族はそれぞれ一人暮らしをしています。ちなみに、誰の家も行ったことがないですし、お盆やお正月といった長期休みのときにも家族とは会いません。
 


 

私の場合は父の転勤と両親の離婚が関係していますが、「実家帰らないの?」と聞かれて答えに詰まる人は、他にもいるのではないでしょうか。
 

親の仕事の関係で引っ越しが多い人は一箇所に住み続けることがむずかしいですし、住む場所が変わる理由はいくつも考えられます。親が離婚をしたり、亡くなったりすれば、親戚に預けられたり、施設に預けられたりすることもあり、育ててくれる人が途中で変わることもあるでしょう。自分が大人になった後も、両親が一緒に暮らし続けるとは限りません。
 

「実家がどこなのか」迷う人は、自分で「実家はここ」と決める必要があるのかもしれません。ただ、一番長く住んだ場所が実家になるとは限りません。私の中では、実家の場所を聞かれたら自分にとっての「心のふるさと」の場所を聞かれているのかな、と思って答えています。
 

「実家」という言葉には、ホームドラマのようなあたたかい響きがあります。「実家」と聞くと、一家団欒しながらご飯をワイワイ食べているシーンが思い浮かびます。たまに喧嘩やゴタゴタはあるけれど、それでも最後には丸くおさまるような、そんな「あたたかい家族」や「しあわせな家庭」のイメージが湧きます。
 

私の中にだって、こんな「実家」のイメージがあります。実際に生まれ育った家や家族とはずいぶん遠い姿です。このイメージは、どこからやって来たのか我ながら不思議です。
 

でも、こんな「実家」って、ひとりひとりに本当にあるのでしょうか。「実家帰らないの?」という気軽な問いかけは、むしろ重たい問いかけになっているのかもしれません。
 

記事をシェア

この記事を書いた人

森本 しおり

1988年生まれ。「何事も一生懸命」なADHD当事者ライター。
幼い頃から周りになかなか溶け込めず、違和感を持ち続ける。何とか大学までは卒業できたものの、就職後1年でパニック障害を発症し、退職。障害福祉の仕事をしていた27歳のときに「大人の発達障害」当事者であることが判明。以降、少しずつ自分とうまく付き合うコツをつかんでいる。
自身の経験から「道に迷う人に、選択肢を提示するような記事を書きたい」とライター業務を始める。