少し前に『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』という漫画が話題になりました。過労自殺するくらいなら、何故その前に辞めなかったのか?そう言われても、当人には冷静な判断をすることさえできなくなっている、ということを伝えてくれている漫画です。私もかつて冷静な判断ができない状況になったことがあるので、よくわかります。
それでも私は新入社員のみなさんに伝えたい。「辞めたくなったら徹底的に逃げろ」と。
私は会議中に涙が止まらなくなって辞めた
大卒新卒者の3割が3年以内に辞めるということを報道などで知っている方も多いと思います。最近の若い人は根性がないから辞めるという人がいますが、30年前から3年で3割という数字は変わっていません。昔の人も根性ないですね。
私自身も新卒で入社した会社を1年10か月で辞めました。辞める数か月前から、朝起きられなくなる、普段やっていた仕事ができなくなる、頭が働かないなどの症状が出始め、ある日、社内での打ち合わせ中に突然涙が止まらなくなりました。数日後の打ち合わせでも同じように涙が止まらなくなり、退職を決意しました。
上司にメールをして面談の機会を設けてもらい「辞めます」と一言。年末だったので「年末年始の休みを使ってちょっと考えて」と言われたものの、決意は変わらず、月末での退職が決定しました。
そのあと、私は徹底的に逃げました。お世話になった方々へのあいさつもメール一本で済ませ、退職のあいさつも特になし。支給されていた電話もPCも電源を切り音信不通状態に。この時の徹底的に逃げた経験が私の精神状態を安定させてくれた気がします。
この時の逃げた話をすると「なぜ、逃げるという判断ができたのか?」と聞かれることがあります。逃げることができたのは、それ以前に私の身近な人が精神疾患で亡くなっているからです。運よく「死ぬくらいなら逃げ出して辞めよう」という判断ができました。
「ここで逃げたら他でも通用しない」は本当なのか?
私のような「さっさと逃げればいい」と主張する人に対して「3年も持たずに逃げる奴はどこに行っても通用しない」と反論してくる人もいます。転職市場において新卒3年以内に辞めると不利になることもあるのは事実ですし、最近は第二新卒市場が活況とはいえ、新卒採用に比べれば選択肢はまだまだ少ないのが現状です。
逃げたことで不利になったとしても、他でも通用しないかどうかはわかりません。いや、むしろ「通用しないぞ」って言ってくる人は社会で通用しているのでしょうか。そもそも「通用」の定義って何なのでしょうか。
もし仮に「会社員として雇用され、異動、転勤、出向、パワハラなども甘んじて受け入れながら会社に貢献し、退職まで勤め上げ、退職金をもらう」ことが「通用」の定義ならば、たしかに3年も持たずに辞める人は通用しない可能性は高いです。少なくとも私にはそんなこと絶対にできません。
逃げ出した人は「低レベルクリア」を目指せ
ここで「通用」の定義を「人生の主導権を自分で握り、幸せに生きる」とした場合はどうでしょう。雇用されなくても幸せは手に入りますし、そもそも職業も不要かもしれません。雇用されるとか、出世するとか、給料が上がるとか、それらは幸せになるための手段でしかありません。
これはTVゲームのRPGに似ているかもしれません。RPGのゲーム内の目的はラスボスを倒すこと。多くの場合は様々な敵を倒して経験値を上げ、強い武器を手に入れて強敵のラスボスに挑みます。イメージとしては下積みから徐々にスキルアップしていく会社員のようなものです。
しかし、RPG好きの方の中にはいわゆる「縛りプレイ」や「低レベルクリア」という楽しみ方をしている方もいます。「強力な技や武器を使うの禁止」など自分で縛りをつけるのが「縛りプレイ」。理論上の最も低いレベルでクリアするのが「低レベルクリア」です。
辞めたくなって逃げだした人が幸せに生きるには「低レベルクリア」を目指すことをおすすめします。
