【イベントレポート】デンマークに留学して得たもの解放されたものー大きく変わった”福祉”と”障害者”に対する考え方。27歳女子の本音ー

3月3日、EDITORY神保町でトークイベント「デンマークに留学して得たもの解放されたものー大きく変わった”福祉”と”障害者”に対する考え方。27歳女子の本音ー」を開催しました。
 

2017年1月から「デンマーク留学記」を書いてくれた高橋菜美子さんをトークゲストにお招きし、福祉大国と呼ばれるデンマークの実情や文化、人々の考え方の違い、彼女自身の家族のことなどを話していただきました。そして、留学のきっかけとなった「障害とは何か?」という問いに対する高橋さんなりの回答、留学先で見つけてきた「幸福のレシピ」を教えてくれました。
 


 

ある日突然やってきた「障害」と向き合うために旅立ったデンマーク

 

高橋さんは、ウェディングプランナーとして多忙な毎日を送っていた24歳の頃、転びやすくなった自分自身の異変を感じて病院へ、そこで体の筋力が徐々に衰えていく難病にかかっていることが発覚しました。
 

自宅で療養していたとき、お姉さんからふと飛び出てきた「ねぇ、菜美子、私、介護できるかな?」という一言。日本は家族介護が多く、家族内の女性に負担がかかる傾向にあります。その一言をきっかけに、家族、障害、自分自身の生き方について見つめ直すために、デンマーク留学へと旅立ちました。
 

福祉が充実していること、国別の幸福度ランキングで1位を取ったことでも有名なデンマーク。そこには「人生の休憩所」と呼ばれる教育機関「フォルケホイスコーレ」が約70校あります。その中で、障害者と健常者が共に学ぶエグモントフォルケホイスコーレを彼女は選びました。
 

高橋さんは、イベントにて、留学生活を次のような一言で振り返りました。
 

学校での日々の生活や友人との小さい暖かい会話。その全部が日本での常識を覆すもので、覚えておきたいと思うことばかりでした。忘れないために書いた300近くのメモの中で「これは重要だ」と感じたものを「幸福のレシピ」と名付けてまとめました。そのうちの9つを本日は紹介したいと思います。

 

今回のイベントレポートでは、紹介してくれた「幸福のレシピ」の中から2つをご紹介します。
 


 

幸福のレシピ「ハードよりハート」

 

高橋さんがデンマークに着いてすぐのこと、想像していたものとまったく違う福祉の考え方に遭遇しました。それは、街中で目の不自由な方に「近くのカフェに連れていってもらえませんか」と話しかけられたときのことです。
 

デンマークって、点字ブロックがすごく少ないんですよ。福祉大国と言われているからバリアフリーとかすごく整っているのかと思いきや、もうめちゃくちゃバリアだらけだったんですね。

 

点字ブロックがないのにどうやって移動しているのか。不思議に思った高橋さんが学校で先生に聞いたところ、返ってきた答えは「経験か、あとは人に聞いて目的地まで連れて行ってもらう」でした。
 

誰かに聞いたら必ず教えてくれるっていう国民性なので、デンマークの人って拒絶されることを想定していないコミュニケーションをとってくるんですよね。手をつなぎながら話したり、肩を組んだり、ものすごく距離が近いです。コミュニケーションを見ていると「信頼度で成り立っている国だな」と思いました。「ハードよりもハート」でカバーしている部分がすごくあります。

 

日本では「目的地まで誰かに連れていってもらえばよい」と考えることはあまり多くありません。頼むことへのハードルも高く感じますし、頼まれた側も警戒してしまうでしょう。そんな背景があるからこそ、誰かに頼むという負担を減らせる「ハード面の充実」はありがたいものです。
 

しかし、ハード面だけでは限界があり、臨機応変な対応が追いつきません。イベントにお越しいただいた聴覚障害の方の意見で「電子機器など技術は向上しているけれど、電池が切れたら使えない。最終的に頼るのは人です。」と発言されていたことが印象に残っています。
 

人と人との距離が近く、見知らぬ人まで信頼して暮らすデンマーク。前提となる国民性が違えば、理想とする福祉も違ってくるのかもしれません。
 

デンマーク留学中の様子

 

幸福のレシピ「誰かと違うことは当たり前だと気づくこと」

 

高橋さんが印象に残った学校のイベント。それは「タレントレス」のカラオケ大会。つまり「才能の無さ」を競い合い、みんなに披露して笑いに変える主旨のカラオケ大会です。
 

脳性まひなどで上手く言葉が話せない人が歌うカラオケ。これは日本ではなかなか想像しづらい光景ですが、デンマークの人々が自分の障害を笑い飛ばせる理由について、高橋さんはこう語ってくれました。
 

なんでこういうことができるのかな?と考えたら、デンマークって「比較をしない文化」が根付いているんです。テストも基本的に9年生くらいまでないし、音楽や美術の感性の世界、体育での体力の違いなど、そういったことに点数をつける文化を積極的になくしていった国なんです。

 

比較をしない文化の背景には、19世紀に発達した個人主義の考えがあります。
 

個人主義って「自己中心的な考え方なのかな?」と私は思っていたのですが、それは勘違いでした。自分と相手は違うんだということを認めて、違いを補い合うのがデンマークの個人主義の考え方なのかなと思います。

 

自分と相手の違いを認めること。これは必要性を認識していても、実際に認められるかどうかは別問題です。正直、私には自信がありません。私自身、優劣によって他者との比較を繰り返していたから、違いを認めることを難しく感じてしまっているのかもしれません。
 

数値化された評価は、必然的に優劣や上下関係を生み出します。違いを認めることは、良し悪しの評価をしない、個の価値観を尊重する考え方です。デンマークの人々に根付く精神についての説明が、私たちが普段意識していないような当たり前に対する「それでいいの?」「別の考え方はないの?」と考えるきっかけを灯してくれました。
 

どんな障害を抱えていても、全力で楽しみ、周囲がさりげなくサポートする

 

デンマークへ旅立って変わったもの

 

「障害とは何か?」の答えを探しにデンマークへ留学した高橋さんは、帰国後のコラムで次のように表現していました。
 

福祉制度のことなんてこれっぽっちもわからなかったけど(笑)福祉の精神はわかるようになりました。

 

障害者を知らなかった私は、もっとわからなくなって帰ってきました。答えなんてなかったんです。世界は私とあなたでできていて、障害者なんて、いないんだから。

 

質疑応答にて「ねぇ、菜美子、私、介護できるかな?」と尋ねてきたお姉さんが、今どのように高橋さんのことを考えているのかという問いがありました。その回答は「最近、あまり菜美子のことを気にしなくなった。私の人生は私が主役だから、って言ってます」でした。
 

デンマークに旅立つ前は「障害者の高橋菜美子さん」だったのかもしれませんが、デンマークでいろいろな葛藤やモヤモヤに向き合い、知らなかった世界に触れることで、たくさんの幸福のレシピを集めた頃には「障害者」という枕詞がなくなった「高橋菜美子さん」になった。障害が「向き合うもの」から「ただあるもの」に変わったのかもしれません。
 

高橋さんは、週4日の会社員生活を送りつつ、前々からチャレンジしたかった伝統工芸品に関わる仕事の一環としてライター活動を行っていくとのこと。その活動も応援したいけど、幸福のレシピを多くの人に届ける仕事もやってほしいなという勝手な希望を送りながら、高橋さんのこれからを応援します。
 

(ライター:森本しおり)
 

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