「低レベルクリア」は敵を倒して経験値を得ることを良しとしません。敵に会ったら逃げまくります。まさに逃げの戦略です。
逃げれば逃げるほど強くなる必殺技を磨け
世界的に大ヒットしたファイナルファンタジー7(FF7)というRPGの中に「チョコボックル」という技があります。この技は逃げれば逃げるほど強くなる技で、低レベルクリアには欠かせません。実はFF7にはラスボスも一発で倒してしまうほどの超大技があるのですが「チョコボックル」は使い方次第では超大技に匹敵する強さを発揮することができます。
一方、まったく逃げずに愚直にレベルアップをしてきた人にとって「チョコボックル」は弱小技でしかありません。逃げた人ほど強くなれる「チョコボックル」のような技があれば、たくさんの敵を倒した武勇伝を語らずに、幸せに生きることは可能です。
ここまではゲームの話ですが、実際の社会においても逃げの経験や失敗経験が強みになることはたくさんあります。私自身は高校生向けにキャリア教育をするときに自分の逃げ出した経験や失敗経験を語ります。失敗談を語ったあと、それまで机に突っ伏していた生徒が真剣な目でこちらを見てきます。
社会人向けの研修でも冒頭で述べた「涙が止まらなくなって辞めた」体験を話すと、斜に構えた雰囲気の受講者の方がメモを取り始めて、終了後に質問に来ることもあります。そのとき尋ねられることは、決まって「なんで、逃げるっていう決断ができたのですか」です。
一緒にキャリア教育の現場で登壇する人の中には、逃げずに頑張り続けたことが自慢という人もいますが、高校生には響きません。自慢に聞こえてしまうのです。逃げだした経験がある人間の方が信用してもらえる、有利になるということは実際にあるのです。
逃げれば逃げるほど強くなるには逃げを認めることから
私自身は逃げを繰り返してきた人生ですし、今も嫌なことからは逃げ癖があります。むしろ、プラス・ハンディキャップという団体は嫌なことから逃げる人たちの集団です。だから逃げが悪いことだとは思っていません。
逃げが悪いことだと思っていないからこそ「自分は逃げたんじゃない!」なんていうこともありません。「辛かったから逃げました。以上。」で終わりです。
逃げるのは悪いことではない、辛かったら逃げればいいと口で言いながら「自分は逃げたんじゃありません」と言う人がいます。本当は辛くて仕方がなくて会社を辞めたのに「退職理由はスキルアップのためです」などと言ってしまう人です。心のどこかで「逃げる=悪いこと」というイメージがあるのでしょう。
逃げるという行為は一つの戦い方です。幸せに生きるという目的達成のための一つの手段でしかありません。その時々の状況において、最適な手段は変わります。逃げが良い手段のときもあれば、悪い手段のときもあるでしょう。
逃げたっていいんです。でも、逃げたことを認めてください。逃げたと認めないで戦い続けることは自分を追い詰めるだけです。
辞めたくなったら徹底的に逃げろ
この記事を読んでいる方の中には、学生から社会人になったタイミングで生活の環境が変わり、イメージと現実のギャップに打ちのめされてしまう人もいるかもしれません。まだ戦えそうだなと感じているなら戦ってみましょう。ただし、一人で戦うのは辞めましょう。そして、瀕死になる前に逃げましょう。
また、一度逃げると決めたら徹底的に逃げましょう。誰になんと言われようが、罵詈雑言吐かれようが逃げるのです。周りに相談して周りが敵に見えたら、相談相手からも逃げましょう。お金の心配、周囲の目の心配はあとからしましょう。お金がなかったら借りればいいんです。生きていれば大抵の借金は返せます。
中途半端に逃げるのは、中途半端にレベルを上げながら、逃げるほど強くなる「チョコボックル」のような技にも磨きがかからないという最悪の状態です。だから逃げると決めたら徹底的に逃げるのです。
逃げて、逃げて、逃げて、そして、逃げるのに疲れたら少し休んでから先のことを考えればいいんです。
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